ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

本年度の医学部産婦人科への新規入局状況

2006年03月20日 | 地域周産期医療

************ 感想

新規入局者の獲得競争では、地方大学産婦人科は相当な苦戦を強いられているようです。この逆風の中で、一人でも新規入局者を獲得できでば、値千金の大手柄です。研修受け入れ先の大学の関連病院としても、若手医師にとって魅力のある研修病院に大変身してゆく必要があると考えています。

3月23日に追加投稿

*********毎日新聞、社会ニュース(3月23日)

<産婦人科医>志望4割減 不規則勤務、訴訟リスク…

 04年度に必修化された2年間の臨床研修制度を終えて4月から大学で産婦人科を専門に選ぶ若手医師は、制度発足前に比べ4割も減ることが日本産科婦人科学会(日産婦、武谷雄二理事長)の調査で分かった。勤務条件の悪さや出産トラブルによる訴訟が多いことが敬遠材料になっている。福島県立大野病院で起きた帝王切開手術中の死亡事故で、産婦人科医が業務上過失致死などの罪に問われ、学会内には「さらに希望者が減る」との懸念もある。

 調査は今年1~2月に全国81大学の産婦人科医局を対象に実施した。研修を終え、4月以降に医局に入る医師数やその減少の理由を聞いた。

 81大学の産婦人科医局に入局する医師は合計で210~212人と推計された。臨床研修制度の発足前の年間約350人に比べ4割減だった。

 特に、北海道や東北、信越地区と九州の大学で減少が目立った。

 志望者が減った理由について16大学は「臨床研修制度でほかの診療科を経験し、負担の多い診療科を敬遠するようになったため」と回答。夜間や休日の出勤が多いなど勤務条件の悪さや訴訟のリスクが高いことを挙げる回答も目立った。

 「(勤務条件のいい)麻酔科や皮膚科、形成外科に人気が集中し、志望者の1人が麻酔科に変わった」(信州大)や「入局を勧めたが、(勤務がきついと)拒否された」(山口大)など、リクルートの難しさを指摘する意見も寄せられた。

(以下略)

(以上、毎日新聞より引用)

******* デーリー東北新聞社、2006年3月19日(日)

弘前大産婦人科教室への入局者3年連続ゼロ

 弘前大医学部産婦人科学教室(旧・医局)への二〇〇六年四月の入局予定の医師がいず、〇四年度から三年連続で入局者ゼロとなる見通しであることが、十八日分かった。東北六県の大学医学部でも、入局予定者は合計で、わずか八人にとどまる。激務や医療訴訟の多さなどが背景にあり、産婦人科医不足はますます深刻な状況になっている。

 同日、弘前市で開かれた青森県臨床産婦人科医会で、弘前大の横山良仁講師が明らかにした。
 それによると、東北地方の医学部がある六大学の産婦人科学教室への〇六年四月の入局者見込みは、福島県立医科大が最多の四人、岩手医科大は二人、秋田大と山形大はそれぞれ一人。弘前大と東北大はともに三年連続で入局者がゼロだった。
 全国的にみても、産婦人科へ入局予定の医師は二百十人。〇三年度の四百十五人と比べ、ほぼ半減する。また約三分の一が首都圏の大学に入局する見通しで、都市への偏在に拍車がかかる。
 十八日の医会には約七十人が出席。医学生や研修医、医師の代表者が「産婦人科医獲得を目指して」をテーマに意見を発表した。
 医学生は「忙しくて訴訟が多いというマイナスイメージが大きい」、「(産婦人科は)学生時代の実習で広く学ぶことが困難で、興味を持つことができない。改善が必要」と訴えた。医師からは「地域の偏在は何もしなかった厚生労働省のミス」、「安心して働くことができる環境をつくることが大事だ」と指摘した。

**********東奥日報 2006年3月19日(日)

産婦人科への新規入局 弘大ゼロ

 二〇〇六年度、東北地方の六大学の医学部産婦人科に新規入局する若手医師は計八人にとどまり、うち弘前大学はゼロであることが日本産婦人科学会の調査で分かった。新規入局者は全国で二百十人と、三年前に比べ半減。地方大学の産婦人科が先細りする一方で、全体の三分の一余りの七十三人が東京都での勤務を予定しており、不均衡な一極集中も浮き彫りになった。

 調査は三月で二年間の卒後臨床研修を修了する研修医の入局意向を把握するため、同学会が二月、全国八十一大学付属病院の教授、総医長、医局長に対しアンケート形式で実施した。回収率は100%。十八日に弘前市の弘前プラザホテルで開かれた「県臨床産婦人科医会」で、弘前大学医学部の産婦人科医師が発表した。

 調査によると、来年度の医学部産婦人科入局見込み者は全国二百十人。二〇〇四-〇五年度は卒後臨床研修制度のスタートに伴い、全国的に新規入局者がいないため比較できないが、〇三年度の四百十五人に比べると半減した。地区別では東京都七十三人、関東(東京都を除く)二十八人、大阪府十人、中部三十六人、九州十四人、東北八人、北海道五人など。東北地方八人の内訳は弘前大学ゼロ、岩手医科大学二人、東北大学ゼロ、秋田大学一人、山形大学一人、福島県立医大四人となった。

 〇一-〇三年度をみると、弘前大学は毎年三人ずつ入局し、東北六県では十八-二十四人の新規入局者がいただけに来年度は大きく減員することになる。これは過重勤務、訴訟の多さなどにより産婦人科を敬遠する傾向が強まったことや、研修先を選択できるようになった卒後臨床研修制度により、若手医師の都会志向や大学病院離れが一気に顕在化したものとみられる。


最新の画像もっと見る

9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
 うちの大学では二人だそうです…。辞めていく先生... (ないかい)
2006-03-21 09:41:19
 それに女医さんが多くて、それも現実的にはいろいろと問題を起こしているようです。女医さんも働きやすい環境を、と言う声はありますがその環境を整えるためにも医師は多くいないと支えられないわけで…。
 それに若い連中はすぐに太平洋ベルト地帯に行きたがる。療養型病床群も激減していくだろうし…。
 本当にどうなってしまうのでしょうか。医者であり続けることを最近、不安と苦痛に感じるようになってきました。
このままの流れでいくと、病院で出産するのは難し... (Accidental Tourist)
2006-03-21 10:27:42
なんて悠長なことを、と思われるでしょうが、今まで私たち、甘えすぎてたんでしょう。立場はどうあれ、与えられたものをこなすことに精一杯だったり、逆に権利ばかり主張してきたり。権利を得るための努力は、どんな余裕のない(または余裕のありすぎる)環境でも必要だと今になって思います。
 一人前の医師を作るのに10年単位の時間が、かか... (一医師)
2006-03-21 11:01:45
 イギリスでは低医療費政策により今の日本と同様の状況が既に起きています。これではだめだと現政権が医療費増加政策をとり、年々上昇していますが(そのため今は日本が先進国で断トツ低医療費国)、いまだ改善できない致命的な欠点があるという報告が有名雑誌に載りました。それは医師の士気低下だそうです。

 子供達の未来のためにも、重要な問題であることを周囲に伝えましょう。
現実的に、机上の空論ではなく、私にできることは... (Accidental Tourist)
2006-03-21 13:42:22
先日よりいろいろコメントさせていただいていますが、K医師の事件とこのブログで産婦人科の現状をはじめて知った次第です。診療報酬改定や研修医制度など、昨今の情報を得るにつけ、産婦人科と小児科が人手不足ということは知っていましたが、自分に引き寄せて考えたことはありませんでした。

産婦人科との接点がないので、説得力のある立場ではありません。どちらかというと少子化の片棒をかついでいる身です。でもそれだからこそできることがあるかもしれないと思っています。
 私は日本が好きです。事情により海外にいますが... (一医師)
2006-03-21 22:22:34
 だから私は産婦人科医ではありませんが、今回の事件は衝撃的でしたし、信じられない思いでした。このままいった場合の日本の医療の悲惨な未来が見えた気がしたからです。

 この問題は、産婦人科医療だけの問題ではありません。例えば今回の件が有罪になると「高率で危険を伴う治療」例えば救急医療とか、高度な癌の治療とかも患者さんが亡くなった場合、自然に任せれば罪にならないけど、医療が介入すると業務上過失致死で逮捕されるなら、なるべくかかわらないという方向、つまり防衛医療になるでしょう。現在でも例えば医師が道を歩いていて心臓が止まった人を見つけて救助したとき、「よきサマリア人法」という、緊急場面で救助者の責任を問わない法律が日本にはないため、医師が救助して肋骨骨折などしたら訴えられてしまいます。今の流れでは、肋骨骨折が死亡の原因でなくてもとから助かる確率がほとんどなかったとしても肋骨骨折が死亡の原因だ→業務上過失致死→逮捕→「逮捕された医師、心肺蘇生の経験はなし」という見出しがマスコミに大々的に報道されてしまうかもしれません。


 ことは産科医療、小児医療にかかわらず、医療全体の根幹に関わる重要な問題なのです。
 
 だからどんな立場でも、今日本の医療が危機に瀕していることを訴えるのは大切なことだと思います。
そうですね。深刻な問題です。 (Accidental Tourist)
2006-03-23 16:58:14
ただ現実的には、本当に危機を実感している方々が訴えたほうが説得力があるというのも事実かな、と思います。この場合は例えば現在の流れである「医師から政府」に加えて「医師から一般の人々」への訴えかけなど。もちろん私自身傍観者に逃げるつもりはなく、できるだけのことはしたいと思っています。

産婦人科医不足の問題についても、私は現在都市部に住んでおり、不足しているという実感がないのです。最近出産した知り合いも、産婦人科の選択肢が複数あってむしろどこにしようか迷っている、という状態のようでした。

本当に困っている人は訴える気力や手段がない、という現実もあるのかもしれませんが、実際の声がなぜか都市部まで届きません。将来起こりうるかもしれない危機に対する対策を立てるため、そういった声が聞きたいと思っています。

>産婦人科医不足の問題についても、私は現在都... (開業整形外科医)
2006-03-23 17:41:28
そうですか?
神奈川県では、都市部の産科不足は深刻ですよ。
横浜市中心部の中区と西区は合わせて人口約23万人
ですが、お産が可能な産婦人科医院は・・・
ゼロです!
当然、たった2箇所しかない公的病院の産科に
集中している現状ですが、その2つしかない産科のある病院
のうちの一つ、「けいゆう病院」では
産科医の中堅3人が次々と退職し、部長と
研修医が取り残されている状態で、分娩制限を
余儀なくされているとか。
西区で開業している婦人科の友人が、嘆いていました。
「だってさ、横浜市のど真ん中の日赤病院に
産科がないんだぜ!信じられるか、お前?」

コメントありがとうございます。 (管理人)
2006-03-23 19:10:47
私の居住する地域は、産科施設は、25年前の13施設から年々減ってきて、現在は3施設(公立病院:1、開業医:2)まで減ってしまいました。昨年末から今年初めにかけて3施設(日赤病院:1、開業医:2、分娩約1000件分!)が分娩取扱いを中止しました。

この長期的な流れは、簡単に止められそうにありません。当科の分娩件数も今年は昨年の倍程度になりそうな気配です。

当科としては、地域でお産難民を作らないように、知恵を絞って必死になって対応して、地域の分娩の十分な受け皿を作るように、人員・設備を整備しているところです。

しかし、今まで長く地域の病院として多くの分娩を引き受けてきた病院が次々と分娩を中止してしまうことに対して、地域住民の不安感が非常に強くなってます。

実際には、周りの病院が次々に分娩取扱いをやめていった結果として、残った病院に分娩が集中してしまっているわけですが、住民の中には、行政が分娩の集約化政策をとっているかのように勘違いしている人もいるようで、『分娩場所の選択肢が少なくなって非常に困っている。そっちの医者をこっちに1人回して、こっちでもお産ができるようにして欲しい。』などの提案が行政の方に出されたりしています。

『10年後、20年後も、永久に閉鎖しない地域の核となる病院をいま確立しておかないことには、この地域も安全に分娩できる施設が一つもない産科空白地帯になってしまう!』と説明してますが、なかなか地域の人の理解を得るのは難しいです。

いったん産科空白地帯になってしまえば、住民運動をしている人達も事の重大性を理解してくれるとは思いますが、なかなかそういうわけにもいかないので、地道に広報活動をしながら、正しいと信ずる道を断固実行してゆくしかないと思っています。
多くの人にとって、産婦人科というのは人生のうち... (Accidental Tourist)
2006-03-24 00:06:43
ところで以下のサイトのように、情報交換のできる場が増えるといいなと思っています。立場によって認識は異なるし、まだまだ誤解も多いですが、すこしずつでもお互い歩み寄ることができればと思います。

http://www.melit.jp/

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。