武道・禅の心で臨床を読み解く(武道、禅、心理療法、ボディワークを学ぶ理学療法士)

21年間の運動指導・700冊の書籍からリハビリ・トレーニングを読み解きます。
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画像所見と臨床所見

2010年09月17日 | 日記
key word:画像所見 臨床所見 機能・予後予測 可塑性

 先日、私の勤務する病院にて放射線科医師による「画像の診かた」について勉強会がありました。内容はいたってスタンダードなものでした。しかし、とても印象的だったのは「画像所見から予後予測するときに注意する点はありますか?」というセラピストから質問に対して「「画像所見」から予後予測はできません。人はタフで多様性に富んでいますから。」という返答でした。

この返答ってとても深~いと思いました。折しも今月のPTジャーナルの特集は「画像を活かした脳損傷のケーススタディ」です。

私が学生の時にならった神経内科の先生は「(脳は)何が何だか分からない」が口癖でした。脳の病理所見と臨床とでつじつまが合わないケースを沢山見てきたそうです。

個人的には画像所見から詳細な機能や予後予測はできない、と考えています。何故なら、そもそも健常者の脳の使われ方が皆かなり違うからです。勿論、科学技術がもっと進み、しかも脳損傷前の脳の使用パターンも把握できていて、損傷の前後で脳内での活動を多角的に分析できれば話は別だと思います。

考えてもみて下さい。同じものを同じ条件で見たとしても、自分と他人は全く違う処理・思考をするのです。人が100人いれば100人の脳内処理が存在します。

試験勉強をする時を例に取るとよーく分かります。他人と同じ勉強法をして失敗したことってありませんか?

伝えたいことがなかなか伝わらない人って周りにいませんか?

そもそも、自分の考えが伝わっている?

もし、あなたが「他人とのコミュニケーションで全く問題を感じない」と思っていたらそれこそ問題です。

ニコラス ハンフリー著「赤を見る」はモノを人が見る時についての哲学的かつ進化心理学的な深い洞察で私にとってとても新鮮な考え方を提供してくれました。この本は認知運動療法をかなり勉強している(イタリアまで学びに行ってます)職場の先輩から借りて読みました。徒手に偏っていた自分にはかなりの衝撃でした。

そして、Antonio .M.Battro著 医学書院 「半分の脳 少年ニコの認知発達とピアジェ理論」は脳の量は果たして最低限どれだけあれば機能するのかという疑問を提示しています。

健常者でも一人ひとり異なる脳(心)。そして容量が半分以下でも豊かに機能する脳(心)。

どうでしょう?画像所見からかなりおおざっぱな機能・予後予測はできるかもしれません。しかし、それ以上の詳細な評価は現在の医学・科学で可能でしょうか?こじつけでは?(と内省する気持が大切)

脳に関する本は沢山出ています。リハビリ関連の書籍が都合の良い文献ばかりを集めて論じている可能性はないでしょうか?受傷以前の健常者の多様性が無視されていたり、神経生理学や神経心理学の知識を中枢神経疾患にだけ適用しようとする現在の風潮も問題だと思います。

脳科学を勉強して人の思考が分かった気になっていませんか?もしくはそうなっている人が周りにいませんか?

論文を投稿する研究者は医学の進歩にとってとて~も大切な存在です。しかし、私達臨床家はブームに惑わされず公平かつ真摯な姿勢で患者さんに接し、そして研究者から呈示された文献を読み解いていく必要がありそうです。

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