ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

地元市町村の医師確保の努力

2008年11月26日 | 地域周産期医療

近年、産科医療は大勢の専門医がチームを組んで診療にあたるスタイルに大きく変貌を遂げつつあり、多くの病院で現状のマンパワーのままでは産科部門の維持が非常に困難な状況となってきました。『連携強化病院に、産婦人科医・小児科医を重点配置する』という県全体の大きな流れの中で、産科部門がいったん閉鎖に追い込まれた(連携強化病院ではない)地元の病院に産科部門を復活させようとすれば、地元市町村としても、相当に思い切った医師確保対策が必要となります。

また、医師確保対策が奏功して産科部門を一度は復活できたとしても、その後の安定した医師の供給が期待できない場合は、将来的に産科部門の維持がまた非常に困難となる事態も予想されます。従って、今後も引き続き医師確保の努力を継続する必要があります。

連携強化病院の指定は診療実績をもとに数年ごとに必ず見直しがある筈です。いくら過去の栄光が素晴らしい名門病院であっても、深刻なマンパワー不足で十分な診療ができなくなってしまった場合は、連携強化病院の指定を解除されても止むを得ないと思われます。逆に、現時点では不十分な診療体制の病院であっても、病院や地元市町村の自助努力で、産婦人科医、小児科医、麻酔科医などの人員がしっかりと確保され、県の周産期医療提供体制の中で非常に重要な役割を果たすようになれば、その努力が報われて、将来的には連携強化病院に指定される可能性もあると思われます。

分娩施設の集約に際し、施設がなくなる地域の自治体や地域住民の理解を得るのは非常に難しいと思われます。医療現場で働く医師達は、それぞれの職場で自分の職責を果たすことに精一杯であり、分娩施設の集約化を推進できる立場にはありません。おそらく、各大学病院産婦人科教授や県知事などの立場にある人が、全県的な医師配置のバランスを考慮して、リーダーシップを発揮していくことになると思われます。

****** 信濃毎日新聞、2008年11月26日

県立須坂病院、常勤産科医に1人3000万円の支度金

 須坂市、上高井郡小布施町と高山村などでつくる須高行政事務組合は、同市の県立須坂病院で新たに常勤となる産婦人科医に、就業支度金として1人3000万円を貸与し、3年間勤務すれば返還を免除する制度を導入する方針を決めた。今月から同病院に着任した非常勤の産婦人科医2人に活用してもらいたい考えだ。

 県病院事業局によると、県内の市町村が県立病院の医師に絞って支援するのは初めてという。3市町村がそれぞれの12月定例議会に、人口割りの制度負担金を盛った本年度一般会計補正予算案などを提出。各議会で可決されれば同組合は年内実施を目指す。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2008年11月26日)


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7 コメント

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1-2年前に、須坂病院に電話で給料を聞いたところ、... (長野県の産婦人科医)
2008-11-27 15:15:10
 これで試算すると、1700万円+2.5万円X200分娩+300万x1/3+3000万X1/3が年間の給料にだいたい相当すると考えられ、上記より年
間所得は3200万円くらいとなります。3年勤めると3200X3=約一億円となります。
須坂はNICUも無いので、ハイリスクは全て長野日赤か北信にお任せです。先生も飯田を辞めて須坂で勤められたらいかがでしょうか。(悪い冗談です)私も勤めたいです。
これがよいか悪いかはよくわかりませんが、県は票に結びついたり、目先のことは考えもせず何でもするのでしょうね。
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>三木正夫市長は「県に医師確保で尽力してもら... (長野県の産婦人科医)
2008-11-28 18:13:10
先生をはじめ、勤務医は皆、縁もゆかりもない土地に行かされました。また地元で地道に産科医療にはげむ先生もおられます。地元で医療をすることは逃げ場が無く、落下傘で来る医師よりもつらいと思います。
 金で産科医を、分娩をあえてする必要のない病院につってくる事は、今まで地元でまじめに仕事をしてきた医師の意欲をそぐことになります。
 飯田市立病院などの,周産期2次医療を担う病院で勤務を現在している医師にこそ年1000万を研修費などの何らかの名目で出すべきです。
 すぐに長野県北信医療は崩壊します。
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長野県の産婦人科医・さま (管理人)
2008-11-29 07:28:40
北信地域の周産期医療の崩壊をいかにしてくい止めるのか?という大問題があります。

莫大な税金を投入して北信地域に産婦人科医を招聘するとしたら、まず、長野赤十字病院、篠ノ井総合病院、北信総合病院などの基幹病院を最優先に考える必要があると思います。

万一、それらの基幹病院の産婦人科が閉鎖ということにでもなってしまえば、北信地域の周産期医療はそれこそ壊滅的な打撃を受けます。本当に取り返しがつかない事態となってしまいます。

そのために、地域の総力をあげて何が何でも守りきる必要のある最後の砦の病院を、連携強化病院として県が指定したと、私は理解してました。地域の周産期医療提供体制の中で果たしている病院の役割を考えることが重要で、県立とか、市立とか、日赤とか、厚生連とかの設立母体にこだわっているような場合ではないと思います。
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「県は増収分を財源に、県立病院でお産を扱う医療... (委員長)
2008-11-29 09:42:41
ということですが、それは(私ももと県立病院の産婦人科医だったので)大変有り難いことだと思います。
でも、少なくとも同額の手当を、
すべての地域周産期母子医療センターと連携強化病院の医師にも支給しないと、医療スタッフのバランスを壊してしまうことになるのでは、と危惧しています。特に、長野日赤と信州大、佐久総合、飯田市立の地域周産期母子医療センターには、なんとかできないものでしょうか。
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北信地域の分娩を取り扱う施設は14施設(長野赤十... (管理人)
2008-11-29 20:49:25
http://www.pref.nagano.jp/eisei/imu/sanka/sanka1.pdf
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この決定はどれくらいの時間がかかったのでしょうか? (shu)
2008-11-30 13:13:03
産科崩壊が言われて久しいですが、あっという間にこういう対応ができるのであれば、もっと早くする方法がなかったのかと思ってしまいます。
また、逆に言うのであれば、市町村(県も入りますかね)でこういう対応が迅速に行われるのであれば、国ももっと早く処置できるのではないかと思ってしまいます。
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>すべての地域周産期母子医療センターと連携強... (長野県の産婦人科医)
2008-11-30 16:09:47
>一次施設の数をさらに増やすことよりも(途中略)、二次周産期医療体制を崩壊の危機から守りきることこそが、この地域の緊急のより重要な課題だと思われます。

委員長、管理人様の意見の通りに思います。
仕事の出来ない部下から、上司に困難な仕事ばかり送られて押しつけられます。上司は必死に難作業をこなしています。ある日気がつくと部下の方が遙かに高給取りで安全な仕事ばかりしていました。上司はむなしさにうちひしがれました。体力の衰えもあり、イヤになった上司は長野を去り他の都道府県に去っていきました。そこでは他府県から来た人に3000万円を研修費でだしていましたとさ。(あくまでも単なる話で産婦人科の事ではありません)
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