(今日はかなり技術的に立ち入った話になります)
電気回路では代表的な理想素子として
・R(抵抗)
・C(コンデンサ)
・L(インダクタ)
の3つがある。
とりあえずここでは理想電源はおいておこう。
これらは電圧と電流の関係を比例, 積分, 微分の関係で説明することができるため、数学的なとりあつかいが非常にカンタンである。
まあそんな小難しいことはどーでもいい。
ここであげたR, C, Lにかぎらず、現実世界の部品やら何やらはそうそう理想的な性能は発揮しない。
そして、その性能を阻害する要素について、等価回路のいろんなところにR, C, Lを余分にくっつけて数学的に説明しやすくてなおかつ現実世界の部品の性能とピッタリ合うモデルを作ろうとする。
その余分にくっつけたR, C, Lのことを寄生素子という。
きっと、くっついてほしくないのに勝手にくっついてる寄生虫のようなモノという意味で寄生素子と命名されているのだろう。
このうちRは他のC, Lに比べたらそんなにモデリングに困ることはない。
固定値で表現できなかったとしても、周波数の0.5乗, 1乗, 2乗くらいまでの比例項を加味してやればけっこうイイ感じにモデリングできることも多い。
まあ、分野によるかもしれないが。
CもLほどには困らない。
どっか1箇所に集中的に寄生コンデンサがくっついているものとして表現しても物理的にさほど変ではないケースも多い。
そこら中いたるところに小さな寄生コンデンサ成分がくっついているような状態だったとしても、(後に述べるようにR, C, Lで十分モデリングできるようなケースであれば)モデルを分割して細かいCをたくさん入れてやればそこそこイイ感じのモデルができるようになる。
しかし!
Lはクセモノである。
むりやりLでモデリングしようとしてもうまくいかないケースがある。
特に高周波や高速信号伝送の世界ではうまくいかない。
しかしながら、R, C, Lをつけとけばそこそこ精度の高いモデルが作れるはずだと信じて疑わない技術者があまりにも多すぎる。
その人たちが作ったモデルは使いモノにならんという程度より少々マシな程度でしか使えない。
けれどもモデリングしたヤツらはそれでカンペキにできていると思い込んでいるからタチが悪い。
なぜLでモデリングしたらうまくいかないのか?
高周波や高速信号伝送の世界において信号の伝播に遅れが出ることをLとCでムリヤリ表現しようとするからだ。
伝送線路の一端から信号を入れたとする。
そうすると伝送線路上を光の速さで信号が伝播する。
伝播している信号の電圧により、伝送線路の周囲には電界が発生する。
伝播している信号の電流により、伝送線路の周囲には磁界が発生する。
それぞれがCの要素とLの要素になる。
これらC, Lは伝送線路の長さがないと発生しない。
長さが信号の波長より非常に小さい場合のみ、つまり非常に低い周波数のみ、それは単なるC, Lとして見える。
周波数が高くなっていって長さが信号の波長に近くなればなるほど、単なるC, Lとしては見えなくなる。
なぜか?
そんなのはアタリマエで、CもLも1つの理想部品という換算なので、長さがあるモノをモデリングするには向いていないのだ。
具体例を出そう。
プリント基板のVIAをモデリングしたいとする。
VIAのランドはCの1つで置きかえてもまあまあ良い近似が成り立つ。
VIAのランドのでっぱりのところで集中的に容量性が発生しているからだ。
(準ミリ波近くでフィルタを作ろうとしたらこのモデルでは不十分なのだが、まあそれは置いておこう)
VIAの入り口から出口までの長さの分はどうだろう。
ふつうはLでモデリングする。
非常に低い周波数であればそれも良く合う。
ではどうだろう。
VIAの入り口から出口までの長さで共振するような周波数でもそれが使えるか?
使えるわけがない。
L単体では共振は表現できないので、その周波数ではさっきのモデルでは現物とは似ても似つかないヘンテコなモノになる。
ではどうするか?
ふつうの人はLに並列にCを入れて、それでムリヤリ共振を表現しようとする。
これなら合うのか?
入れないよりはだいぶマシになる。
けれども次の共振はもちろん表現されない。
次の共振を表現するにはどうするか?
また別のCとLをつけて・・・(以下略)
・・・そんなのでうまくいくわけがない。
その事をモデリングしたヤツに問い詰めたらどうだろうか?
そこそこの周波数まで合うモデルだからそれで十分だ。
そう言われるのが関の山だ。
・・・そんなんだからいつまでたっても精度の高いモデルを作れないんだよ!
物理的に長さが存在するモノに関しては、論理的に長さが表現されているモデルを使うしか合わせる方法はない。
シミュレータにもよるが、物理的に長さが発生している部分はtime delayやtransmission lineというような、信号は光の速さでしか伝播できない事を意味する時間遅れを考慮できる素子を使ってモデリングするべきだ。
R, C, Lを使った教科書的なモデルではせいぜい1次の共振まで現物と合っているのがせいぜいだ。
小細工して変なところにC, Lをやたらめったら沢山くっつければ2次か3次くらいまでまあまあ合うのは作れるようになるかもしれない。
しかし、分布定数の素子を使えばムチャクチャカンタンな等価回路で3次以上のかなり高い次数の共振までピッタリ表現できるモデルをポイッと作れてしまう。
高周波や高速信号伝送の世界においては、こういう等価回路を用いなければ正しいシミュレーション結果を吐き出さないケースも多々ある。
それに気付いていないヤツらがR, C, Lでモデリングをして
「これを使えばバッチリ合うからカンペキだ!」
と偉そうにモデルを提供したりスペックを規定したりしてくるからさらにたちが悪い。
わたしがタイトルにあるように
「インダクタは嫌いです」
と言ったのは単なる部品としての好き嫌いなわけではい。
等価回路に安易にインダクタが使われているのを好まないという意味で書いたのだ。
この問題は、電子回路のエンジニアは一般的にコンデンサをイメージするのは得意だがインダクタをイメージするのが苦手だという事に起因している気がする。
コンデンサはエネルギーを電荷として蓄える。
インダクタはエネルギーを磁束として蓄える。
電気はふだんからなじみがあるので電荷はイメージしやすいが、磁気はなじみが無いから磁束はイメージしにくい。
寄生コンデンサというのは勝手な電界が立つことを意味する。
寄生インダクタというのは勝手に磁界が回るのを意味する。
これも同様に、電界はイメージしやすく、磁界はイメージしにくい。
これは恐らく、信号が通るとどういう風に磁束が発生して、それがどう等価回路的な定数として動作するのか、そういう事を理解しないままに誰かが考えた等価回路をそのまま使い回しているヤツがモデリングをするからおかしなことになるのだろう。
しかし、ちょいと頭をひねればましな等価回路などすぐできる。
みんながんばろうぜい!
電気回路では代表的な理想素子として
・R(抵抗)
・C(コンデンサ)
・L(インダクタ)
の3つがある。
とりあえずここでは理想電源はおいておこう。
これらは電圧と電流の関係を比例, 積分, 微分の関係で説明することができるため、数学的なとりあつかいが非常にカンタンである。
まあそんな小難しいことはどーでもいい。
ここであげたR, C, Lにかぎらず、現実世界の部品やら何やらはそうそう理想的な性能は発揮しない。
そして、その性能を阻害する要素について、等価回路のいろんなところにR, C, Lを余分にくっつけて数学的に説明しやすくてなおかつ現実世界の部品の性能とピッタリ合うモデルを作ろうとする。
その余分にくっつけたR, C, Lのことを寄生素子という。
きっと、くっついてほしくないのに勝手にくっついてる寄生虫のようなモノという意味で寄生素子と命名されているのだろう。
このうちRは他のC, Lに比べたらそんなにモデリングに困ることはない。
固定値で表現できなかったとしても、周波数の0.5乗, 1乗, 2乗くらいまでの比例項を加味してやればけっこうイイ感じにモデリングできることも多い。
まあ、分野によるかもしれないが。
CもLほどには困らない。
どっか1箇所に集中的に寄生コンデンサがくっついているものとして表現しても物理的にさほど変ではないケースも多い。
そこら中いたるところに小さな寄生コンデンサ成分がくっついているような状態だったとしても、(後に述べるようにR, C, Lで十分モデリングできるようなケースであれば)モデルを分割して細かいCをたくさん入れてやればそこそこイイ感じのモデルができるようになる。
しかし!
Lはクセモノである。
むりやりLでモデリングしようとしてもうまくいかないケースがある。
特に高周波や高速信号伝送の世界ではうまくいかない。
しかしながら、R, C, Lをつけとけばそこそこ精度の高いモデルが作れるはずだと信じて疑わない技術者があまりにも多すぎる。
その人たちが作ったモデルは使いモノにならんという程度より少々マシな程度でしか使えない。
けれどもモデリングしたヤツらはそれでカンペキにできていると思い込んでいるからタチが悪い。
なぜLでモデリングしたらうまくいかないのか?
高周波や高速信号伝送の世界において信号の伝播に遅れが出ることをLとCでムリヤリ表現しようとするからだ。
伝送線路の一端から信号を入れたとする。
そうすると伝送線路上を光の速さで信号が伝播する。
伝播している信号の電圧により、伝送線路の周囲には電界が発生する。
伝播している信号の電流により、伝送線路の周囲には磁界が発生する。
それぞれがCの要素とLの要素になる。
これらC, Lは伝送線路の長さがないと発生しない。
長さが信号の波長より非常に小さい場合のみ、つまり非常に低い周波数のみ、それは単なるC, Lとして見える。
周波数が高くなっていって長さが信号の波長に近くなればなるほど、単なるC, Lとしては見えなくなる。
なぜか?
そんなのはアタリマエで、CもLも1つの理想部品という換算なので、長さがあるモノをモデリングするには向いていないのだ。
具体例を出そう。
プリント基板のVIAをモデリングしたいとする。
VIAのランドはCの1つで置きかえてもまあまあ良い近似が成り立つ。
VIAのランドのでっぱりのところで集中的に容量性が発生しているからだ。
(準ミリ波近くでフィルタを作ろうとしたらこのモデルでは不十分なのだが、まあそれは置いておこう)
VIAの入り口から出口までの長さの分はどうだろう。
ふつうはLでモデリングする。
非常に低い周波数であればそれも良く合う。
ではどうだろう。
VIAの入り口から出口までの長さで共振するような周波数でもそれが使えるか?
使えるわけがない。
L単体では共振は表現できないので、その周波数ではさっきのモデルでは現物とは似ても似つかないヘンテコなモノになる。
ではどうするか?
ふつうの人はLに並列にCを入れて、それでムリヤリ共振を表現しようとする。
これなら合うのか?
入れないよりはだいぶマシになる。
けれども次の共振はもちろん表現されない。
次の共振を表現するにはどうするか?
また別のCとLをつけて・・・(以下略)
・・・そんなのでうまくいくわけがない。
その事をモデリングしたヤツに問い詰めたらどうだろうか?
そこそこの周波数まで合うモデルだからそれで十分だ。
そう言われるのが関の山だ。
・・・そんなんだからいつまでたっても精度の高いモデルを作れないんだよ!
物理的に長さが存在するモノに関しては、論理的に長さが表現されているモデルを使うしか合わせる方法はない。
シミュレータにもよるが、物理的に長さが発生している部分はtime delayやtransmission lineというような、信号は光の速さでしか伝播できない事を意味する時間遅れを考慮できる素子を使ってモデリングするべきだ。
R, C, Lを使った教科書的なモデルではせいぜい1次の共振まで現物と合っているのがせいぜいだ。
小細工して変なところにC, Lをやたらめったら沢山くっつければ2次か3次くらいまでまあまあ合うのは作れるようになるかもしれない。
しかし、分布定数の素子を使えばムチャクチャカンタンな等価回路で3次以上のかなり高い次数の共振までピッタリ表現できるモデルをポイッと作れてしまう。
高周波や高速信号伝送の世界においては、こういう等価回路を用いなければ正しいシミュレーション結果を吐き出さないケースも多々ある。
それに気付いていないヤツらがR, C, Lでモデリングをして
「これを使えばバッチリ合うからカンペキだ!」
と偉そうにモデルを提供したりスペックを規定したりしてくるからさらにたちが悪い。
わたしがタイトルにあるように
「インダクタは嫌いです」
と言ったのは単なる部品としての好き嫌いなわけではい。
等価回路に安易にインダクタが使われているのを好まないという意味で書いたのだ。
この問題は、電子回路のエンジニアは一般的にコンデンサをイメージするのは得意だがインダクタをイメージするのが苦手だという事に起因している気がする。
コンデンサはエネルギーを電荷として蓄える。
インダクタはエネルギーを磁束として蓄える。
電気はふだんからなじみがあるので電荷はイメージしやすいが、磁気はなじみが無いから磁束はイメージしにくい。
寄生コンデンサというのは勝手な電界が立つことを意味する。
寄生インダクタというのは勝手に磁界が回るのを意味する。
これも同様に、電界はイメージしやすく、磁界はイメージしにくい。
これは恐らく、信号が通るとどういう風に磁束が発生して、それがどう等価回路的な定数として動作するのか、そういう事を理解しないままに誰かが考えた等価回路をそのまま使い回しているヤツがモデリングをするからおかしなことになるのだろう。
しかし、ちょいと頭をひねればましな等価回路などすぐできる。
みんながんばろうぜい!