浅井久仁臣 グラフィティ         TOP>>http://www.asaikuniomi.com

日々の出来事から国際情勢まで一刀両断、鋭く斬っていきます。コメントは承認制です。但し、返事は致しませんのでご了承下さい。

私の視点 麻生さん、どこ向いてるの?

2008-09-30 09:50:12 | Weblog
 麻生太郎首相が就任後初めての所信表面演説を行なった。

 あらかじめ報道陣に発表された演説の全文を読んでみると、まず驚いたのは国民へのお詫び、謝罪の文字がごくごく限定的にしか見られなかったことである。後々まで残る文書に謝罪の言葉を入れたくなかったのか、2代首相に渡って共に短期であったとはいえ、幹事長というポストにいた者が何を考えているのかと怒りを感じた。

 実際の演説では恐らく周辺からの助言があったのだろうか、冒頭で福田前首相の辞任と中山前国土交通省の発言について国民に謝罪した。ただ、それも深謝というものではなく、会釈程度の謝罪に感じられた。

 私はこれまで多くの所信表明を読んできたが、これほどまでに野党との対決色を前面に押し出したものに触れた記憶がない。所信表明演説と言うのは、国の指導者の国民に対しての呼びかけであり、これから国をどう導いていくかを宣言する場である。ところが、何度全文を読み返しても、彼が何を国民に訴えたいのか、まことに抽象的でよく分からない。全編を通して「民主党よ、と言うか、小沢一郎よ、オレの質問に答えよ」というもの。これでは一政党の代表質問と何ら変わりはないではないかというのが読み終えた後の印象だ。

 つまり、目線が小沢氏のみに向かっていて、我々国民に向けられていないのだ。国民との関係で言えば、国民へのこれまでの政府自民党からの心の底からの反省と謝罪、またそれを踏まえての今後の明確なヴィジョンを示すことよりも、麻生氏は終始自分個人のセイルスに徹している。安倍、福田と続いた「頼りないリーダー」への失望感が日本列島に充満したと見たのだろう、「強いリーダー」への意識を所信表面全体からあふれ出させている。

 だが、これも完全に空回り。国民の怒りの矛先が自民党だけでなく、これまでの首相だけでなく、自分にも向けられているとの意識の欠如からきているのであろうが、終始一貫、これまでの失政は民主党の“無駄な抵抗”にあったと決め付けている。

 「暮らしの安心」と掲げた項目くらい自民党及び官僚・役人の数多の裏切り行為を反省して根底から福祉教育行政を変えていくと宣言するのが国民が新しい首相に求める姿だ。なのに、麻生氏は、我々の怒りを「不満」と「不安」に分けて言葉巧みに責任逃れをしたつもりかもしれないが、そんな言葉遊びをしている場合かと言いたい。「不満とは行動のバネになる」などとのたもうているが、それは不満の度合いが軽い場合、又は健全な環境の中で生まれる感情を言うのであって、ここまで酷い状況に我々を陥れておいて使う表現ではない。

 確かに、“事故米(汚染米と言うべきなのでは?)”については、「幾重にも反省を誓います」としていると謝罪しているが、謝罪しなければならないのは他にもたくさんあるはず。汚染米は腐った政府・行政の象徴の一つに過ぎないのではないか。根幹に根差す腐りきった体質に大鉈(ナタ)を振るわずして「暮らしの安心」が得られることはない。彼の所信表明からは、そのような決意は感じられない。

 彼の強い決意は、「霞ヶ関」の大改革よりも民主党の小沢一郎氏への対決に向けられている。所信表明の約3分の1がそれに使われているのだから異常だ。これも、小沢氏への自民党内に蔓延する一種のアレルギーというか畏怖に近い感情が麻生氏の体内にもあるからだろう。

 かつて小沢氏が「キングメイカー」として自民党内で権勢を振るっていた頃、麻生氏はまだ閣僚経験もなく政務次官クラスの、言ってみれば「ペーペー」。小沢氏と対等に口が利ける立場ではなかった。その頃は、「強い小沢一郎」に憧れていた麻生氏は、年下である相手なのに小沢氏の前に出ると、普段の人を見下した態度を一変させて緊張していたと、当時の2人を知る関係者は言う。

 彼の“得意”とする外交も良く読めば不安に満ちた内容だ。800字程度の項目の中に「日米同盟」を4回も繰り返し、小泉元首相以上のアメリカへの忠誠心を露にしている。

 今まさに無駄な戦争と無謀な経済政策で世界に大混乱を招いている米国に対してこれほどまでに忠誠を誓うのは、祖父、吉田茂氏の遺言なのであろうか。危険な選択と言わざるを得ない。

 所信表明を読む前は、10月6日から始まる予算委員会を前に衆議院を解散し、一ヵ月後に総選挙というシナリオなのではと考えていたが、思ったほどの数字が出なかった内閣支持率と組閣5日後の閣僚失言辞任に解散時期を迷った麻生首相が、小沢一郎氏の明日に予定されている代表質問の内容に賭けたと見る。

 民主党は麻生首相の仕掛けに対して早速、「政権公約(マニフェスト)」を発表した。これは今朝の朝日新聞のスクープとなっているようだが、恐らくそうならば意図的に朝日に流したのだろう。

 その中で、民主党は「埋蔵金6.5兆円」「人件費削減1.1兆円」と、これまでで初めて政権公約に財源の金額と目標年次の具体的な明示を盛り込んでいる。そして、政府が提出している08年度補正予算案についても、来週中の成立を容認する方針を固めた模様だ。つまり、予算委員会を行なってから解散するべきだと言うわけだ。

 これを麻生首相はどう取るか。民主党の政権公約を机上の空論と決め付けて予算委員会での論破を図るか、それとも予算委員会でさらなる失点を重ねる前に解散するか。麻生氏にとってはいよいよ正念場だが、それにしても残念ながら両党の繰り広げるつばぜり合いに、興奮状態で騒ぎ立てているのは永田町とマスコミだけで、多くの選挙民は辟易しているというのが真情である。

 最後に付け加えておくが、社民党の福島党首は記者会見で、所信表明演説の内容が少数政党を無視したものだと息巻いていた。いつものことながら彼女は時代の流れを読んでいない。

 外国の連立政権がよく組まれる国においては、このように二大政党が拮抗する時こそ少数政党の存在が重さを増してくるものだ。少数政党にとって今こそその存在意義を選挙民に訴える時であるはずだが、街を歩いていて社民党の候補が活動をしているのを見たことがない。この政党、社会党の時代からそうだが、地道な努力がどうも苦手の人たちが多いようだ。その辺りは余計なお節介かも知れぬが、「選挙の達人」小沢一郎氏に倣ったらいかがと進言したい。

 

最新の画像もっと見る