SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

DON FAGERQUIST 「Eight By Eight」

2010年03月12日 | Trumpet/Cornett

やっぱりバラードが好きだ。
しかも夕陽に染まる海をバックに、こんなトランペットが響いていたらと思うと胸が熱くなる。
3曲目の「Smoke Gets in Your Eyes」や、7曲目の「Easy Living」のことである。
ドン・ファガーキストは、曲本来のメロディラインを崩さず、音色で勝負するタイプの人だ。
彼は一音一音噛みしめるように音を出す。
何といってもミュージシャンとしての彼のそういう姿勢が好きなのだ。
しかもマーティ・ペイチのアレンジによって、その傾向がより鮮明になっているからたまらない。
まだ聴いたことのない方は、見つけたら即お買い求めいただきたい。決して損はしないアルバムだと思う。

私はウエストコーストジャズに人一倍憧れがある。
ジャズそのものの魅力というより、フィフティーズという時代背景と、西海岸という舞台設定、そして若者たちの「白い青春」に惹かれるのだ。
ジョージ・ルーカスの作った「アメリカン・グラフィティ」は1962年の夏を描いていたが、それよりももう数年遡った時代である。
ジェームス・ディーンの「理由なき反抗」が正にその時代の象徴だといえる。
ポピュラーなミュージックシーンでいえば、ビートルズが出現する前、エルヴィスの全盛期だ。
そういえばエルヴィスにもひと頃熱を上げたことがあった。
特に「Don’t Be Cruel」や「Teddy Bear」といった曲のノリが好きだった。
こうした曲を聴いていると、まるで波乗りをしているかのような浮遊感と高揚感でいっぱいになる楽しさを味わえた。
当時の若者が何を考え、どんな生活をしていたか、何となくそれが曲を通してわかるような気がしてくるのである。

私はウエストコーストジャズを聴いていても、こうしたエルヴィスに通じる何かを感じるのである。
その何かとは、粋がっては見るものの、音は寂しがり屋で、集団の中にいないとどうにも耐えられないといった若者たちの思いではないかと思っている。
私にとっては、このセンチメンタリズムがウエストコーストジャズ最大の魅力なのだ。
リーダーはもちろんアート・ペッパーやジェリー・マリガンだったろう。
少なくともドン・ファガーキストではない。
しかし彼もまた、間違いなく西海岸の集団の中にいた一人なのだ。
音だけ聴けば、素直でまじめな秀才タイプ。
このアルバムは、そんな秀才が唯一主役に抜擢された貴重な作品なのである。


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