礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

西部邁氏は、いったい何に絶望していたのか

2018-01-27 05:22:08 | コラムと名言

◎西部邁氏は、いったい何に絶望していたのか

 西部邁氏の入水〈ジュスイ〉が報じられた直後、インターネット上に、これは「偽装自殺ではないのか」、最近、安倍政権に批判的だったので「殺されたのではないか」などの言説があらわれた。
 そういう出まかせを言ってはいけない。西部氏は、権力もしくは何らかの勢力によって抹殺されなければならないほど重要な人物ではない。危険な思想家というわけでもない。西部氏は、しかるべき理由、もしくは、しかるべき事情があって、「自殺」したのである。その理由や事情は、もちろん本人以外の者にはわからない。しかし、自殺であったことは、まず間違いない。
 二〇一七年の一〇月二二日に死ぬ気だったところ、総選挙と重なったので延期したということを、チャンネル桜代表の水島総氏に語っていたという(インターネット情報)。昨年のうちから、自殺を決意し、機会をうかがっていたと見てよいだろう。
 毎日新聞電子版、二〇一八年一月二三日の記事「西部邁さん/最後の『保守と死』論」(最終更新1月23日15時19分)を読んだ。その冒頭に、こうあった。

 保守派の評論家で社会経済学者、西部邁さん(78)が21日、東京都大田区の多摩川で入水し亡くなった。その10日前、毎日新聞の取材を受けた際に「数週間後には(自分は)生きていない」。神経痛で痛む腕をかばいながら、近年繰り返していた自らの自殺の話をした。しかし語りはあくまでも冷静。取材後は午前4時過ぎまでバーをはしごする元気さをみせていた。【鈴木英生】

 鈴木英生〈ヒデオ〉記者は、この記事の最後を、次のようにまとめている。

 憲法改正への動きなど、表面は「保守派」に勢いがある昨今。だが、西部さんの絶望してきた日本の対米追従や大衆社会状況は変わらない。「絶望に立つ希望」を唱え、約200冊の本を出し続けた西部さんは、自らの体調や年齢を考え、長年検討してきた死を選んだのだと思う。【中略】
 自らの主張とかけ離れた現代の言論、社会状況に絶望しながらも、数十年の間、絶えず発言を続けてきた西部さん。バーからバーへと夜道を歩きながら、「俺の絶望の深さが分かったでしょ」とつぶやいていたのが印象的だった。

 追悼文であるからして、故人に対して、批判的なことを述べるわけにいかなかったことは、よくわかる。しかし、この取材の際、西部氏は、自殺をほのめかすほど「絶望の深さ」を強調していたという。ということであれば、西部邁という思想家の思想的力量を確認する意味も込めて、鈴木記者には、次のような点を質していただきたかった。
一 西部さんは、「絶望した」と強調されているが、いったい何に、どう絶望したのか。このあたりを、読者にわかるように説明してほしい。
二 そもそも、思想家が絶望していては、どうしようもない。むしろ、絶望的な情況のなかで、思想的な道筋を示すのが、思想家の役割ではないのか。
三 西部さんは、「日本の対米追従や大衆社会状況」に絶望したと言っているが、この間、保守派の論客として発言してきた西部さんにも、そうした「日本の対米追従や大衆社会状況」を生み出した責任があるのではないか。
四 西部さんは、民主党政権時代の二〇一〇年、みずからのゼミナールに、安倍晋三元首相や稲田朋美衆議院議員を、ゲストとして招いている。その後、二〇一七年後半になって、安倍晋三首相に対する批判を始めている。こうした経緯は、一貫した保守主義によって説明することができるのか。
五 西部さんは、かつて、自分は、変態しないカマキリより変態するチョウのほうが好きだと言い、みずからの「転向」(思想的変態)を肯定されたことがある。西部さんは、この数年の間に、すでに、思想的に変態しているのではないか。あるいは、まさに今、思想的に変態し、保守主義を返上する必要を感じているのではないか。

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1 コメント

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Unknown ( 伴蔵)
2018-01-28 00:49:35
人間が自殺する直前に書いた遺書ほど信用できないものはないとある本で読んだことがありますが、今回もそれが当てはまるのではないかと思います。

これはまったくの予測に過ぎないのですが、西部さんは思想的に絶望したというより、神経痛の痛みが直接的な原因ではないかとも考えられます。
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