◎ケルロイターの『ドイツ憲法論』第三版(1938)
国立国会図書館で、オットー・ケルロイター著、矢部貞治・田川博三訳『ナチス・ドイツ憲法論』(岩波書店、一九三九)を閲覧した。巻頭にケルロイターによる「日本訳への著者の序」があった。
東京帝大法学部の矢部貞治助教授、及び目下在ミュンヘンの交換学生田川博三君の手により、余の「ドイツ憲法論」第三版の翻訳がなされたが、余はこの翻訳が、第三帝国の構成を理解する上に、寄与するところあらんことを希望する。【以下略】
オットー・ケルロイターの署名の前に、「ミュンヘン郊外プーラッハにて、一九三八年八月十三日」という日付と、「ミュンヘン大学教授、ドイツ法学院会員/法学博士」という肩書がある。
そのあとに、訳者のひとり、矢部貞治による「訳者序」がある。
ケルロイター教授の「ドイツ憲法論」の邦訳を企て、教授及び原出版者の諒解を得て、それを実行したのは、現にミュンヘンに留学中の日独交換学生、東京帝国大学法学部学生の田川博三君である。【以下略】
矢部貞治の署名の前に、「昭和十四年二月二十八日/東京帝国大学法学研究室にて」とある。
これらによってわかるように、『ナチス・ドイツ憲法論』の原著のタイトルは、『ドイツ憲法論』であって、「ナチス」は、翻訳にあたって付されたものであった。
なお、ケルロイターのいう「ドイツ憲法論」第三版とは、国立国会図書館にある、次の本のことであろう。
Deutsches Verfassungsrecht ; ein Grundriss von Otto Koellreutter.
3. durchgesehene und ergänzte Aufl.
Berlin : Junker und Dünnhaupt, 1938.
たしかに、「ナチス」という言葉は付いていない。
断定は避けるが、「ナチス・ドイツ憲法」という言葉のルーツは、『ナチス・ドイツ憲法論』という翻訳書であることは、ほぼ間違いない。したがって、「ナチス憲法」という用語のルーツもまた、この翻訳書であると考えている。そして、訳者らが、ケルロイターの『ドイツ憲法論』を翻訳・刊行するにあたって、これに『ナチス・ドイツ憲法論』というタイトルを付けたのは、版元の岩波書店から要望に応じたものであろう。
今どき、こうした事情に通じている人は、ほとんどいないだろう。こんなことをセンサクしている者も、皆無に近いと思う。一応、情報プラス仮説として提示しておきたい。
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