礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

松下芳男の「兵役法改正論」(1928)

2018-09-23 07:09:09 | コラムと名言

◎松下芳男の「兵役法改正論」(1928)
 
 昨日、松下芳男の『軍政改革論』(「民衆政治講座」第二二巻、青雲閣書房、一九二八年一〇月)について言及した。本日は、同書の第五章「兵役法の改正」を紹介してみたい。
 松下はこの第五章で、成立したばかりの「兵役法」(一九二七年四月一日公布、同年一二月一日施行)を批判し、同法は「改正」する必要があると主張している。ただし、本日、紹介するのは、その第一節のみ。

 第五章 兵 役 法 の 改 正

  第 一 節 『苦痛』の事実に当面せよ
  第 二 節 兵役に伴ふ『苦痛』
  第 三 節 兵役法改正の主眼
  第 四 節 兵役法改正の要旨

  第一節 『苦痛』の事実に当面せよ
 最近徴兵令が之れに附属する諸規則と共に改正され、その名も兵役法と名実共に新たになつたのではあるが、我々の立場からは更に改正されねばならぬものあるを信ずる。
 兵役法は如何に改正せられねばならぬか。此問題に対しては、我々は何よりも化先きに今日の兵役服務の事実そのものを、直視しなければならぬと思ふ。空疎な概念と形式的な虚構と捨てゝ、実際の兵役服務の事実と直角に正対せねばならぬ。兵役服務者は名誉であると教へられてゐる。入営者は幾多国民より選ばれて国家の干城〈カンジョウ〉となり皇威を発揚し国家を保護最大名誉を荷つてゐると説かれてゐる。私は此言葉をそのまゝ是認してもいゝ。併し之れを是認するにしても、兵役がその服務者にとつては、心身共に非常な苦痛であるといふ事実は、断じて掩はれ〈オオワレ〉ないと信ずる。私が兵役服務の実際を見よとは、実に此兵役服務の『苦痛』を見よといふ意味に外ならぬのである。又或る者は、兵営今日の進歩を説いて、在隊は苦痛でなくて愉快であるといふ。或る者は、軍隊教育の効果を説いて、服務者の精神的訓練、肉体的鍛錬は苦痛とする程度ではなくて、たゞ利益あるのみであるといふ。併し私は如何なる修辞を加ふるにしても、兵役服務の『苦痛』の事実は如何ともすべからざるものと信ずるのである。
 然りと雖も私は故【ことさ】らに『苦痛』を強調することに依つて、軍隊を呪ひ兵役を陥【おとしい】れんとするのでは断じてない。むしろ反対に、軍隊はその責務上当然に『苦痛』と随伴せねばならぬとさへ信ずるものであるが、併しそれと共に不当の『苦痛』のあることをも認め、兵役法を論ずるためには先づ此『苦痛』の事実を基礎としてかゝらねばならぬといはんと欲するに過ぎぬ。兵役の名誉を説くことは、之れを道学先生に譲る。又軍隊の快楽と効果を説くことは、之れを軍隊当事者に譲る。而して我々の説かんとするところは、冷静に事実に直面して、国民的公平を求めんとする政策である。単なる感情的抽象的形式的議論は必ずや破綻である。我々は此破綻を避けねばならね。

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