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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

人間ヲ道徳的ニ向上セシムル物ハ凡テ富(河上肇)

2025-04-04 00:32:22 | コラムと名言
◎人間ヲ道徳的ニ向上セシムル物ハ凡テ富(河上肇)

『回想の河上肇』(世界評論社、1948)から、小島祐馬の「読書人としての河上博士」という文章を紹介している。本日は、その四回目。

 次いで大正七年〔1918〕一月十五日の手翰には左の如きものがある。

 拝啓一昨日は御邪魔仕〈ツカマツリ〉候其折はスマート氏の名著御恵贈被為下〈クダセラレ〉恭く〈ウヤウヤシク〉厚く御礼申上候右は嘗て寵賜〈チョウシ〉を辱うせし曾文正公家書と共に永く坐右に備へて宝典と可致〈イタスベク〉候只今小閑を得てスマート氏の遺著を披見罷在〈マカリアリ〉候序文になり居る氏の小伝中一九一二年七月十七日の日附の書簡を只今重ねて一読再読致申候其文を録せんが為に今日はペンにて欠礼致候
 To the Devil with your‘rest' ! Isn't the grave long enough? A young man has no need of rest. An old man has no time for it.……The book is important for the world, therefore I have no time for amusing myself; and I have no time for any other duties either. I have absolutely forgotten how to be idle. (p. lii)
 如何にも興味ある書簡と奉存候
    *    *    *
 過日申上候Wealthの字義に関しCannan氏は次の如く申居候
 〔このところCannanの“Production and Distribution”第一頁を引く、文長けれに之を略す〕
 又脚注に Skeat, Etymological Dictionary, s.v.
 Wealth:“An extended form of Weal (ME wele),by help of the suffix-th, denoting condition for state; cf. heal-th from heal, dear-th from dear,”etc.
 小生は本学年度の講義に於て左の如く申置候
 『余ハ人間ニ向ツテ外部ヨリ福ヲ齎ス〈もたらす〉物体ヲ総称シテ、之ヲ富ト謂ハント欲ス。然ラバ茲ニ福トハ如何ナルハモノナリヤト云フニ、之ニ就テハ蓋シ時代ヲ異ニシ社会ヲ異ニスルニ従ツテ、又同ジ時代同ジ社会ニ在リテモ人ヲ異ニスルニ従ツテ、其見解同ジカラザルシト雖モ、姑ク〈しばらく〉余ノ信ズル所ヲ述ブレバ、人間ガ道徳的ニ向上発達スルコト之ガ人間トシテ真ノ福デアル。故ニ余ノニ従へバ、人間のbody及ビmindノ健全ナル発達ヲ助長シ、依ツテ以テ人間ヲバ道徳的ニ向上セシムル作用ヲ為ス物ハ、凡テ之ヲ富ト云フ。……』
 斯様に考へ来る事に依つて福と富の関係は英語にてWealとWealthとの関係に類したるものなきやの疑問を生ずるに至り申候富とは如何なる意昧のものなりや御序〈オツイデ〉の折御心当の御事共〈オンコトドモ〉御座候折示教なし被下〈クダサレ〉候はば至幸奉存候 先〈マズ〉は御礼旁〻〈カタガタ〉拝眉の折の願意を明かにする為め冗言相認〈シタタメ〉申候 勿々不具 一月十五日午後 河上 肇拝
 (追白) 小生の嘗て翻訳致せしセーリグマン氏の「経済的史観」の中に左の如き文句有之候
 〔同書第一二七頁を引<、文長ければ略す〕
 過日御話有之候「貴」「賤」の原意など思ひ浮べて右序に御目にかけ申候〈19~21ページ〉【以下、次回】

 手紙の最後で、河上は、「御礼旁〻拝眉の折の願意を明かにする為め冗言相認申候」と書いている。御礼かたがた、一度、ご挨拶に伺うことになるが、そのときにお教えをたまわる問題の主旨を、あらかじめ書き送りました」といった意味だろう。たぶん河上には、このあと小島を訪ねる予定はなく、手紙で回答してもらうことを希望していたのだろうが、そうは書かない。何とも巧みな言い回しである。
 なお、河上肇は、1879年(明治12)生まれであり、1881年(明治14)生まれの小島祐馬より二歳年長である。

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