『今、ふたたびの京都』(求龍堂)より
久しぶりの「東山魁夷をめぐる旅」ですが、本日は『祇園まつり』。1964~66年ごろのスケッチです。
京都の夏の風物詩・祇園祭りのハイライトである山鉾巡行は、テレビのニュースなどでもよく目にする光景ですが、今年、祇園祭を見に行って初めて、この絵が辻回しの場面であると気がつきました。
これは、去年から復活した後祭の「大船鉾」で、画伯の絵の鉾とは形が違いますが、扇子を持った方々は同じ動きをしていますね。
巡行では2か所の曲がり角があって、そこで「辻回し」という方向転換が行われるのですが、巨大な山鉾を人力で動かすのは至難の業です。車輪を回転させるための竹を敷く人、そこに水を撒く人、そして鉾をひっぱる人々。いろんな方たちの共同作業で成り立っています。この前方の方たちは、鉾を曳く時の呼吸を合わせるために、扇子を使って音頭をとっているのです。ずっと祭りを盛り上げるための「にぎやかし」だと思っていましたが、実は、重要な役目を担っているのですね。
驚いたことに、そうした実務的な役目を担っていながら、この方たちの動きがすこぶる美しいのです。扇子を返す姿は舞を舞っているかのようです。ただの作業を「芸術」にまで昇華させる。画伯はそれを「日本の美」と感じて魅せられたのだと思います。
また、山鉾を画面の大部分が占めるという構図で、祭りの大きさ、ひいては祈りの切実さが表現され、小さくとも賢明に役目を全うしようとする人間の営みを切り取ろうとしたのではないでしょうか。
ちなみに、こちらが絵と同じ型の山鉾。鉾の上の鳴り物と、垂らされた紐が連動していて、コンコンチキチと鉾の上の人たちが打つたびに躍動する紐の動きが美しいです。
写真を撮っていると、たとえスケッチでも十分に考え抜かれた構図であることがわかってきます。
もっともっと絵に込められた画伯の思いを探していきたいと思います。
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