コメント(私見):
医師はそれぞれ自分の専門領域がありますが、その専門領域とは関係なく、救急医療機関で救急当番医を担当した以上は、救急専門医と同等の責任を負うとの判決です。
救急当番医として救急医療の現場に立った以上は、目の前にいる緊急処置を要する瀕死の状態の患者さんに対して、その場でできる最善と考えられる処置を実施しなければなりません。自分の専門領域以外の疾患に対する処置をしなければならないような場合も当然ありうることです。
自分のできる最善と考えられる処置を実施したとしても、治療の結果が悪ければ、結果責任を問われて多額の賠償金を支払わねばならないということになってしまえば、今後は、あぶなくて救急専門医以外は誰も救急医療に携わることはできなくなってしまいます。
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大阪高等裁判所平成15年10月24日判決(平成14年(ネ)第602号損害賠償請求控訴事件
以下、引用文:
『そうだとすると,被控訴人Eとしては,自らの知識と経験に基づき,Eにつき最善の措置を講じたということができるのであって,注意義務を脳神経外科医に一般に求められる医療水準であると考えると,被控訴人Eに過失や注意義務違反を認めることはできないことになる。G鑑定やH鑑定も,被控訴人Eの医療内容につき,2次救急医療機関として期待される当時の医療水準を満たしていた,あるいは脳神経外科の専門医にこれ以上望んでも無理であったとする。
しかしながら,救急医療機関は,「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」などが要件とされ,その要件を満たす医療機関を救急病院等として,都道府県知事が認定することになっており(救急病院等を定める省令1条1項),また,その医師は,「救急蘇生法,呼吸循環管理,意識障害の鑑別,救急手術要否の判断,緊急検査データの評価,救急医療品の使用等についての相当の知識及び経験を有すること」が求められている(昭和62年1月14日厚生省通知)のであるから,担当医の具体的な専門科目によって注意義務の内容,程度が異なると解するのは相当ではなく,本件においては2次救急医療機関の医師として,救急医療に求められる医療水準の注意義務を負うと解すべきである。
そうすると,2次救急医療機関における医師としては,本件においては,上記のとおり,Fに対し胸部超音波検査を実施し,心嚢内出血との診断をした上で,必要な措置を講じるべきであったということができ(自ら必要な検査や措置を講じることができない場合には,直ちにそれが可能な医師に連絡を取って援助を求める,あるいは3次救急病院に転送することが必要であった。),被控訴人Eの過失や注意義務違反を認めることができる。』
参考:救急の黄昏(新小児科医のつぶやき)
>救急医療に求められる医療水準の注意義務を負うと解すべきである
日本の救急医療は、被告の脳外科の先生のような専門外の医師によって支えられており、現場のレベルは、この裁判所の求める救急医療レベルほど高くないのが現状です。
レベルの向上には、資金と人員の投入が不可欠です。しかし救急医療は各病院とも不採算部門で、病院本体の経営体力の落ちた現状で、積極的に拡充できる病院は極めて限られるのではないでしょうか。
いずれにせよ、救急体制の縮小につながりそうな判決です。