無知の涙

おじさんの独り言

怖い話し2

2008年11月07日 | 思い出

工事が始まってからというもの、
その奇妙さはより顕著でした。

工期がなかったので、夜間も工事していました。

もちろん施錠されている場所にも入らなければなりません。

このビルには管理室があり、24時間体制で管理人が一人詰めてます。
しかし何故か彼らは22時過ぎると一切姿を現さなくなります
呼び鈴を鳴らそうが、ドアを叩こうが、名前を呼び続けようが、
一切の応答をしなくなります。

それはまるで、何かに怯えているように思えました。

うん、でも無理はないな、と僕は思いました。

夜中に管理人が出歩かない限りは、
誰も行かないフロアにエレベーターが動いていたり。
でも管理人が部屋から出るハズないのだ。
こんな調子なのだから。

やれやれ、一体このビルは何だっていうんだ。


そして時はお盆になりました。
工事の方は休む事が出来ないので、
お盆も継続する事になりました。

だが職人さんがたいして集まらずに、
作業的にはたいしたことは出来ないので、
僕らは交代で休む事にしました。

お盆は僕が当番になり、いつものように出勤しました。

このビルは休日や祝日は閉鎖されてしまい
特別な手続きをしない限りはビルに入ることが出来ないようになっていました。

もちろんこの時期も基本的にビルは閉鎖されていました。

我々は工事用のゲートを作っていたので、そこから出入りしていたのです。

その日、普段どおりに出勤すると、
事務所前に人だかりが出来てザワザワしています。

「どうしたの?」
と僕は人だかりの一人に声をかけました。

その人はやや失笑ぎみに言いました。
「警備の人がさぁ、朝から騒いでるんだよ。 
 子供の声がするってさ」

子供?まさか。
入れるはずが無い。

でも仕事の時間も迫ってるし、
放っておくわけにもいかず、
僕はアチコチ走り回ってる警備員さんを呼び止めました。

「なに?どうしたの?」

警備員さんは必死な顔をして言いました。
「いえ、朝ここに来たときから、子供の声がするんです。 
 あちこち走り回ってるみたいで、捕まえられないんです」

・・・うーん。
よもや子供が入り込むワケないのだが、
その警備員さんも決して冗談でそんなコト言う人じゃないのである。

「とりあえず、仕事・・・」と僕が言ったところで、


おぎゃあああああああ!!!


という子供の、いや、赤ん坊の泣き声が聞こえたのです。
もうハッキリと。

いる!!ホントにいるんだ!!

ちょうど階段を上りきったところで話をしていて、
その下から声が聞こえてきました。

マズイ!と僕は思いました。
もうオバケとかそんなコトは考えもしなかった。

とにかく赤ん坊が下にいる、と。

捨て子?それとも母に何かあったのだろうか。

とにかく一刻も早く救出しないと!!
そして管理人を連れ出して、
開けられるドアを片っ端から開けてゆく。
赤ん坊が入るスペースは全て確認しました。
もう仕事どころではありません。

3時間ほどが過ぎました。
いないのです。
もう声もしない。

管理人さんは、やっぱり、というような感じで、
妙にこの事態について納得してました。

この世には理屈や理論では語れない、
不思議な世界があって、
常に僕らはその世界と隣り合わせで生きているのだ。
僕はふとそう思った。

だって今でもあの赤ん坊の泣き声を
ハッキリと思い出すことが出来るのですから。

もうちょっとだけ、つづく


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