そうなったら、北朝鮮が日本を核攻撃すると威嚇したり、万に一つ、実際に核攻撃を仕掛けてきたりしたとしても、ア メリカは自国都市に対する北朝鮮の核による反撃を恐れて、日本のために北朝鮮に核攻撃をすることなどできにくくなるだろう。中国については、すでにそれに 似たような状況も出現しており、アメリカのいわゆる「核の傘」は、日本に関しては怪しくなってきているのである。
たどり着いた結論は、アメリカ合衆国だけに「建国の理念」があったからだという、ごく平凡なものだった。同時に、 今やその「建国の理念」が薄れて、アメリカの哲学者アラン・ブルームが、ベストセラーとなった著書、『アメリカン・マインドの終焉』の中で、とうの昔に指 摘していた通り、財政赤字のために軍事費を大幅に削減するしかない今のアメリカは、昔のアメリカではなく、また、人種的にもヒスパニックの人口比率が増大 しているせいもあって、他の「新世界」国家と同じような、歴史も文化もない、ただ退屈なだけの国にならざるを得ないということだった。
世界の2000年の戦争史を見ても、敗戦国民がこれだけ戦勝国民に教化された例は、他には全く見ることができな い。その結果として、何とまあ60年もたっているのに、日本人はいまだに自国を自国で防衛しようともせず、負けた相手のアメリカに頼り切っているという状 態である。そのアメリカが先に書いたように、「普通の国」になろうとしているのだから、日本だけが「丸裸」で、置いてけぼりを食っているとしか言いようが ないだろう。
日本人には〈核アレルギー〉があり、核を論ずることは〈タブー〉になっているとよくいわれる。広島、長崎に原爆を 投下され、大量の人々がそのために死んだのだから、日本人の間に核に関する〈アレルギー〉と〈タブー〉が生まれたのも分からないではないが、普通の大人な ら、ロシアと中国に加えて北朝鮮までが核武装国になって、その3カ国に取り囲まれている現在、日本だけが核武装をしていなければ、彼らと完全に対等な口が 利けなくなるのは、分かり切ったことである。
中国は、古典の『戦国策』や『韓非子』などを読んでみればすぐ分かる通り、あらゆる側面で虚偽と謀略に満ちた恐ろ しい国である。したがって、北朝鮮のようにいきなりミサイルを撃ち込んだりはしないが、中国の属国になって支配されるという、あってはならない状況に陥っ たら、どんなに不幸になるかは、現在のチベットやウイグルの例がよく示している。絶対にそうならないために、日本が少数の核を保有するのは、当然すぎるほ ど当然なことだと、筆者には思えるのである。
しかし、なぜか日本の政治家には、そういう議論をする人が少ない。保身と大衆受けのために愚かな〈タブー〉に従っ ているだけだとすれば、何という頼りない人々だろうかと思う。どうか、若い政治家の中から、この有害な〈アレルギー〉と〈タブー〉を打ち破る人々が出てき てほしいと思う。(いりえ たかのり)