ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

婦人科疾患合併妊娠:卵巣腫瘍

2010年05月27日 | 周産期医学

卵巣腫瘍・卵巣嚢胞が合併する頻度は全妊娠の1 ~4 %。機能性嚢胞(黄体嚢胞など)を含めた報告では3.3~9.9%で、そのうち約95~98%が良性腫瘍である。

1.良性卵巣腫瘍・卵巣嚢胞
 成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢胞腫)が最も多く、漿液性嚢胞腺腫粘液性嚢胞腺腫の順とされる。

2.卵巣癌
 妊娠に合併する卵巣腫瘍のうち、卵巣がん(悪性および境界悪性腫瘍)が1~3%を占める。進行期は大部分がⅠ期である。組織分類では、表層上皮腫瘍が50~70%、未分化胚細胞腫などの胚細胞腫瘍が20~40%である。また表層上皮腫瘍のうち境界悪性腫瘍が約80%を占める。

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2008、p138~140

妊娠初期の卵巣嚢胞の取り扱いは?

Answer
1.卵巣嚢胞の有無および良悪性の評価には超音波検査を行う。妊娠中に頻度の高い黄体化卵胞嚢胞(ルテイン嚢胞)の診断のため、複数回の検査で嚢胞径の変化を観察する。(A)

2.ルテイン嚢胞や子宮内膜症性嚢胞などの類腫瘍病変が疑われる場合、経過観察を行う。(B)

3.良性腫瘍が疑われる場合、直径が6cm以下の場合は経過観察、10cmを超える場合は手術を考慮する。6~10cmの場合、単房嚢胞性腫瘤は経過観察、それ以外は手術を考慮する。手術時期は妊娠12週以降が望ましい。(C)

4.悪性または境界悪性腫瘍が疑われる場合、大きさや週数にかかわらず手術を行う。(B)

5.強い疼痛があり、捻転、破裂、出血などが疑われる場合、良悪性や妊娠週数にかかわらず手術を行う。(A)

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80_50
(日本産婦人科医会・研修ノートN0.80より)

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卵巣癌 FIGO進行期分類

Ⅰ期:卵巣内限局発育
Ⅰa期:腫瘍が一側の卵巣に限局し、癌性腹水がなく、被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められないもの。
Ⅰb期:腫瘍が両側の卵巣に限局し、癌性腹水がなく、被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められないもの。
Ⅰc期:腫瘍は一側または両側の卵巣に限局するが、被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり、腹水または洗浄の細胞診にて悪性細胞の認められるもの。

【注】 腫瘍表面の擦過細胞診にて腫瘍細胞陽性の場合はⅠcとする。

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卵巣癌Ⅰa期

妊娠してから診断された時は、Ⅰa 期でlow risk の場合のみ妊娠継続が可能と考えられる。

境界悪性または悪性群で高分化型腺癌では、患側付属器摘出、健側楔状切除を行い、以後は超音波検査、腫瘍マーカーで管理する場合もある。

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卵巣癌Ⅰb期以上

母体の安全を優先。術式は根治術で妊娠中絶が原則である。

切なる挙児希望の場合で、進行がごく初期であれば保存手術をすることもあるが、開腹所見と病理組織により、取り扱いを慎重に検討する。

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妊娠中の化学療法について

進行期Ⅰa期で組織分化度grade 1の腫瘍は化学療法を行わないが、それ以外は化学療法の適応となる。第一選択のレジメンは、上皮性卵巣癌ではTC(paclitaxel+carboplatin)療法、悪性胚細胞腫瘍ではBEP(bleomycin+etoposide+cisplatin)療法である。

化学療法が妊娠中期~後期に行われる場合は胎児への影響は軽微であるとされる。しかし、これらの薬剤の多くは妊婦には禁忌となっているので、十分なインフォームドコンセント後に投与する。

化学療法が施行された際には骨髄抑制の時期を避けるため、分娩前2週間には化学療法を終了させておくことが望ましい。

上皮性卵巣癌で進行期がⅠa期を超えていた場合、分娩後に標準術式を施行することも考慮する。

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妊娠と腫瘍マーカー

・妊娠の影響を受ける:
 CA125、AFP、TPA、SLX

・妊娠の影響を受けない:
 CA19-9、IAP、SCC、CEA

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卵巣腫瘍が妊娠におよぼす合併症

茎捻転 ⇒ 疼痛や刺激による早産
卵巣腫瘍破裂 ⇒ 疼痛や刺激による早産
骨盤内嵌頓 ⇒ 分娩停止

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卵巣癌が妊娠22 週以降に 発見された場合:

胎児成熟をみながら帝王切開術のタイミングを決定する。

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分娩・産褥時の管理

・卵巣癌保存手術後の場合: 選択的帝王切開術を行い、同時に子宮摘出、大網切除を行う。

・次児の挙児希望が強くても、術中迅速細胞診が陽性なら、根治手術を行う。

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80_51c
(日本産婦人科医会・研修ノートN0.80より)

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次回妊娠へのアドバイス

卵巣腫瘍がある場合には、腫瘍マーカーやMRIなどの画像診断を施行する。

良性が強く疑われる場合でも、腫瘍径が5~6cm 以上の場合、次回妊娠前に摘出手術を考慮しておく。

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腹腔鏡下手術の適応

良性と考えられる場合には腹腔鏡下手術の適応があるが、悪性の可能性がある場合には開腹出術が基本である。

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黄体嚢胞(ルテイン嚢胞)
corpus luteum cyst

[定義] 黄体内に分泌物が貯留したもの。妊娠によって産生されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)に過剰に反応して生じる。妊娠に合併する卵巣腫大の中で最も頻度が高い。hCGの低下に伴い縮小するため治療の必要はない。

黄体嚢胞が妊娠に及ぼす影響:
まれに茎捻転や破裂・出血を生じた場合、急性腹症を発症し、緊急手術を要する場合がある。

治療:
卵巣腫大が黄体嚢胞によるものであれば妊娠14週頃までに退縮し、卵巣腫瘍であれば15週以降も退縮しない。このため妊娠14週頃まで待機し嚢胞性卵巣腫瘍と鑑別する。

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妊娠合併卵巣腫瘍の超音波検査所見

Luteumcyst
内部エコーを有する黄体嚢胞(経腟走査)

(日本産婦人科医会研修ノートNo.74より)

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Cyst
卵巣嚢胞腺腫(経腟走査)

(日本産婦人科医会研修ノートNo.74より)

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Borderline
壁在結節を有する卵巣漿液性腫瘍(境界悪性)
経腹走査

(日本産婦人科医会研修ノートNo.74より)

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Adenocarcinoma
卵巣類内膜腺癌(低分化)

(日本産婦人科医会研修ノートNo.74より)

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Dermoid
hair ballとhair lineを有する混合パターンを示す卵巣成熟奇形腫(経腹走査・左:矢状断面像、右:横断面像)

(日本産婦人科医会研修ノートNo.74より)

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Dermoid2
高エコーの充実性パターンを示す卵巣成熟奇形腫(経腟走査)

(日本産婦人科医会研修ノートNo.74より)


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