浅井久仁臣 グラフィティ         TOP>>http://www.asaikuniomi.com

日々の出来事から国際情勢まで一刀両断、鋭く斬っていきます。コメントは承認制です。但し、返事は致しませんのでご了承下さい。

中越沖地震現地報告 その3

2007-07-20 12:43:01 | Weblog
 市役所を出ると、私たちは麻田さんの知り合いの寺に行くことにした。

 今回の地震で一番被害が集中したと言われる西本町地区の商店街を視察しながら寺に向かった。

 時折り、車から降りてみるが、今回の地震の特徴は、倒壊した建物の多くが古いものだ。しかも、土が多く使われている。雪国で海風が強い地域性もあり、屋根は重い瓦が使われ、さらに瓦と屋根板の間に厚く土が盛られている。これが耐震性に劣る建物であることは素人目にも分かるが、長年の経験で大工たちが建ててきたものだ。この地域では、非常識ではない。ただ、それをきちんと指導するのが役所の役目のはずだ。それをしなかった行政の側により重い責任があるように感じた。

 阪神大震災では家屋が軒並み倒れた。それはたとえ新しい建物であろうと影響は大きかった。それに比べると、建物の被害はかなり小さいように思えた。

 被災者の中には、私が多くの被災現場に立ってきたことを知ると、「神戸とどっちが酷い?」と聞いてくる人もいたが、「それぞれの特徴がありますから…」と言葉を濁すしかなかった。

 神戸で「プレハブ伝説」が生まれたが、ここでも軽量のプレハブには無傷のものも多く、「プレハブは大地震でも倒れない」という神話になるのではとふと思った。プレハブを否定するわけではないが、食器に例えれば、プレハブはいわばプラスチックの容器だ。一方の在来工法は陶器に例えられる。つまり、用途や環境によって使い分ければどちらも利器になる。ところが、世の趨勢は、「家を建てるのならプレハブ」という短絡的な考えが主流になりつつある。今回の地震被害がそれをまた加速させるのではないかと危惧する。

 歩いてみて気付いたのは、塀の倒壊の多いことだ。破損した部分を見ると、鉄筋の入っていないものも少なくない。これは明らかに違法だ。30年前に起きた宮城県沖地震で死者16人の内、11人が塀の下敷きになった教訓はあまり生かされていなかったことになる。後で合流した川口防災ネットの仲間たちに聞いてみたが、*大谷石をよう壁や塀に使ってはならないのに使っているところが多い*鉄筋が入っていなかったり、入っていても数が少ない、等の事実を教えられた。

 麻田さんの知り合いの寺に着いた。寺の建物は一見、重厚な瓦が使われ、外壁は銅板で覆われ、柱も太くてしっかりとしたものが使われている。だが、被害はかなりのもので、取り壊しかと思われた。ところが、建築の専門家は、修復可能と判断したとのこと。住職一家はほっとされた様子であった。

 寺で近所の人たちのために炊き出しをやると言うので手伝おうかと思ったが、手は足りるとのことであったので私は西本町地区をひとりで歩いてみることにした。

 奥の道に入ると、被害が集中しているところもあり、住民が輪を作って話し込んでいる。その輪に入れていただき話をうかがった。

 多くの住民が、「中越地震よりも酷かった」と言った。また、倒壊した建物の所有者や住民の多くが高齢者でこれからの生活を心配する声が次々に上がった。

 中越地震との比較については、TVなどで紹介されて、一部で反発を買っていたが、これは被災者が心の中を率直に言葉にされているだけのこと。取り立ててどちらが凄かったと目くじらを立てて論ずることではない。

 高齢者が多いのは、中越地震の被災地でも同様で、今後の日本を象徴する姿でもある。その面から見ても街の防災力は年々衰えていくと言って過言ではない。

 その時、息を切らせてひとりの住民が駆け寄ってきて、「壊れた家の下敷きになった人の救出作業をしている」と言うので、私は現場に急行した。

 現場は、目抜き通りから入った小道で、道路沿いにあった家が倒壊して道にかぶさっていた。捜索活動をしていた埼玉県警に話を聞くと、行方不明者が一名見つかっておらず、その人が埋もれている可能性がある現場をしらみつぶしに捜索する作戦の一環だとのことであった。

 救出作業は遅々として進まなかった。それは、警察の救助隊員の士気が低いこともあるが、はっきり言って救助隊員の技術レヴェルの低さが目に付いた。瓦礫の排除の仕方。エンジンカッターの使い方。どれをとってもプロのレヴェルには遠い。

 今回、警察庁がいち早く関東周辺の警察救助隊の出動を決めたようだが、あの2年前に起きた「福知山線脱線事故」での警察救助隊のお粗末振りを聞いていただけに、警察庁が考えることが理解できていなかったが、この現場を見て合点がいった。警察庁にとっては、被災現場で目立つことだけが重要だったのではないか。そんな疑問が湧いた。(続く)

最新の画像もっと見る