無知の涙

おじさんの独り言

アルバイト2「リゾートバイト」前編

2007年11月08日 | アルバイト奮闘記

高校3年生の冬休みに、卒業してすぐに家を出るための資金を稼ぐ為に冬山へ働きに行きました。

リゾートバイトです。

その頃、卒業したら本格的にバンドでプロを目指そうなどと寝ながら夢を見ていたので、進学する気も就職する気もなかったのです。それに対して父からの猛反対を受けて家庭内のイザコザが絶えなく、母親にも苦労をかけてしまっていたのですぐにでも家を出たかった。もう父の世話にもなりたくなかったですし。

期末テストが終わって、終業式を待たずに旅立ちましたね。1月の半ばまで。

担任の先生にはきちんと了解を得ました。なかなか話の分かる先生だったのです。停学ばかりで問題ばかり起こしてましたが、無理矢理に押し付けられた学級委員をきちんと務めていましたから、それなりに僕のことを認めてくれているようでした。

親には、しばらく学校に近い友達の家から通う、とウソついてました。母だけにはきちんと事情は話しましたけどね

初めての長期外泊、しかも仕事です。中学生の頃から父親の手伝いで掃除のアルバイトしたり、高校に入ってからもなるべくバイトするようにしていたので人生の初仕事というわけではありませんでしたが、住み込みで働くというと事情はまるで違って完全に未体験ゾーン突入。

バンドのメンバーたちから、みんなで編集してくれた音楽のテープをもらい、そのとき好きだった女の子に駅まで見送ってもらって僕は旅立ちました。

って、帰ってくるよ?すぐに!

1ヶ月くらいで!

今生の別れじゃないんだから。まぁ嬉しかったですけど。

行き先は長野でした。東京駅(だったと思います)から特急に乗りました。長野駅に着いて、普通列車に乗り換えました

車内には地元の学生たちがいっぱいいて、その学生たちが実に楽しそうに見えて、そんな光景を見ながら友達のくれた編集テープを聴いていると、なんだか自分が遠い世界に来てしまったような孤独感に襲われて、今すぐにで引き返したい気持ちになりました。

でも、自分の好きなコトをして生きてゆくっていうのは、つまりこういうコトの連続なんだろうな、と僕は漠然と感じていたので、それ以上あまり余計なことは考えずに目的地へ向かいました。

電車を降りて、実際に僕は遠い世界へ来てしまったのだ、ということを痛感しました。

もう一面、だけ。

しかも軽く吹雪

プレハブ小屋みたいな駅の待合室で待つこと数十分。僕の働くホテルからの迎えの車が来ました。それに乗って走ること30分。ようやく僕が働くホテルへ到着しました。

到着すると、まず面接。そう、恐ろしい話ですが、面接もせずにここまで来ているのです。

履歴書は郵送で送っていました。その数日後に「じゃあ、ちょっと来てもらえますか?」と言われたのです。ちょっと来てもらえますかって・・・近所のスーパーへ行くのとはワケが違うのです。

これで面接ダメだったら、そのまま引き返さなくてならないのです。見送ってもらった人たちに合わせる顔が無い。

面接してくれたのは、宿のおかみさんでした。「じゃ、今日はもう遅いから、明日から働いてもらうわよ

どうやらOKのようでした。ヒヤヒヤです。

部屋に案内され、荷物を置くと、さっそく夕食なので食堂に来るように言われました。

リゾートバイトって、なんだか華やかなイメージがありましたが、食堂に入った瞬間、そんなイメージは跡形も無く崩壊しました

全員、。その数5人。

かなり冷たい視線を浴びながら自己紹介をしました。僕の自己紹介が終わると、今度は先輩方の自己紹介。

まずここの責任者である牛島さん。社員です。年齢は30歳後半くらいだったと思います。

次は副責任者の鬼塚さん。この人も社員です。年齢は20歳後半だったと記憶しています。

で次からは入った順に。

山井さん。この人はアルバイトです。年齢は30歳前半だったと思います。

河原さん。この人もバイトです。現役の大学生だったので、21とか22歳くらいだったかと。

で、最後は今井くん。この人は鮮明に覚えてます。17歳だったので。まさか年下がいるとは思ってませんでしたから。だからクンづけです。

このようなメンバーでした。

気まずいまま食事が終わり、部屋に案内されたのですが、なんと相部屋。しかも4人部屋。山井さん、河原さん、今井くんと僕。いや、キツかった。だって他の3人はもう打ち解けているから、完全に孤立ですもん。

ちなみに社員2人は一人部屋です。

僕はけっこう人見知りするので、他人とすぐにホイホイと仲良くなれないのです。

部屋にいられないので、ロビーに行って公衆電話で友達とかバンドメンバーに電話しまくってました。もう恐ろしいくらいにテレホンカードの減りが早いので、かなり電話代で金を使いました。あとはビール買って飲んで、ウォークマン聴きながらさっさと寝てしまいました。それまでも飲酒はしてましたが、飲酒癖がついたのは確実にこの職場でですね。齢18にして。

初日は夜逃げしようと思いました。真剣に。孤独と不安で気が狂いそうでしたから。でも逃げられません。山の中で、しかも雪だらけです。ヘタに逃走しようものなら凍死は確実逃げられないと余計に不安になります。でも自分で選んで此処まで来たのですから、覚悟を決めるしかない。2、3日耐えてそれでも駄目ならきちんと話をして昼間下山しよう。

そして翌日になり、ついに仕事が始まったのですが、仕事はそんなにキツくはありませんでした。宴会場のイスやテーブルを掃除したり、レンタル用のスキー道具を整備したり、雪かきしたり。

普通に5:00くらいには仕事が終わって、あとは自由時間でした。

他の人たちと打ち解けられないので、あまり仕事が早く終わっても苦痛なだけでしたが。フロは温泉でした。お客さんと一緒に入る形です。浴場に有線放送が設備されていて、のんびりとフロに浸かりながら流行の音楽をチェックできるのは、山の中で情報網を立たれた僕には有難いことでした。当時は携帯なんてないし。

そのとき流行っていたのは、ロマンスの神ですね。もうフロに入ると必ず1回は聴きました。完全にリゾート感覚ではなくなっていましたから、ロマンスの神様 どうもありがとうとはとても言えない気分でした。

3日目くらいから少しずつ他の人たちと打ち解け始めました。さすがに一緒に仕事してれば嫌でも話はしますから。一人と仲良くなってしまえば、あとはもうノリで仲良くなっていきます。

最初はやはり一番年の近い今井くんと仲良くなりました。そして他のルームメイトと仲良くなり、5日目くらいには社員の人とも話せるようになりました。

でも鬼塚さんだけは仲良くなれませんでしたハッキリと敵意を感じるからです。何度か睨まれるような事もあったし、仕事のことを尋ねても親切には教えてくれませんでした。

ハッキリと敵意を感じるのは学校生活でもよくあるコトでしたが、職場でそういう敵意を感じるのはモチロン初めての事なので、どうして良いのか分かりませんでした。でも1週間くらい経った頃には、他の人たちとはすっかり仲良くなれたので、とりあえず気にしないようにしてました。

仲良くなれば、とうぜん酒盛りです。時間はタップリあるのです。

仕事が終わって、みんなでフロ入った後は、食事もそこそこに僕らの4人部屋で宴会です。

まぁ宴会のメンバーはルームメイトだけでしたが。鬼塚さんは僕のことが嫌いなようでしたから仕方ないとしても、牛島さんもあまりバカ騒ぎは好きではないようでした。

宴会をするようになって気付いたのですが、みんなそれぞれ自分の酒を用意します。買い込んであるのです。とうぜん買出しに行っていない僕はロビーの自販機でビールを買うしかないのですが、山の上なので普通より高いし出費がかさむばかりです。

こんな雪山に金を使う為に来たのではありません。金を為に来たのですそれでなくても電話代で予想以上の出費をしていましたから。なんとかして安上がりな焼酎を入手しなければならない。僕はそう決心しました。

翌日、僕は半日の休暇をもらい、焼酎を入手すべく下山を試みることにしました。齢18にして。

1時間も山を降りれば、小さい酒屋があるという河原さんの情報を頼りに下山すると、情報どおりに居酒屋はありました。大五郎とかのビッグなボトルを持てるだけ買って、僕は再び山を登りました。

買いすぎた焼酎のおかげで、かなり足取りが重い。行きは下りでしたが、帰りは上なのです。とてもじゃないが1時間も歩いていられないと思い、車道ではなく山を突っ切ることにしました。

山道なので、道は当然スパイラルを描いています。だから時間が掛かるのです。直進すれば絶対に近道なハズ!

しかしそれが大失敗

雪の積もった山を登ることの困難さと危険を僕は知りませんでした

それに気付いたときには、すっかり手遅れ。山を登り始めて30分後にはすっかり方向感覚をなくしてしまっていました

 

つづく

 


夏といえば(後編)

2007年07月28日 | アルバイト奮闘記

自分がお化けになり、人を驚かせるという、普通ならあまり無い経験。

困ったことになかなか楽しいのだ。

他のスタッフもだいたい同じ感想を味わったようで、どうやったらもっとお客さんを怖がらせられるだろうかと日々激論を戦わせることとなった。

ある者は「井戸から出る前に何か音を出して注意を引いてから出よう!!」と提案し、紙芝居で使うような木の棒が提唱されました。

この提案をした男は、威勢よく井戸を出たのはいいが、女の子が完全にソッポを見ていて気づかれなかった、という屈辱的な経験をしているのでした。

自ら作成した木の某で実演を踏まえて熱弁している姿を見る限り、そうとう悔しかったのであろう。

でも人生もっと他に悔しいことあるだろう、と僕は思いました


おおお!それは良い考えだ!

と変態一同、じゃなかった、スタッフ一同は熱く同意し、満場一致で翌日から木の棒が実戦に投入されました。木の棒て。

柔道着を纏ったオオカミ男、或いはフランケンが井戸の中で気の棒を両手に持ちドキドキ人が来るのを心待ちにしている姿を別の監視ポイントから眺める度に、何かこう、意図せず全く知らない場所に来てしまった時のような寂しさと言えば良いのか、不安と言えば良いのか、そんな複雑な思いが胸を去来するのでした。

まぁそんなこんなで、成長しなくて良い方向にどんどん成長していくスタッフ一同でしたが、そんなスタッフたちに新たな試練がやってきました。

                                   

時は少し進み、柔道着がスタッフ15人の汗を吸い込み、いよいよ何かこの世のものではないような臭気を発し始めた頃・・・・。

その日、僕のシフトは遅番でしたので、1人で観覧車に乗ってから職場へ向かうと、お化け屋敷の前に見たことも無い長蛇の列ができているではないか。


モスマク状態です(モスクワにマックができました状態)。

そんなトコに並んでもパンダはいませんよ、へ、へ、へ
・・と思いつつ何とか群がる客を掻き分けて屋敷内の控え室に入りました。

すると、燃え尽きた矢吹ジョーみたいになってるスタッフが何人かいました。

いったい何が起こっているのだ・・・

僕はよく分からないまま、シフト表を確認して監視ポストにつきました。けっこう上から見えるポストだったのですが、屋敷内全体を見渡してビックり!

屋敷内全体が今までにない盛り上がりを見せている動員数もウナギ昇りです。パンダもネズミもいないんだぜ?お化けの屋敷だよ?

ハッ!とそこで僕はハッとしました。
夏休みだ。

その日は7月26日でした。

確かに楳図かずおさんのプロデュースということもあり、テレビや雑誌で取り上げられることが多くなってはいたが。

これだけ列になると、多少の間隔は空けてるものの、もう前の人のリアクションでだいたい仕掛けが分かってしまうから面白くないのでは。

そして2ポストの監視を終えた僕にオバケの順番が回ってきました

いやーこれだけ脅かし放題なんだから張り切っていこう!と思いながら呼吸を止めて1秒、柔道着を着て、ルンルン今日は狼にしよ♪と覆面をベタベタ装着していると、オバケ屋敷の社員がやってきて言いました。

「ああ、これから夜の部にチェンジするから、30分休憩な」

よるのぶ?ヨルノブさんですか?

チェンジ?

チェンジは3回までです
、のチェンジ?

さっぱりワケの分からないまま突っ立ってると、前方から何人かこちらへ歩いてきました

うぉおおおお!

その人たちの顔を見た瞬間、僕は驚いてしまったのです。

なんと、その人たちは完全にゾンビでした。

ななななんでゾンビ?ここは神聖な和洋折衷、妖怪ハウスですよ?

僕は慌てて入口までダッシュし、受付にいるハズの社員のもとへ行きました。

社員を見つけて僕は「いいいいま、ゾンビが歩いてました」と報告すると、

社員は何食わぬ顔で「そ、今日から夏休みだから、夜だけ内容が変わるから」と言って、上を指差しました。

僕は上を見上げると、そこには「憎悪のゾンビ館~今宵ゾンビがあなたを襲う~」という看板が付いてました。さっきまでこんなもんなかっただろ。


「は?自分らはどうするんですか?」と僕は不安になって聞いてみると


「もちろん普段通りにやってよ先輩なんだから彼らにもイロイロと教えてあげてな」と言って、社員は去っていきました。

そんな催しがあることすら知らされてないのに、教えるもクソもないだろ。


何かナットクのいかないまま、僕は屋敷の中に戻って持ち場につきました。うむむ、なんか気になる。僕が気にし過ぎなだけだろうか。他のバイト達もそれほど気にしていないようだ。

それでも気になる気になる木♪僕は屋敷の中を歩いて、さっきのゾンビ共を探しました。すると、僕の持ち場の2つ前のポストで話し声。

いた!と僕は思いました。僕は見つからないように息を殺し、そっと壁の向こうを覗いてみました。ゾンビが2人座っている。

怖えェェェェェ!

ハッキリ言って怖いのである。マジのやつやん。

僕らの怪物くんハウスとはレベルが違う。

あんなん女の子とか泣いちゃうぜ?

ていうか、怖がらせる事を目的としたこの空間においては、あっちが正解なんだよな。立っているだけで泣くほど怖い、動く必要なんかないのだ。木の棒でカキーン!じゃないから。

なんか急に自分の存在がみじめになってきた。そう思うと今まで違和感のなかった狼のマスクが急にゴムくさく感じ、なにかこう覆面の付け心地が悪くなりました。覆面の付け心地ってなに。

そんなこと言っても僕はただのアルバイター。

ただのアルバイターだが、今回この気持ち悪い職場で誰よりも人を脅かしてきたという誇りがある。身長も他の人より大きいので、飛び出てくる距離が違うのだ。客が壁際に逃げようとも、そこまで届くのだ。逃げられない恐怖。

ドン・キホーテで2000円あれば完成しそうなクオリティではあるが、その誇りはゾンビの特殊メイクなどに負けてはいない。

僕は黙って持ち場に戻り、そのあとのゾンビ2体の潜伏先も見つけて順番は把握しました

ゾンビ(特殊メイク)→ゾンビ(特殊メイク)→狼男(柔道着)→ゾンビ(特殊メイク)

オオカミ男いります??

僕はさらに納得いかない気持ちになり、勝負覆面であるフランケンのマスクに被り直しました

くそう、あんなの雇う金があるなら、こっちに予算を使ってくれよ

もっと金かければ、あんなゾンビ共なんかにゼッタイ負けないのに。

そうして無駄なイメージトレーニングをしているうちに最初の仕掛けが動く音が聞こえました。

もうこうなったら、やるしか無いのです。

やがて、ものスゴイ悲鳴。最初のゾンビだな・・・チッ良い反応じゃねぇか

そして二回目の悲鳴。来るな・・・。

しかし僕が思っていた進み具合より早いのです
最後のゾンビから僕のところまで普通に来れば30秒ほどかかるハズなのに、10秒たらずで直前の仕掛けが動いたのです。

これは走ってるな!間に合うか!
木の棒を鳴らす間もなく、井戸から強襲!

しかし僕の目の前にいたのはゾンビでした。
おおおおお。キモイ。

スプラッター系はどうも苦手です。

そして僕の獲物はとっくに走り去っていたのでした。

そう、このゾンビ共、追跡までしやがる。まずますこちらの立つ瀬無し。

ほんとここの社員は何も考えていないのだ。

惨敗です。

僕は心に誓いましたもうトイレの場所とか聞かれてもゼッタイに教えてあげません。

 

そうして大好評のうちにゾンビ館の初日は終了しました。

が、僕ら屋敷の先住民にとっては全く納得のいくものではない。
スタッフ一同、みんな同じ気持ちです。

仕事が終わったあとに皆で社員に詰め寄りました。


「どういうことですか?」
と一番年上の人が言いました。「こんなのが始まるなんて、聞いてませんでしたよ」

僕はメンバーの中でも一番年下なので、発言はせずに黙って頷いてました。


社員は面倒くさそうに頭を掻きながら言いました。「上からの命令なんだよ。思いのほか売り上げが良いみたいなんだ。だから夏休みの間にもっと盛り上げて稼ぐつもりなんだろう。俺だって聞いたのは昨日の夜だ」

現場で頑張ってる人たちのことを考えずに、現場にいない連中が自分の為に現場を動かす。よくありそうな話しでした。

「そんなに儲かってるなら、俺たちのオバケだってなんとかして下さいよ!」そう言ったのは現役プロボクサーの人でした。

僕はもっともだ!と深く頷きました。

プロボクサーは続けて言いました。「柔道着をもう一着増やしてください臭いです

うーん、そこじゃない。いや、それもあるけどね。

「いやいや」と僕はたまりかねて言いました。「柔道着も増やして欲しいのは確かですが、問題はそこではなく、夜の部に関しては自分らのお化け役は必要なくないですか」

みんなお化け役が好きで、お化け役の為に頑張って来た。僕だってそうだ。こんなことを言うのは断腸の思いであるが、言わずにはいられなかった。

「正直に言って、彼らゾンビの驚かせ方だと待ちに徹する自分らの驚かせ方は違います。今日だって彼の動きに合わせられませんでした。そもそも双方が勝手にやってるような状態なので、それならどちらかに絞った方が良いかと」

静まり返る一同。

神妙な面持ちの社員。少しして、「分かった」と大きく頷いた。

「じゃ、明日の夜からゾンビで行く」

だよね!!知ってた。

そうして次の日から、昼間は普通通りに僕らが驚かせ、夜はゾンビ様一行のオンステージとなったのである。

どうでもいいけど、なぜこの日本風のスーテジに洋を足そう足そうとするのか。

その2日後、僕たちスタッフのもとに新しい衣装が届きました。そこには怪物くんの家来ではない怖いマスクが3枚と、真新しい柔道着が一着。

いやーようやくこの柔道着を洗濯にだせますな。

じゃなくて、どうしても柔道着じゃないとダメなのか・・なぜなのか。

まぁとりあえず一件落着ということで。

でも僕は、自分で言い出しておいて何だが、なんとなくこのお化け屋敷のメインはゾンビ様ご一行になってしまったような気がして、オバケ役に以前のような情熱を見出すことが出来なくなっていました。

そんな僕の気持ちなんかに関係なく時間は過ぎてゆき、オバケ屋敷は夏休みが経過するにつれてどんどん盛り上がっていきました。

そんなある日の夜、僕はゾンビたちを監視するポストにいました。

そこに小学生くらいの女の子3人組がやって来ました。

やれやれ、なんだってこんな時間にこんな小さい女の子たちだけでお化け屋敷に入るのだろう。親はなにしてんだ。

いつも通りにゾンビが襲いかかると、その3人の女の子はビックリし過ぎて泣き出してしまい、その場にしゃがみ込んでしまいました。

それでもゾンビは脅かし続けています。

どう考えてもやり過ぎだろ。どんなに怖いアトラクションでもあくまでアミューズメントパークなのだ。変なトラウマ植え付けないでもらいたい。


僕は持ち場から出てゆき、ゾンビの肩をつかんで子供たちから引き離しました。

そして「大丈夫?」と言って子供たちに手を差し伸べると、子供たちは僕の方を振り向きました。

きゃあああああ

おい。

なんとか僕が人間あることを彼女たちに説明して、ようやく泣き止ませました。

まったく
こっちがトラウマになるところだ。


そのままポストに帰ろうとすると、一緒に行って!とせがまれたので、かなり恥ずかしかったけど女の子たちと手をつないでゴール。

3人の女の子は恥ずかしそうに、お兄さんありがと、と言って最後は笑顔で去っていきました。

僕は少しホッとして、彼女たちを見送っていると、社員が監視のオマエがソコで何をやっている的な視線で僕を見ていました。


時は流れ。

夏休みが終わると客もめっきり減り、僕もあれ以来もう以前のようなお化けに対する情熱もなく、9月いっぱいでバイトを辞めてしまいました。

一緒に働いていた年上の方が某大型文房具店のバイトを紹介してくれたのだ。

真っ暗な闇の中でお化けの声と不気味なBGMに囲まれた環境から一転、年上のお姉さん方に囲まれてけっこう幸せな日々を送っていました。

そんな僕に一つの不安がありました。

お化け屋敷を辞めてからずっと目がどうも霞んでいるのです。

最初は霞んでいるということにも気づかなかったけど、明らかに以前まで見えていた電光掲示板とかの文字が2重になったりして読めない。

文房具店の仕事はお姉さま方にコキ使われて嬉しくもなかなかハードな仕事だったので、疲れているのかな?と思って気にしないようにしていました。

しかし、その霞みは治るどころか、下手すればちょっと悪化しているような気がする。

もともと教科書もろくに読まない人間なので、目だけは良かった。両方とも1.5から落ちた事がない。

疲れている、つかれている、とり憑かれている、まさか!?

まさかオバケ屋敷の呪い???

日本人形とか100体くらい並んでたもんなぁ・・・。

僕は不安になって眼科に行きましたが、やはり疲れているだの、なんだのと目薬渡されたりするだけ。

3つめの病院で、先生は不思議そうな顔をして、視力テストを始めた。

その結果を見ながら先生は言いました。

「暗い場所でずっと本とかテレビとか見てたんじゃないの?
視力が落ちてるよ。あと乱視はいってるね。月とか2重に見えるでしょ」

あー。

 終わり。


夏といえば

2007年07月19日 | アルバイト奮闘記

始めたものの、あまりネタの無い我がブログですが、気がつけばもう夏ですね。


夏といえば「お化け屋敷」でしょう。

日本の夏、お化け屋敷の夏。夏はお化け屋敷の為に、お化け屋敷は夏の為に、そのくらい強い関係。

で、なぜこんな強引な展開になってるのかと言えば、18歳の夏にお化け屋敷でバイトしたことがあり、その話をしたいからです。

もう10年以上も前の話になりますが、とある遊園地のお化け屋敷がリニューアルされたということで、オープニングスタッフを募集しておりました。

その当時、僕はフリーターとプータローを激しく行き来しながら生きておったわけですが、このオープニングスタッフという甘美な響きにアコガレていました。

なんかキラキラしてる。

お化け屋敷という文字が気にならないワケではありませんでしたが、オープニングスタッフであればこの際なんでもいい。金もない。

そうしてとりあえず面接を受けてみたら意外とアッサリ採用されました。

バイトの当日。

スタッフの顔合わせが終わり、研修が始まりました。全部で15人くらいいたでしょうか。

どんな仕事をするのか社員が現地で実際に説明するというのです。そうして我らオープニングスタッフは実際にお化け屋敷の中に入って、これからする仕事を1から説明してもらいました。

説明が終わる頃には、僕が抱いていたキラキラした何かはお化け屋敷の暗がりに引きずりこまれていました。

なぜか滅多にない片頭痛に襲われていたワケですが、ここで説明された事を簡単にできる限り好意的に説明させて頂きます。



まず配置ポストが10あり、1は受付です。入場者から入場券をもらったり、混雑している時は入場制限などの管理をします。

社員命令でときには大声で宣伝するハメになったりもします。

2~5は監視です。センサーで人が来たことを感知して動く仕掛けは、たいがいその後ろや前方の壁の裏に監視者が付きます。

僕も最初はそんな事になっているなど思いも寄らずビックリしましたが、お化け屋敷はだいたい監視されてるのが当たり前みたいです。

なので、みなさんも恋人と入場してイチャつく時は気をつけて下さい。

完全に見られていますよ。凝視されてます。

壁がドーン!とかなったら、それは成仏できない魂の叫びではなく、悲しくリアルな監視員の声にならない叫びです。地縛霊の類。

決して、お化け屋敷では、いちゃついては、いけない(太宰治風)。

まぁもちろん監視係にカップルがイチャつくのを監視させるという拷問が目的ではなく、不審者やイタズラする人への警戒、前に進めなくなってしまった人や急病になってしまった人の救済、立ち止まって人の流れを滞らせてしまう人への注意、などなど、そういう地味な役目があるのです。

そして6。きました。このバイトにおける花形ポスト

お化け役です。

実際にお化け役になって、来る人を驚かし続けるというハードなポストでもあります。

7~9がまた監視。10が少し地味なお化け役。

監視ばっかじゃねーか。

1に監視、2に監視、3,4がお化けで、5に監視。

もう少し舞台作成に関わったり、オープニングスタッフならではの華やかな場面を想像してたのだが、暗闇で息を潜めて存在を表に出してはいけない簡単なお仕事です。

やっぱりヤメときゃ良かったかな。

実際にオープンするまではそうした葛藤がありましたが、オープンしてみるとさらに葛藤する事態に。

監視役なんて研修の時はただ座っているだけの退屈なポジションかと思っていたが、真っ暗でシーンとした中で一人で座って動かない仕掛けをジッと見てると、かなり不気味。

嫌な汗をかく。人形の目とか動いたりしないだろうな、とついつい仕掛けの類を凝視してしまう。やだなーこわいなー。

なんとか恐怖を取り除こうと心を無にしていると、お客さんが接近した事に気づかないで、いきなり目の前の仕掛けが動いて「うぉぉおぉぉ!!」と絶叫しつつ飛び出してしまい、お客さんもギャーってなって、少々社員から嫌な顔をされたこともありました。

そしてこのお化け屋敷バイトの花形!夢芝居。最も華やかなポスト!それがお化け役ポストなのです!

お化け役が最も華やかって、そこはかとなく悲哀が漂う職場ですが、放っておいてください。

その名の通り、お化け役は実際にお化けになって客を驚かせるワケですが、このときにただのバイトが出てきても、どれだけの顔面ポテンシャルを秘めていようとあまり怖くないので、当然お化けに変装しなければならない。

そんな僕たちに用意されていた変装用の覆面が、狼男、フランケン、ドラキュラの3種類。

危険があぶない。魔界のプリンスがお供に引き連れていそうなメンツ。

楳図かずおさんプロデュースという事もあり、日本の怪奇を前面に押し出していると思っていたけど。ジャンル的に合ってるんですかね、大丈夫ですかね。

楳図かずおさんと水木しげるさんを間違えてませんかね。あと藤子不二雄も少し混ざってる。

そしてその覆面に合わせる衣装がナゼか柔道着

生まれてこの方、柔道着を着たドラキュラを見た事ないのですが、わりと好んで着ていらっしゃるんですかね。僕にはよく分からない。

予算が無いのか、社員がちょっとアレなのか。

不安はいろいろありましたが、とりあえず僕のお化けデビューは狼男の覆面をチョイス。そして柔道着を装着!!

くっせぇー!

柔道着と間違えてタイカレー着ちゃったのかと思うほどのカホリが柔道着から漂っている。

どこの柔道部からくすねて来たんだよ・・・。

疑念は確信に変わった。

予算が無いのか、社員がアレなのか、ではなく、予算が無く、社員がアレなのだ。

刺激臭が目にくる。もはや取扱い注意。

そうなってくるとマスクも非常にアヤシイが、生活する為に時にはデンジャラス臭のする柔道着を着て、オオカミ男のマスクをかぶるような時だってあるさ。

無しでお願いします・・・

カフカ的な不条理を感じつつ、オオカミ男へと変貌を遂げた。

完全に見た目はただの剛毛な変態でしかないけど、とにかくこれで準備完了です。

そして何故か井戸の中で待機。

お客さんが来たら、この柔道着を着た狼男が何故か井戸の中からドベーッと飛び出るのだ。

もうツッコむ気力もないのだが、おかしくない?

廃墟の日本家屋の中を進み、処刑される和装の女性をやり過ごし、夥しい数の日本人形の前をなんとか通り過ぎて、その先に待ち構えるように現れる不気味な井戸。

何かが出てくるのは間違いない。怖すぎる。でも進まねばならない。でも絶対なんか出てくるよ!

そうして勇気を出して踏み出したその眼前に、やはり何かが襲いかかってくる。

やっぱ出たぁぁぁ!と恐怖におののき、しかと凝視した物体がオオカミ男でいいの?

いや、そこはフランケンの方が良くない?とかそういうことじゃなくて。根本的な問題としてね。

え?なんで!?ってならない?大丈夫?

入ってくる客よりも不安なお化け役。どうしてこうなった。

もうここまで来たら、なるようになれ、だ。

暗い井戸の中で座って客の接近を待つ。仕掛けの音で客がどこにいるのかは分かる。

自分の心臓の動きが早くなってゆく。そしてついに僕が待機してるポストの前の仕掛けが動いてる。

井戸の中の覗き穴から確認すると女の子が2人近づいてきます。とにかく女の子は恐怖心でイッパイな様子だし、さっさと済ませれば井戸から出てきたのがフランケンでもオオカミ男でも気づかないハズ。


そして僕は女の子がいちばん近づいた瞬間に井戸から飛び出し、
おおいかぶさるように身を乗り出しました。

ぎゃあああああ!!

という悲鳴と共に女の子たちは猛ダッシュ。再び井戸の中に座った僕の目の前には何か新しい世界が広がっていました。

というのは冗談で、でも人を驚かすのってけっこう楽しい。

つづく