タクシーで向かった先は、例の台風の一件で訪れた山中の別荘。 管理人さんの家に入り、とりあえずホッと一息。
暖かい。 と安心したのも束の間、
「暖かいコーヒー買って来いよ」と間髪入れず僕をパシらす所長。
くそう。ようやく暖かい部屋に入れたのに。
「俺、甘いのな」と所長。
そう、この所長、コーヒーにはミルクと砂糖ドッサリ派。 仕方なく外に出たものの、路面が凍結して滑るすべる。タクシー乗って来たから、全く分かりませんでした。
近くにある自販機へなんとかたどり着き、甘そうなカフェオレもあったので、購入して再び引き返しました。 何度も転びそうになりながら小屋に戻り、買ってきたコーヒーを所長に渡しました。
それを一口飲んで「なんだコレ!甘すぎるな」
もぉぉぉ!メンドくせーな!この人!子供か。
アンタがいつも飲んでる、『牛乳屋さんの珈琲』とかいう商品と変わらんだろ。日本語か、英語かの違いだ。 まだブツブツ言ってる所長を無視して、管理人さんに聞いてみました。 「今日は何をするんですか?」
「今日はね、今度この庭にある木の枝を伐採するんだけど、どの木を伐採するのか、植木屋さんと打ち合わせしながら決めるんだよ」
はぁ、そですか。
「どうやって切るか決めた木を、レジカメでお前が撮って、図面に位置を書き込むんだ」 と所長。たまに所長はデジカメをレジカメと言います。何の略だと思ってるのだろうか。
そうして説明を聞いている内に、玄関の戸が開いて誰か入ってきました。
人数は3人。男性です。
「さっき話した植木屋さん」と管理人さんが紹介してくれました。
「あぁ、お世話になってます(所長が)」と僕は挨拶しました。
早速、庭の木を見に行くことに。
みんなで長靴を履いてると、植木屋さんの一人が車でゴソゴソしてます。
「おい、見てみろ!やはり雪国に住んでる人は装備が違う!」とテンションの上がる所長。
長靴を履き終えて、僕もその車を覗きこんでみました。どうやら今話題になっている品は、カンジキと呼ばれるワラ細工。↓
装着後イメージ↓
「こうゆうのを履いてないと、雪の中は歩けないんだぞ」と得意げな所長。
コンクリートジャングルで生まれ育った僕には無縁の一品。
温故知新。新しい知識も必要ですが、やはり昔の人達が必死で考えた様々な知恵も必要なのです。
そうこうしてる内に皆の準備も終わり、出発です。
やはりこの雪の中、長靴では冷たい。
20センチほど雪が積もっているので、長靴の上の隙間から雪が入ってくるのです。 アッという間に足は冷え切り、痛みが襲ってきます。
やはり先程のカンジキを装備しないと、長時間の歩行は困難のようです。
先程の植木屋さんを見てみると、長靴でザクザク。
カンジキ使ってませんけどッ!
しかも、植木屋さん3名と、管理人さんの装備してる長靴と、僕と所長の装備している長靴には決定的な違いが。僕たちのは普通のゴム長靴。地元4名の長靴は、ブ厚いゴムで頑丈に造られた、謂わば寒冷地仕様の防寒靴。
すっげーアウェイ。
そして、アウェイなのに、アウェイである事に全く気づかない人が一人。
所長です。
全然、冷たさを感じていないように見えます。
足の痛みに狼狽してる僕を尻目に、どんどん先へ進んでゆく所長。
どういう感覚なのだろう、と僕は不思議でたまりませんでした。
つづく