タッド・ダメロンを忘れてはいけないといつも思っている。
40年代、ビバップの息詰まるような嵐の中にいて、彼のアレンジは常に優雅だった。まるで良質なミュージカルを観ているようだ。各ソロパートは、ビバップの最もエキサイティングな部分を殺さぬようコントロールされている。この絶妙な手腕がダメロンを単なる演奏者として捉えられない理由だ。
彼はコンポーザーとしても相当なものだ。ビギナーならいざ知らず、ジャズファンたるもの彼が作った曲を知らないとはいわせない。コルトレーンの演奏で有名な「Soultrane」やバド・パウエルが演奏した「Hot House」、バルネ・ウィランなどによる「Lady Bird」などなど、枚挙にいとまがない。
このアルバムも全曲見事な出来であるが、3曲目の「THE SCENE IS CLEAN」に耳を澄ましてみよう。
美しいテーマに沿って整然としたアンサンブルが終わると彼のピアノソロが始まる。彼は一音一音噛みしめながら静かに指を鍵盤の上に重ねていく。こんな弾き方が他にあっただろうか。全員がダメロンの指先に注目している、そんな張りつめた緊張感がこちらにも伝わってくるようだ。この間の取り方はモンクのようでもあり、ジョン・ルイスのようでもある。
タッド・ダメロンは1917年生まれというからパーカーよりもさらに年上である。
彼の元からファッツ・ナヴァロやジョン・コルトレーン、クリフォード・ブラウンらが育っていった。あのマイルスでさえ彼のコンボで演奏していた時期があったことを考えると、やはりこの人には先見の明があったといえる。
しかし彼がリーダーであるにもかかわらず、こうしたビッグネームがアルバムの一番いい場所に置かれていた。所謂不遇の人なのだ。
だからといって私たちはタッド・ダメロンを忘れてはいけない。彼は当時の最重要人物の一人であることは間違いないのだ。