礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

科学が負けたのだから降伏しても恥ではない

2020-04-06 03:44:11 | コラムと名言

◎科学が負けたのだから降伏しても恥ではない

 雑誌『自由国民』第一九巻二号(一九四六年二月)から、迫水久常(さこみず・ひさつね)の「降伏時の真相」を紹介している。本日は、その四回目。

 ポツダム会議は英国の総選挙の結果による内閣の交代などのために予想よりも長くかゝり、スターリン首相及びモロトフ外相のモスクワに帰るのもしたがつてなかなか手間取つたが、新聞電報は八月五日に両巨頭がモスクワに帰ることを報じてゐた。所が八月六日には果然広島に対するアメリカの原子爆弾の攻撃が行はれた。この攻撃が何らかの新兵器によるものであることは直にわかつたのであるが、これが原子爆弾であることは翌八月七日早朝、米国トルーマン大統領の声明によつて明かとせられたのである。原子爆弾が出現した場合においては、戦争の方法は全く一変せざるを得ない。現在の段階においては原子爆弾を有するものと、有ぜざるものとの間には戦争は成立せずといふのが常識である。もちろん我が国においても原子爆弾の原理はすでに明かにせられたところであつて、その完成について研究してをつたのであるが、私の承知してゐる範囲では我が国の学者の一致した結論として原子爆弾は各国ともに今回の戦争には間に合はざるものと云ふことであつた。現に私も列席した高松宮〔宣仁親王〕様台臨の会合に於て学者達はさう云ふ意見を述べた。
 従つてこゝに原子爆弾を米国が使用するにいたつたことは、まことに我が国にとつて脅威的な事実であつた。このことが一度報道せられるや、私の所には色々の階層の人が大勢(今日迄戦争遂行一本槍の人をも沢山含めて)見えて、かくなる上は到底戦争を遂行することを得ないから如何なる方法を講じても速かに戦争を終結する外はないとの意見を述べられた。中には天が我国に終戦の好機を与へたものであつて、決して軍隊が負けたのではない、科学が負けたのだから降伏しても恥ではないといふ人もあつた。この事はこの新兵器が如何に大きな衝撃を我国に与へたかを物語るものである。尤も米国の一般の空爆は当初我方の予想したよりも遥かに激甚であつて、仮に原子爆弾がなくとも九月末ごろには青森県以西全国に在る人口三万以上の都市は悉く灰燼に帰すべしとの結論が出て居たのである。【以下、次回】

*このブログの人気記事 2020・4・6

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする