礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

捜査当局は6日午後、他殺はほぼ決定的と発表

2020-11-03 03:10:43 | コラムと名言

◎捜査当局は6日午後、他殺はほぼ決定的と発表

 大森実著『日本はなぜ戦争に二度負けたか』(中央公論社、一九九八)から、「17 国鉄総裁下山事件のミステリー Ⅰ」を紹介している。本日は、その二回目。

 大西〔政雄〕運転手の供述によると、乗用車が芝公園前を通過して御成門〈オナリモン〉まできたころ、下山総裁〔下山定則日本国有鉄道総裁〕は、「今朝は佐藤栄作さんに会うんだ」と呟いたというが、下山総裁はなぜか考えを変えたらしく、御成門を過ぎると、日比谷方面に進ませたという。
 佐藤栄作は、吉田民自党の政調会長をしていたが、二・一ゼネストのとき、佐藤が鉄道総局長をしていたことは周知のことで、国鉄をアメリカの私鉄企業に売却しようというGHQの意向を、共産党の志賀義雄がマスコミに暴露したため、佐藤が志賀義雄に礼を言ったというエピソードもあった(志賀義雄インタビュー)。佐藤が運輪次官だったころ、下山は東鉄局長〔東京鉄道局局長〕だったので、国鉄一家では先輩と後輩の間柄であった。
 日比谷から和田倉門にさしかかると、下山は出勤コースを変更し、「三越にやってくれ」と命じたが、大手町を過ぎて国電ガード下までくると、「白木屋でもいいよ」とまた行き先変更を命じた。大西運転手は、「前日も前々日も、総裁は三越と白木屋に行かれたので、別に気に留めませんでした」と述べていた。
 車が三越前までくると、正面玄関に「九時半開店」の看板が掛けられているのを見た下山総裁は、「神田駅にやってくれ」。だが、神田駅にくると、こんどは「三菱銀行に行け」と命じたという。三菱銀行は財閥解体令で千代田銀行と改称していたが、下山は旧名を使った。
 大西運転手は丸ビル前を通って千代田銀行に車をつけた。下山総裁が千代田銀行に入っていったのは、午前九時五分ごろで、金庫係長から私金庫の鍵をもらい、地下室の私金庫から何かを取り出した後、千代田銀行を出たのは九時二十五分ごろであった。
 その後、大西運転手は東京都庁前を通り、鍛冶橋から日本橋に向かい、三越・南口駐車場に車をつけた。九時半を過ぎたころだったが、下山総裁はその後、多くの謎を残したまま、永久に帰らぬ人となったのである。
【一行アキ】
 六日午前零時二十五分ごろ、国鉄常磐線の綾瀬付近、常磐線と東武鉄道の交差するガード下の、常磐線レール上で、下山総裁の無残な首なし轢死体が発見された。
 夕刊はなかった時代で、朝日新聞七日付け朝刊は、第一面トップ扱いで次のような記事(要旨)を掲げた。
「三越に入った後、消息を絶った下山総裁は、六日午前零時二十五分、列車に轢かれたバラバラ死体となって発見された。足立区五反野南町の常磐線ガード下の下り方面約五十メートルの区間に、寸断された死体の部分、衣類が散乱し、目も当てられぬ惨状。雨に濡れた砂利の上に転がっていた同氏の腕時計は、零時二十分で止まっていた。
 下山氏が消息を絶ってから約十四時間、この間、一人の目撃者もなく、日本橋から草深い現場まで、どうして連れてこられ、または運ばれて来て、かかる無残な死体となったのか。捜査当局により、下山氏だと断定された死体は、東大で解剖に付されたが、他殺の疑いはあるが、断定までにはなお数日を要するという。
 一方、同日午後七時十分、捜査当局は、他殺はほぼ決定的という発表をした。家族、友人、国鉄当局も自殺説を強く否定している」
 朝日新聞は以上の本記に続いて、「他殺説が決定的」とする四段見出しの解説記事を掲載した。
「警視庁は、捜査会議を開いて慎重協議したが、他殺説が最も有力であるとの結論に達し、特別捜査本部を設けて、捜査一、二、三課の総力を上げて事件解明に当たることとなったが、一課と二課は捜査一般を行い、三課が飯塚警部以下三十名の刑事を動員して、従来見られなかった思想関係の捜査を行うこととなった。
 重要なカギである東大の解剖結果について、一、死因は不明、二、出血が少ないので、死後轢かれたものと思われる、三、胃の内容物はなかった。食後少なくとも四、五時間は経過している、 四、毒物は検査結果を待たねばならないと発表した」【以下、次回】

*このブログの人気記事 2020・11・3(8位の吉本隆明は久しぶり)

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