味覚の幻。

栗蒸し羊羹。

和菓子屋を見つけるたびに買う「栗蒸し羊羹」。
店によって味が違うので、どこが美味しいのか探している。
先日、馬喰町で買った物がとても好みで、
みっちりとしていて甘味が絶妙でこれだ！と思いツンに
「どうよ、今まで食べた中で私は１番だと思うけど」
ツンは無言で２本の指を出した。
「まさか！あんた！あれがまだ１位だと？！」
ニヤリと笑いツンは「そうだよ」と言い放った。

ツンの１位と言うのは、

小学校５年くらいの時に、「お茶の体験授業」の時に出た栗蒸し羊羹のことである！！

当時、帰宅した途端に
「すっごい美味しいもの食べた！！栗が入った羊羹で、ものすごく美味しかった！」
と、興奮して話していたのを思い出される。

それからというもの、いくつもの栗蒸し羊羹を差し出してみても、
「美味しいけど、あの」と、思い出と共に首を振ってくる。

私にはわかる。思い出というものは味覚の幻である、ということを。
今、その学校で食べた栗蒸し羊羹を出しても、
実際のところ、『普通』である、ということを。

ちなみにカレーを好まないツンが、
「すごく美味しかった！」と言い放ったのは、
小学５年生（味覚の幻は小学５年生に生まれるのだろうか）の時に、
校庭で行われたグリーンキャンプでみんなで作ったカレーだ、と。
カレーが美味しいと言ったのは、そのたった１度だ。

不思議ですね。