たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

『アガサ・クリスティー自伝』(下)_「第九部マックスとの生活」より

2021年11月03日 18時00分57秒 | 本あれこれ


「マックスの本が今わたしの日の前に置いてある――『ニムルッドとその遺物』。彼の心底からの願
いが達成されて、わたしもこんなにうれしいことはない。ニムルッドはその百年の夢をさまされたの
だった。レイヤードが発掘を始め、わたしの夫がそれを完了させたのである。

 彼はさらにもっとこのニムルッドの秘密を発見している――町の境界の外にシャルマネサルの大砦
をみつけたこと、墳丘の反対側に別の官殿を発見したこと。アッシリアの軍国首都カラーの話が明ら
かにされた。歴史的にニムルッドはその姿をありのままに知られるようになったが、その上に、職人
……というよりわたしはむしろ芸術家といいたい……の手によって制作された極めて美しい物が、世
界の博物館にもたらされたことである。精巧に、この上もなく美しく細工された象牙で、何とも美し
い物であった。

 わたしは仕事の役目としてこれらの多くの物をきれいに掃除した。どんなプロでもだが、わたしは
自分の好きな道具を持っていた――オレンジの木の棒、非常に細い編針……あるシーズンには歯医者の
使う針、これは借りたか貰ったかしたものだった……それに化粧用クリーム、これはもろくなってい
る象牙を傷つけずに割れ目から泥をそっとうまく取り出すのに、何よりも役に立つことをわたしが発
見したものである。実はそんなわけでクリームがえらくたくさん必要で、二週間もすると、わたしの
あわれ年とった顔につけるものが何もなくなるという始末だった。

 ほんとにすばらしいスリルだった――辛抱強く、細かな注意が必要だった、手を触れることも微妙だった。そして中でも最も興奮した日……わたしの生涯でも最高に興奮した日の一つであった……アッシリア時代の井戸渫いの作業をしていた人夫が、家へ駆けこんできて叫んだ。「井戸の中で女の人を見つけました!井戸の中に女がいました!」そして人夫たちはズック布に載せた大きな泥の塊を持ち込んできた。

 わたしは喜んで大型の洗面器の中でそっと泥を洗い落した。少しずつ頭が出てきた。泥土の中に千五百年もの間保存されていたのだ。これまでに発見されたものの中で一番に大きな象牙細工の頭部であった。――柔らかな、薄茶色で、髪は黒、微かに色の残っている唇……古代城砦都市の少女らしい謎のような微笑をたたえていた。井戸の貴婦人――モナ・リザなどとイラク国古代文化庁の長官は彼女のことを呼ばうと強く主張していた……彼女は現在、バグダッドの新しい博物館にその所を得ているが、発見され最も興奮をおぼえたものの一つである。

 まだほかにも多くの象牙細工があった、中にはあの頭部よりも見事とはいえないまでも、もっと美しいものさえあった。子牛に乳を飲ませている牝牛が首を後ろへ振り向けている象牙の額、窓から外を眺めている象牙の婦人、悪女ジゼベル(古代イスラエル国王アハブの妃)に違いない。二枚のすばらしい象矛額があった――牝ライオンに殺されている黒人、金色の腰布をつけ、髪に金のかんざしをつけて横たわり、夢中で首をのけぞらせているところへ牝ライオンがのしかかっている。その背後には庭の群葉がある――ルリ石、紅玉石、金が花と葉を形作っている。このような象牙額が二枚もみつかったとは、まことに幸運なことだった。一つは大英博物館にもう一つはバグダッドにある。

 人間がその手で作り上げたすばらしい物を見る時、人は人類に属していることを誇りに感じる。人間は創造者であった……世界を作り、その中にある物すべてを作り、それをよとした造物主、神の神聖さのほんの少しばかりを、人は分け与えられているのに違いない。だが、神はもっと作るべきものを残しておいた。人の手によって作られるものを神は残しておかれたのだ。神が人間に作るべものを残しておかれたのは、人間は神の形に似せて作られたものなので、その神にならうように、そして人間がどんなものを作るか、それがよいものであるかどうかをみるためである。

 想像の誇りは特殊なものである。大工でさえ、わたしたちの探検隊宿舎に一つにとんでもない形の木製のタオル掛けを作ったことがあった。彼は創造精神を持っていた。注文に反して、どうしてこんなばかでかい足をくっつけたのかときかれると、彼は非難めいた調子でいった、「あんなふうに作ったのは、ああすればとても美しいからです!」わたしたちにとってはとんでもない形であっても、彼にとっては美しいのである。それで彼は創造の精神から作ったのだ、それが美しいから。」

(『アガサ・クリスティー自伝(下)』乾信一郎訳 早川書房 1982年8月10日5刷、307-309頁より)


『アガサ・クリスティー自伝』(下)_「第八部二度目の春」より
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/ee60da212913604430cf95d36b3d84a2



年末特番番組のお知らせ

2021年11月03日 00時06分42秒 | 宝塚
 宝塚歌劇では、2021年コロナ禍においても、変わらぬご声援をいただいた皆さまへの感謝の思いを込めた特別企画を、動画配信サービス「タカラヅカ・オン・デマンド」ならびに、宝塚歌劇専門チャンネル「タカラヅカ・スカイ・ステージ」にて、年末にお届けいたします。   

タイトル

「THE SONG~感謝を込めて~」   

出演者(予定)
(花組)柚香 光、星風 まどか、水美 舞斗
(月組)月城 かなと、海乃 美月、鳳月 杏
(雪組)彩風 咲奈、朝月 希和、朝美 絢
(星組)礼 真琴、舞空 瞳、愛月 ひかる
(宙組)真風 涼帆、潤 花、芹香 斗亜   

5組の出演者たちが一年間を振り返りながら、宝塚歌劇の名曲をお届けする特別プログラムです。

https://kageki.hankyu.co.jp/news/20211102_004.html

 今年もタカラヅカスペシャルの開催は見合わせとなるかわりに、特別番組を届けてくれるとのお知らせ。タカラヅカ・オン・デマンドで12月25日(土)21時~配信予定、楽しみです。コロナ対策とスケジュールで組ごとの収録だと思いますが、愛ちゃん(愛月ひかるさん)の退団が12月26日なので貴重な93期の並び、間に合いますね。愛ちゃんの退団前に星組の組本、出版しようとしているし、いろいろ考えてくれています。

 昨日の星組宝塚大劇場千穐楽、おサイフのことなど考えてライブ配信の視聴は見送りました。サヨナラショーで愛ちゃんが演じたかった『うたかたの恋』の軍服姿、WEB新聞各紙でみました。素敵です。マリーはひっとん(舞空瞳ちゃん)、ものすごく可愛い、お似合いの二人です。キキちゃん(芹香斗亜さん)、同期からのお花渡しで登場するかなとは思っていましたが、夢妃杏瑠ちゃんも愛ちゃんもキキちゃんからのお花渡しだったとSNSで知りました。93期の現役生は3人だけになってしまいますね。

 星組さん、まだ先ですが東京宝塚劇場のチケット、B席1回だけ友の会で当選できました。緊急事態宣言により3回幻となり2年ぶり、今度こそは無事に会えますように。もうすぐ雪組さんもう一回チケットあるし、キキちゃんの『プロミセス・プロミセス』のライブ配信のお知らせも近々あるだろうし、今日はクリスマスに配信予定の特別番組のお知らせ。おサイフにやさしいお値段で次々と夢を届けてくれる宝塚があるからまだ生きていないといけないのだと思うことができます。

 夢と希望がある場所。
 


 劇場には現実にはない夢と希望がある、夢と希望があると信じられる場所。心のよりどころ。