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井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

クロイツェル20番①「永遠のミスプリント」

2019-04-17 22:39:00 | ヴァイオリン
《クロイツェル42の練習曲》は、ヴァイオリンを学習する人は必ず練習するものだが、平凡社の音楽大事典には「特にトリルの習得に優れている」というような記述がある。

確かにそうだ。8曲ほどの練習曲を全て練習すれば、トリルができなくて困ることはなかろう。

しかし、段々マンネリ化して、後ろの方は「とりあえず一応やっとくか」みたいな感じになりやすい。

大体、そのあたりからトリルも出来てくるから、多少完成度が低くても、まあ次でできれば良かろう、と思って先に進んでしまう(のは私だけ?…かもしれないけど)。

それで、半世紀近く見過ごしてしまったことがある。

私はずっと全音版を使っているが、この20番、7割ほど進んだところで、何調だかわかりにくい箇所がある。

自分が弾いたのは半世紀近く前、あとは専らレッスン生が弾くのを聞くだけなのだが、このあたりは皆さんふにゃふにゃ弾くことが多くて、音を外すことも多いから、調性感が弱くても、それは弾き方の問題と勝手に思っていた。

しかし、最近立て続けに生徒さん達がこの曲を練習しているのを聞くことになって、ようやく「何かおかしい」ことに気づいた。
つまり、ミスプリントの可能性があるように思えてきたのである。

以前は、何年も版を重ねてミスプリントが残るはずはないと勝手に思っていたが、さにあらず。私は「永遠のミスプリント」と呼んでいるが、例えば23番にある32分音符は、正しくは16分音符。しかし、半世紀以上ミスのままだ。

驚くには当たらない。シェフチーク(セブシック)には1世紀ミスのままというのがある。21世紀になり、さすがに新しい版が出たのだが、新たなる「ミスプリント」箇所が生じた。やはり「永遠のミスプリント」というしかない。

こういう時にIMSLPは助かる。正しい音符は……。

ピアノの屋根③バス楽器としてのピアノ

2018-11-03 22:26:00 | ヴァイオリン
全開か半開かを問題にするのは、本来弦楽器とフルートだけのはずだが、他の管楽器の方々が時々問題にしていることがある。これは時間の無駄だから、問答無用で「全開」以外を考えないでいただきたい。

それで、なぜ弦楽器とフルートで問題になるかというと、もちろん音量のバランスがとれないからなのだが、本当は「とれる」はずだ。ピアノもフォルテも出せる「ピアノフォルテ」という楽器なのだから。

なぜバランスがとれないか、それはピアニストがソロ曲を弾くのと同じ感覚で、アンサンブル曲を弾いてしまうからだ。

アンサンブルをする前に「ピアノを鳴らせ、鳴らせ」という指導をずっと受けていたのだから、無理もない。ピアノに限らず、楽器の技術習得では、まず鳴らすことを目指すものである。

しかしアンサンブルのことを考えると、多分それまであまり考えたことのない視点を持たざるを得ない。
つまりピアノが「低音(バス)」を担当する楽器になるということだ。

協奏曲以外、他の楽器が低音を担当してピアノが中高音を担当する、という曲は「無い」。

なので、まずピアノパートの低音(左手)と他の楽器で一部分合奏してみる。これだけでも音楽の骨格が出来上がることがわかるはずだ。
次に「その骨格を崩さない」よう注意して、同じ箇所を内声(右手)を入れて弾いてもらう。

耳をよく使ってもらえば、これで大抵は理想のバランスにかなり近づく。

屋根を全開にすることは、このように音楽作りにも密接に関わりがある。

ピアノの屋根②半開

2018-10-31 20:36:00 | ヴァイオリン
ピアノの屋根を全開にすると、ヴァイオリンの音が聞こえなくなる。だから半開以下、というご意見をよく聞く。他の弦楽器やフルートでも聞く。

それに対して、一番乱暴なご意見は…

「当たり前じゃないですか。ピアノの方が大きな楽器だから、ピアノが聞こえて当然ですよ。」
と、日本を代表するピアニストの一人がラジオで言ってのけたのを聞いたことがある。

弦楽器奏者からは一斉に反感をかう発言だが、ピアニストの中には、そう思っている人も少なからずいて、上記の発言は必ずしも暴言ではないのかもしれない。

では、屋根を半開以下にすると、ピアノの音量は下がるのか?

演奏者とピアノの組み合わせで、確かに音量が下がって聞こえる場合もある。(正確には、半開にすることで、届きにくくなる音の成分がある。うるさくはないかもしれないが、こもった響きになるのは否めない。)

逆に、演奏者、ピアノ、会場次第では、響きが一方向に集約されて、うるさくなることもあるのだ。

このように事情は単純ではないから、一概に半開を勧めるのには抵抗がある。

だが、一般的に、半開にすると音量は減ると信じられているし、全開論を展開するほどの時間がある訳でもない場合、面倒を避けて「半開で」と言ってしまう。

ピアノの屋根①どうしますか?

2018-10-29 20:31:00 | ヴァイオリン
何回か書いたような気がするが、コンクールの度に少々困惑するのである。
「ピアノの屋根、どうしましょうか」

「ふた」という言い方もあるが、おかげで、ドイツ語で何と言うか(留学生一同と私)誰も思い出せなかった思い出がある。30年も前の話だが。

ドイツ語ではdas Dach, 英語ではroof、なので日本語でも「屋根」と言い慣れておいた方が良い、というのがその時の教訓である。

さて、ピアノとの二重奏の場合、屋根をどうするか。

本当は「全開」に決まっているのである。
理由は、全開を前提にピアノ自体が設計されているからだ。
全開でないと、様々なニュアンスを伴う多彩な音色が聞こえてこない。

その多彩な音色をシャットアウトした方が良い理由はどこにもない。
だから「当然全開」……

となかなかならないのが世間である。

踊るバッハ

2017-12-18 08:23:00 | ヴァイオリン
ヴァンクーヴァーに行く旅費を稼ぐために、ヴァンクーヴァーで小規模な演奏会を開いてもらった。

これがまた大変なことが数々あったのだが、その詳細は機会があれば別に述べるとして…

企画側から「(乳幼児も入れる)ファミリーコンサートにしてほしい」という申し入れがあった。企画の当初からではなく、途中からの申し入れである。

それは基本的にはOKだけど、それにバッハの無伴奏曲を聴かせるとは……。どうなるのか、全く見当がつかない。

これが自分の企画だったら、バッハを聴かせるということはしないと思う。
しかし、よくわからないヴァンクーヴァーでやること、よくわからないままやってしまおう、というノリでやってしまった。

ふたをあけたら、聴衆の3~4割は子供、しかし親が隣に座り、きちんとコントロールしている感じ。通路をうろつく子供もいたけど、騒音を立てる子は皆無。

想像以上に静かだったので、かえってこちらが緊張してしまった。この静けさを維持したい。そのためには、みたいなことばかり頭をよぎった。

演奏したのはパルティータの第三番だったが、むしろ私の方が静けさのプレッシャーに堪えかね、ブーレとジーグは予定していた繰り返しを省略してしまうほどだった。

一方、子供達には予想以上に「伝わった」ようである。
知人を通じていただいた6秒の動画でそれがわかった。
プレリュードに合わせて、弾き真似をしていたのだ。

こういう反応は実に嬉しい。
教会で演奏したから、神様が手伝ってくれたかもしれない。
諸条件重なっての結果だとは思うが、子供だからジブリやディズニー、とは限らないことが実証できた貴重な体験であったことは間違いない。

改めて、企画し手伝ってくれた皆さん、集まってくれた聴衆の皆さんに感謝する次第である。