ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

自治体病院 医療の泉 枯らさぬ工夫こそ (伊関友伸・城西大准教授)

2008年02月02日 | 地域周産期医療

医師たちの職場環境がどんどん悪化して、『この職場で仕事を続けたい』という医師たちの意欲が著しく低下してしまった場合、早晩、医師たちは黙ってその職場を去っていくことになるでしょう。

また、医師たちの立場や気持ちを考えない住民や行政の行動が目立つ地域でも、『この地で仕事を続けたい』という医師たちの意欲が著しく低下し、早晩、医師たちは黙ってその地を去っていくことになるでしょう。

医師たちが去って、いったん休廃止に追い込まれた診療科に、再び医師を呼び戻し、診療を再開させるのはほとんど不可能に近いと思われます。

いったん泉が枯れてしまえば、元には戻せません。いつまでも泉を枯らさぬ工夫が大切だと思います。

****** 朝日新聞、2008年1月31日

自治体病院 医療の泉 枯らさぬ工夫こそ

「地域の医療崩壊、防ぐ住民力」

          伊関友伸・城西大准教授

 全国で自治体病院の医療崩壊が続いている。

 北海道・夕張市では市立病院が39億円の一時借入金を抱えて経営が破綻した。京都府の舞鶴市民病院は、かつて全国屈指の充実した研修で知られていたが、常勤の医師が全員退職、混乱は現在も続く。

 私は病院経営アドバイザーとして夕張の医療再生に携わり、今もいくつかの自治体病院のお手伝いをしている。現場で感じるのは、自治体病院のほとんどが役所の一部門として扱われ、「経営」が存在しないことだ。権限を、現場ではなく本庁の人事や財政当局が握り、経営や医療の質よりも、形式や規則が重視される。

 医療費抑制の国策のもと、民間病院の生き残り競争は激しさを増す。だが、自治体病院は意思決定が遅く、時代に追いつけない。宮城県石巻市にあった公立深谷病院は抜本的な経営改革ができずに、金融機関から運転資金の融資を拒絶され、民間譲渡された。

 最近は、医師不足による収入減が病院経営に打撃を与えている。国の研修制度変更が原因とされるが、医療崩壊を起こしている地域ほど医師たちの立場や気持ちを考えない住民や行政の行動が目立つのも事実だ。

(中略)

 総務省は昨年末に「公立病院改革ガイドライン」を示し、収支の改善、医師の配置や病床数の見直しなど病院の再編・ネットワーク化、民営化など経営形態の見直しを迫っている。

 確かに改革は必要だ。しかし、単に収益の増加や病床利用率の向上を迫れば、医師のさらなる労働条件の悪化を招き、医師が立ち去った例もある。現場の声をしっかり聞く作業が、改革には不可欠だ。

 医師という医療資源は、泉と似ている。行政や住民が自分勝手に汲み上げれば泉は枯れる。行政は病院経営の質を上げ、住民は医療資源を浪費しない。この条件が揃わないと、自治体病院そして地域医療の崩壊は防げない。

(朝日新聞、2008年1月31日)


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