礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

この上先方に確めれば終戦の緒が断たれる(東郷茂徳)

2020-04-13 00:23:54 | コラムと名言

◎この上先方に確めれば終戦の緒が断たれる(東郷茂徳)

 雑誌『自由国民』第一九巻二号(一九四六年二月)から、迫水久常の「降伏時の真相」を紹介している。本日は、その十一回目。

 連合国の回答到着
      クーデター機運に陸相の苦衷
 十三日の朝到着した正式回答は、第一に我が天皇及び政府の国家統治権はポツダム宣言の受諾に関して連合国最高司令官の制限の下に置かるべき旨を述べ、次にポツダム宣言受諾直後、我が天皇及政府が為すべき事項を命じ、第三に日本の究極の政治の形態は日本国民の自由に表現せられたる意志に基いて定めらるべき旨が記載せられてあつた。問題は此の最後の一項が我方の諒解事を肯定するものなりや否やと云ふ点に集中せられたのである。
 〔東郷茂徳〕外務大臣、〔鈴木貫太郎〕総理は相継いで参内した。そして閣議は一時頃から開かれてこの回答を中心として論議したのである。この閣議に於ても総理は平生と異つて、積極的に各閣僚の意見を確められた。不明瞭なことをいふ閣僚があると押返して訊ねられた。総理を除く十五人の大臣の中〈ウチ〉十二人迄は(中には多少明瞭を欠いたものもあるが)先方の回答にて満足すべき旨の意見であつた。他の三人の大臣はこの回答は甚だ不明瞭であつて、この回答に満足して戦争を終結した場合は國體を護持すること困難なる事態に立到ることを惧るる旨を以て寧ろ玉砕、以つて死中活を求むるに如かず〈シカズ〉と云ふ意見である。そして議論としてはもう一度先方の真意を訊し〈タダシ〉ては如何と云ふことが主張せられた。
 此のもう一度確めて見たらといふ意見は前日十二日にも閣議に現はれ、その他外部の有力筋からも唱へられた所であるが、東郷外務大臣は米国側の新聞放送その他諸般の情報を綜合して連合国側の内部情勢を察するに、この上先方に確める措置を講ずるときは終戦の緒を断つものとして、絶対に反対せられた。私〔迫水久常〕はその前後参内した外務大臣から陛下は必要があれば先方にもう一度確めるのもよいが、緒を切つて了はない様にとの御思召〈オンオボシメシ〉があつたことも洩れ承つてゐる。十三日の閣議に於ても外務大臣は斯くの如きことを問合せても連合国は往年の「イン・ザ・ネーム・オブ・ザ・ピープル」の問題と同じく我が國體に関する日本人の信念を了徳せざるが故に到底満足なる回答は得られざるのみならず、かへつて折角の緒を断つことになるべきことを主張して譲らず、閣議は一応午後七時ごろ休憩したのである。【以下、次回】
 
 文中、「終戦の緒を断つ」の「緒」は、「しょ」と読むのであろう。あるいは、「いとぐち」と読むべきか。
 また文中、〝往年の「イン・ザ・ネーム・オブ・ザ・ピープル」の問題〟とあるのは、一九二八年(昭和三)八月に締結された、いわゆるパリ不戦条約をめぐって、同条約の第一条中の「人民の名において」という文言は、帝国憲法の天皇の統治大権に反するものだ、という議論が生じたことを指している。ときの田中義一内閣は、この文言は日本には適応されないと宣言した上で、一九二九年(昭和四)六月、同条約を批准した。

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