goo blog サービス終了のお知らせ 

礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ほんとうは俺、やっていないんだ(赤間勝美)

2020-11-08 02:28:59 | コラムと名言

◎ほんとうは俺、やっていないんだ(赤間勝美)

 大森実著『日本はなぜ戦争に二度負けたか』(中央公論社、一九九八)から、「19 三鷹、松川事件のデッチ上げ証言」の章を紹介している。本日は、その三回目。

 以上が逮捕状況であったが、すべて「赤間自白」によったものであったので、この「赤間自白」が崩れると、松川事件そのものがドミノ現象を起こすことは明らかであった。
 弁護団側が公判廷に提示した実兄・赤間博が、福島地裁の勾留理由開示公判の前日(十月五日)に、赤間勝美と行った次の面会記録は興味があった。
「お前がほんとうに松川事件をやったのか」
 と兄が聞くと、弟は、
「うん、俺がやった」
「お前がやったのなら死刑だぞ。覚悟しているのか」と念を押すと、
「どうして死刑になるんだい」と弟。
「列車を転覆させたのだから死刑になるのは当然だ」
「でも、俺は死刑になんかならないよ。きょう、俺は山本検事さんに上申書を出した。署長さんにも寛大に取り扱ってもらいたいと頼んだ」
「おまえ、騙されているんじゃないか」
「署長さんはよくしてくれる。飯は二人前で、タバコもいっぱいくれる」
 自供後、赤間は風呂に入れてもらい、署長が背中を流してやり、どんぶり二杯平らげたとされる。兄は食い下がる。
「祖母ちゃんは、お前がやったんなら、死んだほうがよいとまで言っているんだぞ。ほんとのことを言ってくれ!」
「ほんとうは俺、やっていないんだ。兄ちゃん、これ、誰にも言わないでくれ」
「やっていないのに、どうして負けてしまったんだ。安藤貞雄(不良仲間で、赤間の列車転覆事件の予言を聞いた、という赤間逮捕のきっかけを作った男)に、お前ほんとにあんなことを言ったのか」
「ぜんぜん、俺は言っていない。貞雄らが俺が言ったというから、なんぼ頑張ってもダメだった。祖母ちゃんも警察に俺が朝七時ごろ帰ってきたと、拇印まで押してあるのを見せられたんだ。祖母ちゃんまでがあんなことを言っているんだからダメなんだ」
「みんなウソだ。お前は騙されてるんだ」
「兄ちゃん、もう頭がくちゃくちゃする」
「お前、明日の開示公判知っているだろう」
「行く。俺はやったと言うつもりでいたが、兄ちゃん、どうしたらいいんだ」
 翌十月六日、勾留理由開示公判が開かれたが、弁護人側は第一次検挙者八名の同時公判を要求した。阿部、二宮、本田、鈴木、佐藤、高橘の六被告は無罪を主張し、拷問、誘導などの取り調べ状況を暴露して、即時、釈放を求めた。
 東芝松川労組側の共同謀議参加容疑者の逮捕きっかけを作った浜崎二雄は、傍聴席から「浜ちゃん、ほんとのことを言うのよ!」という女性の声で、生き返ったような表清を取り戻して、「脅しに屈服して調書を取られてしまったが、真実は何もしていない」とする罪状否認を行った。
 赤間勝美は、「いまは何も言いたくありません」と言っただけで、そそくさと退場してしまった。
 新聞記者の印象では、初めて法廷で顔を合わせた第一次検挙者八名の中、国鉄福島労組側は浜崎二雄自白で検挙された東芝松川労組側の佐藤一など、それまで見たことがないという沙な顔をしていたという。
 赤間勝美が、「自白は警察で脅迫されたからだ」と言い出したのは、一審で死刑判決を受けた後のことであったが、赤間の控訴趣意書によると、「警察の脅迫」の中身は次の通りであった。
「私は強姦なんてしていなかったのに、公判廷で実演させるぞと脅かされた。玉川警視は、私が仲間に列車転覆予言を触れ回った、と責め立てて、ウソばかりつくと伊達駅事件の保釈も取り消しだ。零下三十度の網走刑務所で一生出られないようにしてやる、と脅かされた」
別件逮捕で赤間が強姦したとされた強姦の相手、兼子ツヨ子は、一審公判で、「赤間から強姦された覚えはない」と否定した。
 赤間の祖母ミナも、弁護人を通して「字も読めないのに警察に脅かされてウソを言った」と供述した。【以下、次回】

*このブログの人気記事 2020・11・8(10位の通訳養成所は久しぶり)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする