Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

035-奇妙な符号

2012-10-22 22:22:44 | 伝承軌道上の恋の歌

 トトがモノに連れられてきたのはカラーセラピー『アミダラ』。地下へ続く打ちっぱなしの階段を下りて分厚い防音扉を押し開けると、薄暗いバーになっている。白い大きなカプセルの上半分を斜めに切り取ったような変な形の一人用のソファが並んでる。大仰なゴーグルをはめて寝そべっている本多をトトは隣から少しあきれて眺めていた。そのゴーグルの中では気分に合わせて色んな模様や色が広がる仕組みらしい。
「…面白いところだね」トトは手持ち無沙汰にそう言った。
「…まあ、これを見ろよ」
 モノが差し出した雑誌の表紙には『ベル・メカニック』とそう書いてある。トトは怪訝そうな顔をしながら受け取ると、数ページめくって眺めてみる。
「『デウ・エクス・マキーナ・プロジェクションのデザイナーがついに出現!』だって」
 写真を見ると、灰色に染めた髪に無精髭を蓄え、目はトカゲを思わせるコンタクト・レンズを入れてる男が写っていた。脇にいる女性はゴシック調のドレスに身を包み黒い髪をマキーナと同じに結んで、車椅子に座っている。『長い沈黙を破って、今、全てを話そう』そんな見出しが踊ってる。
「…この人達が本当にそうなの?」
「イナギとヨミは自分たちを真似たって言ってるらしいぜ?『委員会』が仕掛けてきたんだろ?どこで拾ってきたやつらか知らないけど…」
「マキーナってそういうんじゃないって聞いたけど…」
「よく見ろよ、デウ・エクス・マキーナのロゴの隅に○Cがついてる。以前はなかったのにいつの間にかついてる。最近じゃあスフィア界隈でも噂になってる。後ろで絡んでるのが結構黒いんだよ。デウ・エクスのイベントのチケット売り上げもかなりの部分が架空でマネー・ロンダリングに使われてるって…」
「わたし、モノくんのやってることちょっと怖いな…」
「ああ、俺もゾクゾクしてる」
 白くて長いモノの首筋に『002』と刺青で番号の振ってあるのが覗いた。
「ねえ、その番号って何の意味があるの?」
 そう聞くトトに本多は仰向けのまま口だけを動かしてる。
「いいだろ?製造番号だよ。マキーナにも同じ場所にあるの見たことあるだろ?」
「あるけど…」
「マキーナってアンドロイドだろ?でもその数字は01なんだ。これは解釈が分かれてる。試作品の『000』があったのかって話。それに番号があるってことは後継機も作られるのが前提だったのかもしれないんだ。そのキャラクター達もこぞってスフィア化されてだんだんと像を結んでる。まだ完全にフォーカスされてないから、ディテールはバラバラだけどね。この『002』はマキーナと対になった男性型アイドロイド、マキーノ」
「ふうん。そういうのって誰が考えるの?」
「それがスフィアさ。自然と生まれるんだよ。スフィアっていうのはそれぞれの端末、つまり俺達みたいなファンからフィードバックして展開してくんだ。それがあのイナギの事故以降どんどん加速して行ってる。いつかこれがマキーナの物語に組み込まれる。それで俺は気づいたんだ。なんでここまでデウ・エクス・マキーナがブームになったのか。それにはこの背後に恐ろしく大きなものが蠢いているからなんだ。その最初の『ゆらぎ』に気づいたのがイナギだったんだ」
「でも、もうイナギは…」
「…ああ。ただ、イナギの一連の狂った行動には深い意味がある。覗き込んでも底がまるで見えない深い深い謎が横たわってる。むしろ、知ってしまったから、その層までアクセスしたからああなったんだ。この一番深い層(レイヤー)にはまだアノンも行き着いていない。でもな、トト、俺はそれをもうすぐ手に入れられそうなんだ」
「…どういうこと?」
「いつか分かるさ。お前にもみんなにも…ただ、もうどうでもいいみたい。オリジネイターが誰かなんて。回り始めた地球ならもう住む人はそのことを深く考えたりしないんだ」
「何かの事実を物語に起こったことだって話は信じてる?」
「さあね。ただ、そう信じさせたい人はいたんだろ?真似してビラ配りまでしていた人の話はよくしてる。だからイナギは殺そうとしたんだろ。そういう話さ」
「…先輩は嘘なんかついてない!」
 思わずトトは声を荒らげると、モノはゴーグルを外して前髪をいじりながら皮肉っぽく笑った。
「まあそういきるなよ。…ただね、スフィア界隈で妙な噂が広まってる。シルシってやつは嘘つきだって…ビラまで配ってやってるあの事故も全部嘘だって」
「…そんな…」
「…イナギが触れた最下層のレイヤー、この物語のオリジナルに関わってることさ」
「…帰る」
 トトはうつむいたままその場に立ち上がる。
「今は辛くてもいつか分かるさ。シルシのことも俺のことも」
 トトはそれには答えずに足早に店を後にした。

…つづき

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