米国から中古の空母と技術者込みで購入するのが一番早い
日本の制空権を守る方法です。
産経ニュース より
中国海軍の航空母艦・遼寧が就役した。東・南シナの覇権確立を目指す戦略が透けて見える。本 格的(正式)空母が実運用されて以来、制海権確保には海洋制空権確保が不可欠になったためだ。日本のエネルギー資源の9割が東・南シナ海を通過するから、 この海域の覇権は日本の政治・経済の命運を確実に握る。今以上に、日本政府は中国に卑屈になるということだ。
日本の持ち時間は10年
発展途上の中国空母は数々の課題・問題を抱えており楽観する専門家もいるが、それは違う。10年後に空母機動艦隊が創設されれば、低戦力であろうが、海空軍力に乏しい東南アジア諸国への政治・軍事的効果は飛躍的に増大。ヒト・モノ・カネの減少に歯止めのかからぬ自衛隊との戦力バランスが大きく崩れる「元 年」ともなろう。中国空母機動艦隊を迎え撃つ戦略・戦術・作戦の構築は急務となった。持ち時間は僅か10年。
遼寧はウクライナから購入したワリヤーグを、6年もかけて改修し、昨年8月以来、10回の試験航海を繰り返してきた。
最大の問題は、艦上機発艦が「スキージャンプ」方式による点。発艦するには「蒸気カタパルト=射出機」方式もあるが、蒸気カタパルトを生産できる国は米国 をおいてない。そのはずで、Y字型のパチンコで石を飛ばすイメージといえば容易いが、九十数メートルの滑走で、30~35トンもの艦上機を2~3秒間で時速300キロまで加速させられる技術が伴うからだ。
これに比べ、スキージャンプ方式は艦首を6.5度~14度の勾配を付けて反らせ、高推力の艦上機で一気に離陸させる。ソ連の方式で、遼寧はこれを踏 襲するが、おのずと限界が生じる。ソ連戦闘機の場合、武器(ミサイル・弾薬)と燃料の搭載量を著しく落とさなければ、重くて発艦できなかった。
そればかりか、蒸気カタパルトが、基数によっては70~90機の艦上機を「数~数十秒」間隔で発・着艦できるのに対し、艦首に一個所あるだけのジャンプ台 からだと、30~70機と少ない艦上機数の割に相当な時間がかかる。艦上戦闘機は大空に舞い上がって初めて戦力と成り得る制約や、戦闘機・ミサイルの超音速を考えると、発艦時間の大きな差は致命的でさえある。
至難の艦上機運用
実のところ、ソ連軍は冷戦中、米ソ空母の大きな性能格差も引き金となり、対米戦略を見直したのだった。
そもそも、艦上戦闘機の性能はどうなのか。中国が“開発”したのは殲撃(J)15で、ロシアの艦上戦闘機Su(スホイ)-33のコピー。といっても、ロシアの技術供与ではない。ソ連邦崩壊の余波で、ウクライナで10年近く放置され、飛行不能に陥っていたSu-33の試作機T10K-3を2001年頃入手し、見よう見まねで“開発”した。これに激怒したロシアは中国への支援・取引を棚上げしている。
そのソ連軍でさえ、Su-33の後継改良機Su-33UBを空母から発艦(05年)させたが、着艦時にオーバーランして海中へ転落している。中国は殲撃-15の陸上基地からの離陸には成功したものの、いまだ空母からは発艦していない。発艦できても、武器・燃料の搭載量がソ連機並みでは、日米の戦闘機には太刀打ちできない。
斯くも艦上機の運用は難しい。だが、中国にとり利点もある。艦上機の運用過程で失われる人命を、意に介さない冷酷な体制だ。米海軍では、艦上戦闘機をプロペラからジェット化した1949年から、米空軍機以下の事故率に下がる40年後までに1万2000機と8500 人の搭乗員を失った。多大な犠牲の上に、発・着艦時における艦上機の速度・角度や空母の向き・速度を算出していったのだ。
3個の機動艦隊が必要
続く課題は、空母の「立体的運用・防御」である。航空要員を含め5000~6000人もの人員を抱える米原子力空母はコンビニエンスストアやクリーニング 店、映画館や放送局まで備える「動く基地」。撃沈は論外で、1隻でも深刻な被害を受ければ世界戦略に影響が出る。このため対空・潜水艦用水上艦艇が5~8 隻、攻撃用原潜2隻、補給艦1~2隻で護衛艦隊を編成する。東・南シナ海をカバーし、任務や訓練、修理、乗組員の休養を考えれば、中国も最低空母5隻と3 個の機動艦隊が必要となる。
その上、地球は丸い。敵航空機・ミサイルの飛翔動向を、できるだけ早期に遠方で掌握することは水上艦艇のレーダーだけでは困難。低高度で進入する 飛翔物体の監視でも心許ない。E2Cなど早期警戒機を艦載し、交代で上空警戒を続けることが必須だが、この点における中国軍のレベルが判然としない。軍事衛星とのリンクも、どの段階にあるか情報が不足している。打撃群内各艦による空母防御任務の分担などは、以上のように指揮・統制・通信・コンピューター・ 情報・監視・偵察を一体・共有化する「C4ISR」システム構築が前提と成る。
従って、米原子力空母1隻の建造費(艦上機は別)は 4500億円、年間維持費は400億円。艦上機を含め空母打撃群全体の維持費に至っては年間1兆円だという。一定水準の運用が成るには20年は掛かるに違いない。しかし、中国はたとえ経済が悪化しても、米空母打撃群のレベルに遠く及ばなくても、人民を飢えさせても、偏執的な愛国主義とスパイ網に支えられ、 膨大な予算と技術的困難をある程度克服するかもしれない。
我が国は「その時」に備え、中国空母機動艦隊の監視・分析を続け、弱点を見極め、10年計画で対抗兵器・部隊を育てていく運命を背負ったのだ。例えば、戦闘機や艦艇から発射し、超低高度で迫る対艦ミサイルなどの導入・量産が求められる。空中給油機に加え、発射元となる航空機・艦艇の配備・量産が不可欠なのは言うまでもない。
主権侵犯を何度も繰り返され、政府はその度に「冷静な対応」を呼びかけるが、真に「冷静な対応」とは、斯くなる覚悟と戦備をいう。(政治部専門委員 野口裕之)