高校3年生の初夏のコトです。土曜日の朝っぱらから何やら電話が掛かってきました。
まさか僕あてでは無いだろうと思っていたので、僕は知らんぷりして朝飯を食べていました。すると電話を取った母から
「加藤くんよ」
!!
加藤くんと言ったら過去2回、ブログでも掲載しましたが、下手に関わるとロクな目に遭わない、という恐ろしい凶運の持ち主です。
もうバスが来る時間だし、できれば出たくないのですが、居留守を使うにはチト不自然なほど間が空いてしまいました。
仕方なく電話に出ると「おお!朝から悪いね」と加藤くん。
まったくだ。
「今日、土曜日だから学校早いでしょ?ちょっと話したいコトがあるから帰りに俺んち来てよ」
嫌な予感どころの騒ぎではないのである。いつ爆発するか分からないような爆弾を抱えて学校に行けるものか。
「なんだよ!気になんだろ。いま言ってよ」
「んー内緒!」
なんだこの好きな女の子と電話してるような会話は。すぐにでも電話を切りたい衝動に駆られたので、わかった、と言って電話を切りました。
そして学校に行きましたが、案の定、気になって授業どころではありませんでした。もともと授業なんか聞いてませんでしたが、もう座ってるのも苦痛なのです。
加藤くんのコトだから、何か余程のコトだろう、と僕は思いました。なんだ?また怖いお兄さんたちモメたとか、族特有のカンパのノルマを達成できない、とか。
どのみちロクなモンじゃないハズ。彼自身に何か危険が迫っているのか?でも、もしそうであるなら、あの電話で言ってるよな・・・。
2時間目でバックレ。バイトの予定でしたが、休むことにしました。
彼の家の呼び鈴を鳴らすと、すぐに加藤くんが顔を出しました。別に変わった様子は無いです。靴を脱ごうとすると、3足置いてあります。僕と加藤くん以外に2人誰かがいる。
部屋に入ると、そこには小学校、中学校と同級生だったタツとキムが居ました。
二人とも小学校の時はよく遊んでいましたが、中学に入ってから別々のグループで遊ぶようになり、すっかり疎遠になっていました。
おお久しぶり!と僕ら三人は意外な再会に驚きました。
「どうしたの今日は?」と僕が訊くと、二人とも加藤くんに呼ばれたということでした。用件は同じってワケか。
そして加藤君が部屋に入ってきました。
微妙な空気。そうか、タツとキムは暴走族になった加藤くんと対面はするのは初めてなのか・・・。まぁ、ある意味、恐ろしい男になってはいるが、たいして中学の時から変わっていないのです。そんなに緊張することは無いのである。
いちばん不可解だったのは、部屋に入って来た加藤くんが、オモムロにギターを弾き始めたことでした。
なにしてんの?
ちょっとその姿にイラッときて、「なんだよ、話って」と僕が切り出しました。
何やら奇怪なメロディーを奏でていた加藤くんの手がピタリと止まりました。「俺、バンドマンになる」
は?何を言ってるのでしょうか、この野郎は。
我々の微妙な反応にも臆せず加藤くんは続けました。「で、俺たちでバンド組まねぇ?」
は?母さん・・・生きてるって不思議なコトだらけだよ。
タツが慌てて言いました。「バンドって、でも何も楽器できないよ」
その通りである。僕も高一の頃に友達からエレキギターとアンプを格安で売ってもらいましたが、三日坊主にさえなれなかった経験持ってました。
「大丈夫」と自信満々の加藤くん。「タツ、おまえ歌うまかったよな?だからタツはボーカル」
へぇ!と僕は思いました。タツが歌ウマイなんて初めて知ったのです。加藤くんはどこでタツの歌を聴いたのであろうか。
「キム、知ってるぞ!」と加藤くん。「ベースやってんだろ?なん文化祭とかで弾いてるって」
へぇ!と僕は再び驚きました。キムがベースやってるのにも驚きましたが、加藤くんの情報収集能力に驚いたのです。どこで情報集めてるんだ。
そして僕の番です。
「体がデカイからドラムね」とアッサリと加藤くん。
体がデカイから・・・
「ちょっ、勝手に決めるなよ!俺ドラムなんて叩けねぇよ!」僕は反論しました。突拍子が無いにもホドがあります。
「だってもうパート無いもん」と加藤くん。んー確かにボーカルになるには歌唱力が丸出ダメ太郎だし、見てくれもダメだろうし、弦楽器は確かにムチムチの僕の手では無理っぽいし、そうなるとドラムかぁ。
消去法でドラムを選ぶなんて、世のドラマーの皆様に対して失礼も甚だしいとこですが、若かりし高校生ですから、やはり目立ちたい精神が先に立つモノです。けど、
「まだバンドやるって決めてないし」と僕が核心を突くと、タツもキムも我に返った感じです。
やれやれと言わんばかりの加藤くん。「いいか、バンドマンはモテるんだぞ」
ハッ!!
確かにBOФWYとかカッコイイもんなぁ。あんな風にステージでライブが出来たら、どんなにカッコイイだろう、とテープが擦り切れるまで繰り返しBOФWYビデオを見ながら思っていたのは確かです。
よし、やってみよう!!タツもキムも同じ気持ちのようでした。
モテるんだぞ!の一言でバンド結成。
「よし、じゃあ早速練習しようぜ!」と意気込む加藤くん。押入れからゴソゴソと何かを出しました。
見てみると楽譜です。僕用のドラムのスティックもあります。
「やっぱ最初はコピーから始めないと上手くなんないから、この曲をみんなで合わせられるように練習しようぜ。」
なるほど。で、出された楽譜がジュンスカの「歩いてゆこう」
まずは曲を聞くことに。もちろん聞いたことはありました。中2くらいの時にかなりハヤりましたから。
しかし、ドラムに集中して音楽を聴くという行為をしたことが無かったので、せいぜい認識できる音はスネアドラムくらいです。
*(1)スネア・ドラム(S.D.)
小太鼓。バス・ドラムとのコンビネーションで、リズム・パターンの中核をなす。
(基本的なドラムセットです。)
そしてドラムの楽譜表記はこのようになっております。
当然、初見の僕には意味不明です。
何度もなんども繰り返し曲を聴いているうちに、ハイハットの刻み、バスドラの音が聞き取れるようになってきました。
しかし聞き取れるようになったところで、実際に動かすのは到底無理です。
左右の手、足、それらを別々に動かすなんてコトが出来るのか?成す術のないまま時間だけが過ぎてゆき、とうとう夕方になってしまいました。
他の3人はけっこう順調。キムもベースが無いのに、イメージで手を動かしています。加藤くんもけっこう練習してるのか、指使いがけっこうサマになっています。とても暴走族をやっていたとは思えません。
そこでふと疑問が。「なぁ、そういえば暴走族はどうすんの?辞めんだろ?」と僕は加藤くんに聞いてみました。
「やめたよ、さっき電話したんだ」と加藤くん。
「いやいや、学校休みます、じゃないから。そんなんで辞められるのか?」
積木くずしを真剣に見ていた僕にはかなり疑問でした。
「たぶん・・・」と加藤くん。「今晩あたり家に乗り込んでくるかも」
は? 家って、この家?
その言葉を聞いて、顔を見合わせる僕とタツとキム。もうすぐ夜です。
さーて、じゃ続きは今度ね、とサッサと立ち去ろうとする僕らに、「いや、外に出ないほうがいい!」と加藤くん。
「たぶんもう家の前に張ってるよ、奴ら」珍しく真剣な面持ちの加藤くん。
「張ってようと張ってなかろうと、いまサッサと出てけば、そいつらも分からないだろ?そもそも俺らは関係ねーんだから」と僕は言いました。
「いや、おそらくもう俺の仲間ということで、お前らの写真とか出回ってるよ」
いつそんなフライデーされたのかサッパリ意味不明でしたし、あまりにバカバカしいので構わずに帰ろうとすると、
「バンドメンバー見捨てんのかよ!」と泣きそうな加藤くん。
こんな不純異性交遊目的で結成された急造バンドのメンバー間に、一体どれだけの絆があるのか(-_-;)
しかも殴りこまれるのが確定してるのなら、なぜ逃げようとしなかったのだろう。しかも我々を巻き込んで。言いたいことも疑問も山ほどあります・・・。
しかしなんとなく仲間を見捨てるという行為が出来ないお年頃だったので、加藤くんと篭城することを決意しました。
そうこうしてる内に辺りも暗くなってきました。タツが部屋の電気を点けようとすると、
「ダメだ!部屋にいることがバレる!必ず外に部屋を監視してる連中がいる」と叫ぶ加藤くん。
先ほどからあれだけ大音量で音楽流したり、ギター弾いたりしておいて今さらバレるも何も無いだろ、と思いましたが、まぁ確かに危険は少なくするに越したことはないのである。
しかし監視したりしてるのなら、どこら辺にいるのだろうか?と窓を覗きこもうとすると、「窓辺に寄るな!狙われんぞ!」と再び叫ぶ加藤くん。
スナイパー?
ワケの分からない男が暴走族を抜けたくらいで、スナイパー投入されんの?ゴルゴ13も大忙しだな。
「でも、いくらなんでも家に乗り込んでくるってことは無いんじゃねぇの?親だっているんだからさ」と僕は加藤くんに訊いてみました。
「いや、うちの親って滅多に帰ってこねーからさ。そんなのアイツラとっくに知ってるし。ヘタに外でやるよりも、俺の場合は家の中の方がアイツラも都合いいんだよ。後始末しなくていいからよ」
後始末・・・。
「でもカギかかってるんだから、開けられないだろ」
「それが、持ってるんだよ、合鍵。メンバーに彼女いて、合鍵持ってるんだよな」
なんということを。
そうして刻々と過ぎてゆく時間。僕たちは暗闇の中で寝そべって、緊張の糸を張り続けていました。どんな些細な物音にも反応してしまいます。
21:00時ぐらい。緊張からの疲労か、タツとキムが寝てしまいました。僕は実際に攻め込んでこられた時の戦い方を考えていました。多勢に無勢というケンカなどしたことありませんから、どうして良いのか。
やはり玄関入口で戦うのがベストだろうな。一人しか入ってこれないし、武器も振り回せないし。掴まれると厄介だから、なんか突き系の武器でも使うか。しかしソレだと先制攻撃の形になるからもう完璧に敵として認識されるよな。まだ僕らは無関係だと見なされる可能性もあるワケだし。かと行って加藤くんがボコボコにされるのを黙って見ているワケにもいかないし。やるしかないのか。
あ、文字数が無い・・・。
(エヴァ好きの方なら脳内で音楽流してください)
階段を駆け上ってくる足音。多勢に無勢の状況を打破する策はあるのか?静かに眠りにつく加藤。静寂と暗闇が支配する部屋の中で崩れてゆく少年たちの物語・・・。
「次回 決戦、加藤くんち」この次もサービスサービス♪