ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

周産期医療の提供体制

2007年09月13日 | 地域周産期医療

まず、各医療圏ごとに、周産期医療(小児科・産科)の1次医療および2次医療の提供体制をしっかりと整備する必要があります。患者さんは最初に1次医療施設(診療所など)を受診し、そこで対応できない症例は2次医療施設(地域の基幹病院など)で対応します。

たいていの症例は、医療圏内の1次または2次の医療施設で対応可能だと思いますが、地域の2次医療施設では手に負えない症例の場合は、速やかに3次医療施設(総合母子医療センター、大学病院など)に搬送されて、集中的な治療を受ける必要があります。

1次医療施設も、2次医療施設も、3次医療施設も、それぞれの大切な役割があり、緊密に連携して、それぞれの地域内における機能を果たしていく必要があります。そのどれが欠けても、全体としてうまく機能しなくなってしまいます。

勤務する医師達が激務で全く余裕がないような病院では、医師の誰か1人が倒れただけで病院全体の機能が停止してしまう恐れもあります。一つの病院の破綻は、周辺の病院にも非常に大きな影響を及ぼします。一つの医療圏の医療崩壊の影響は、周辺の医療圏に次々に波及していきます。

今は、多くの病院で医師が不足しギリギリの状態で頑張っていて、余裕がほとんどありません。医師の退職や産休など、何かをきっかけにして、簡単に県全体の周産期医療システムが破綻してしまうようでも困ります。ですから、何とかして各病院の医師数を増員して十分な余裕をもたせる必要がありますし、医師不足で機能不全に陥りかけている病院に医師を派遣して救済するような世の中の仕組みを作ることも必要だと思います。

****** 医療タイムス、長野、2007年9月12日

小児科・産科の医療提供体制案を提示 県保健医療計画ワーキング

 県保健医療計画策定委員会の「小児医療、周産期医療、精神医療、医師・看護師等医療従事者確保ワーキング」は11日、県が示した計画素案を議論した。小児医療と周産期医療については、今年3月の「県産科・小児科医療対策検討会」の提言をもとに、医療圏ごとに一般小児医療や正常分娩、初期小児救急、地域周産期医療、小児専門・入院救急、総合周産期医療などを担う医療機関名を記載した医療体制案を示した。

 小児医療体制案では、「一般小児医療・初期小児医療(平日昼間)」、「初期小児救急(夜間・休日)」、「小児専門・入院救急」の3つの機能を担う医療機関名を明示している。「一般小児医療」には小児科を標榜する診療所や一般病院小児科、「初期小児救急」には各地域に設置されている夜間急病センターなどをそれぞれ明記。「小児専門・入院救急」は、「産科・小児科医療対策協議会」の提言で「連携強化病院」として記載された佐久総合、国立長野、諏訪赤十字、伊那中央、飯田市立、国立松本、長野赤十字、北信総合の8病院を明記。また、県全体の高度な小児専門医療や救命救急医療を担う病院としては、信大病院と県立こども病院を記載した。

 このほか、素案では、厚生労働省の調査で県内の小児科医が増加傾向にあるとのデータが示されていることに対し、「地域住民の要望に応えられるような小児科専従医の絶対的不足がある」との問題意識も示している。

 素案の作成に携わった坂井昭彦委員(波田総合病院名誉院長)は、「(小児医療を)簡単に重点、集約化できない地域もあるが、長野県の小児医療をなんとか全国に負けない体制にすることにポイントを置いた」と説明した。

助産師の活躍に期待感

 周産期医療に関しては、産科医不足が深刻化している中、「目指すべき方向」として「個々の医療機能、それを満たす医療機関、さらにそれら医療機関相互の連携により、対応する分娩のリスクに応じた医療が提供される体制を構築する」を掲げ、「数値目標」としては「県内で分娩を希望する者の全ての分娩に対応(分娩制限を行わない)」と明記した。具体的な周産期医療体制としては、医療圏ごとに「正常分娩など」、「地域周産期医療」、「総合周産期医療」、「療養・療育支援」の4機能を担う医療機関名を明示している。

 「正常分娩など」は、産婦人科を標榜する一般病院や診療所、助産所を明記。「地域周産期医療」は、「産科・小児科医療対策協議会」の提言で「連携病院」と「連携強化病院」に指定された32病院のうち、19病院が記載された。また、「総合周産期医療」は信大病院と県立こども病院が担い、「療養・療育支援」は小諸高原、信濃医療福祉センター、中信松本、稲荷山医療福祉センター、東長野の各病院が担うこととした。

 会合で小西郁生委員(信大医学部産婦人科教授)は、県立こども病院を中心とした本県の「周産期医療システム」を高く評価。このシステムを継続していくことの重要性を訴えたほか、助産師の活用を推進していく必要性を強調した。

 こうした提案に対し、清水久美子委員(篠ノ井総合病院看護部長)は「産科医が疲れないように、助産師が協力できることはしていくべき。エコーの使い方などを研修できる体制を整えることが必要」と述べ、先ごろ発足した「県助産師支援検討会」に期待感を示した。また、勝山努ワーキンググループ長(信大病院長)も「助産師支援事業は非常に意義があること。医療計画にしっかり書き込むべき」とした。

 このほか宮坂勝之委員(県立こども病院長)は、本県独自の無過失補償制度などを含めた「産科医の責任問題を解決するシステム」の導入を提案。産科医が安心して勤務できる態勢の必要性を訴えた。

(以下略)

(医療タイムス、長野、2007年9月12日)


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9 コメント

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 現実を見ていない記事が多いですね。 (一産婦人科医)
2007-09-14 00:51:00
「医師数を増やす」のは重要ですが、即効性はありません。そんなの待っている間に今の現役が減る速度の方が速いです。
 まずする事は、現状残っている病院・医院の体制維持です。
 助産師のみに期待しても、絶対数が少なすぎるので(さらにお産を任せられる人数は限られる)、効果はたかがしれています。
 助産師の活用も当然必要ですが、「医師」「助産師」のみしか内診出来ないとか、お産に関われないという現状を無視した理想論(内診問題)もすてて、長年システムとして成り立っていたものも活用する(看護師の内診なども含め重要な役割をしてきた人々を何でもかき集める)ことが、とりあえず必要と思われます。今まで「お産」に携わってきた方が職種を問わず総動員する必要があると思います。
 現在は「1次」も「2次」も急激に減っているので、「3次」はパンク状態です。
 現実路線がまず重要と思われます。
(そのために大きな壁がありそうですが・・・)
 
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色々と調べていてこのページにつきました。 (mai)
2007-09-14 05:52:17
現在アメリカで生活しております。
リープ後1ヶ月以上経ちましたが血が止まりません。1度縫合手術もしましたが止まりませんでした。不安になり、お医者さまを変えましたが、結局止まらず、現在縫合とは違った止血手術をしてみましょう、と言われております。血が止まらない原因はリープ時に切り過ぎた可能性があるとのことでした。
こんなことってあるのでしょうか・・・
勝手に記入して申し訳ありませんが、ご回答いただけたらとても有難いです。
なお、2006年11月23日に誤って同じコメント入れてしまいました。申し訳ありません。
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maiさま (管理人)
2007-09-14 07:09:31
当科では、子宮頚部上皮内病変に対する治療として、超音波メス(またはレーザーメス)を用いて円錐切除術を実施する場合が多いです。病理標本の質を重視して、普通のメスで円錐切除を実施後にただちに縫合止血をする方式の医師もいます。

円錐切除術後に1ヶ月程度経過してから、突然夜中に大量に出血し始めて、救急車で来院されるような事例も今までに何例か経験しました。

縫合止血手術でたいていの場合は止血しますが、その後も少量の出血がしばらく続く場合も時にあります。私が今まで経験した範囲では、しばらく通院治療をしているうちに何とか止血してくれました。止血までに2~3ヶ月かかった例もあったように記憶してます。

担当の先生とよくご相談になってみてください。
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一医師様 (一産婦人科医)
2007-09-14 12:40:49
 先生の情報は私は(一部の産婦人科医は)数年前から得ていまして、最後の一行に「黒々とした作為」の意味をこめていたのですが、分かりにくくてすみません。この先生のご発言は大変参考になっています。
 しかし、この問題は産婦人科医師の間でも足並みが乱れていますし、相手が強大ですので、解決が容易な問題ではありません。
 一連の記事は一部は情報操作が入っているとみるべきでしょう。
 しかし、巨悪の方々の考えはともかく現場は(医師も助産師も看護師も)何とかしようと必死です。みんなの力を総結集しても足りるかどうか分からない程、事態は深刻です。力及ばずかもしれませんが、こんな巨悪にも負けず現状を訴える事しかできませんが、訴え続けたいと思っています。
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(以下の投稿はマルチポストです。もし不適当でし... ((投稿者名なし))
2007-09-15 10:24:25
■奈良県妊婦救急搬送事案調査委員会について

この件について「2007年8月奈良県妊婦救急搬送事案調査委員会」が開催され、その概要がHPにアップされています。
http://www.pref.nara.jp/imu/2007-8ninpukyukyu/dai1kai/index.html

このHPでは意見を受け付けていますので、
imu@office.pref.nara.lg.jp
是非現場を預かる医師からの意見をお願いしたいと思います。

この概要を見ますと、荒井奈良県知事は産科医療の勤務条件改善や一次医療(産科に限定してではないと思いますが)への財政的投資をすると発言しています。

私は医療関係課ではありませんが、荒井奈良県知事はあの無能な前知事とは全く違います。
この問題の解決のために医療関係課の増員を急遽行いましたし、座長に自ら就任もしております(逃げられないということです)。

一般からの意見では医師バッシングしかない可能性があり、そこで現場の医師の意見を数多く届ける必要があると思います。またそれにより荒井知事から国への医療政策についての意見具申となれば世論喚起も期待できます。
国の医療費削減政策の転換や医師の待遇改善マスメディアの問題等、医師からの貴重なご意見をお願いできればと思います。

また、医療関係者へも幅広く周知いただければ幸いです。
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やはり医療崩壊がおこってから、立て直す方がいい... (shu)
2007-09-16 23:06:37
少し崩壊しかかって、今やっとこさ行政が動き出して、マスコミによって全国的展開になっているといったところでしょうか?
ま、もう少し崩壊が進むはずですので、どういった手が政府からうちだされるかが気になるところです。

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集約化についてひとつ大きな疑問があります。 (一産婦人科医)
2007-09-17 10:51:47
 医師数も助産師数も分娩数も多い病院で働いた時の印象ですが、医師も助産師も個人差はありますが協調性に欠くというか、意見が対立する時が結構見られました。結構職場がギスギスして働きにくかったのを覚えています(私の職場はたまたまかもしれませんが)。
 かたや、少人数の病院は忙しいですが、みんな仲良く(するしかない?)やっていて、働きやすかったですね。
 あくまで自分の印象のみですが、大人数の所ではあまり働きたくないですね。
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賃金未払い訴訟に対する対応をきちんとすれば ((投稿者名なし))
2007-09-17 11:02:50
多少、事態は良いほうに向かうのではないで
しょうか?
無理かな?
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実は厚生労働省は即効性のある医師増加対策を持っ... (かみ)
2007-09-21 06:35:11
それは、医師国家試験合格率は90%→100%とか95%とかにすればいいだけ。
これで年間500人以上の医師を増員できる。来年からでも。
また、通常の合格以外の補欠合格は場合によっては、地域限定や診療科限定を卒業後の期間を区切り行うことも可能だろう。

でも、やらないけどね。根性ないから。
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