ON  MY  WAY

60代になっても、迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされながら、生きている日々を綴ります。

44年ぶりの再読「こころ」(上・下)(瀬戸内晴美著;講談社)

2024-07-04 21:23:11 | 読む

車庫の段ボール箱に詰め込んでおいた本が、2年前の出水で濡れてしまった。

濡れた本のほとんどは捨ててしまったが、数冊捨てられない本があって、何日か陽に当てて乾かして残したものもあった。

瀬戸内晴美の「こころ」という、上下巻ある本も、その一つだった。

 

この作品は、私の学生時代に、読売新聞で連載されていた。

「こころ」という名の小説は、夏目漱石の作品の中にもあった。

だが、それとどのようなかかわりがあるのかは知らない。

作者のみぞ知るところではある。

連載当時、読売新聞を購読していた私は、珍しく毎回この小説を読んでいた。

それなりに面白さを感じたのだろう。

だから、単行本化されたときには、購入して読んでみる気になったのだろう。

上巻、下巻の2冊で発行されたこの本を読み終えたのは、巻末のメモによると、上巻が1980年の9月21日、下巻が9月23日であった。

当時、社会人1年生だった私が、一気読みしたことがわかる。

 

だけど、今、その小説の内容をまったく覚えていないのである。

濡れた本を乾かしてまで取っておくことにしたのは、かつての自分が一気読みをしたのはどうしてなのかなあ、その面白さを知りたいと思ったからだった。

だけど、いざ読もうという気持ちにはなかなかなれなくて、それから2年もたってしまった。

バーコードもついていない古い本だし、汚れてしまった本だから、処分しよう。

でも、その前にもう一度読んでみよう、と44年ぶりの再読を決心したのだった。

 

いざ読んでみると、上巻も下巻も320~330ページの厚みがあった。

おまけに、案外文字がびっしり並んだページも多かった。

とてもじゃないが、かつてのように一気読みをする気力はなく、読んでは休みをくり返して2週間近くかけてようやく読み終えた。

 

どんな話なのかを紹介する帯に書かれている文章を紹介する。

【上巻;表】

愛することの真実を!

人はみな他人との愛の関係に生きる。ままならぬ「こころ」をめぐって俗情のうちに…。

【上巻:裏】

子供は成長すれば家を出て行く。長男はアメリカに長期留学中、次男は受験に失敗して流浪の旅へ、長女は妻子ある男と恋愛中のアパート暮らし。こういう失格家庭で、家族は互いに言うに言われぬ思いやりを示す。淋しく生きねばならぬ故に、絆の大切さを知る。

 

2つの家庭で登場する人物たち…結婚する前の若者である子どもたち一人一人や、その親たち―特に母親—…の行動や心情を描きながら、ストーリーが展開する。

これをかつて読んでいた頃は、私は、登場する若者たちと同年代であった。

その母親や父親から押し付けられる価値観は、たしかに私も感じたものだった。

それは、当時父親より意外と母親の方が特に強かった。

だから、小説では、既成の道徳観・価値観とぶつかる、登場人物たちの自由さに喝采を送りたいところがあった。

書かれてある当時の風俗や常識が、今では想像できないものもあり、読む方には懐かしく感じられた。

出てくる結婚観や喫煙シーンなどは、時代が変わったと思わされた。

 

再び、帯の紹介文。

【下巻:表】

新しい家庭小説の誕生!

切れてしまった家族のつながり。それぞれ社会に直面して傷つくことで初めて愛の光景が出現。

【下巻:裏】

ここには現代の家庭が持つあらゆる問題がある。夫の浮気に悩む妻、子供に苦労する母親。もっとも今様の風俗を描きながら、いずれの場合にも求めてやまないものとして「こころ」がある。それは、人が生きていくうえでの、闇の向こうのかすかな明るみを確信させる。

 

今改めて帯の紹介文の「こころ」の入った文章を見て、そういうふうに読む小説だったのだな、と思う。

今回再読しながら、登場人物たちの浮気や不倫の行方がどう展開するのか、大学受験に連続して失敗した若者がどんな道を進むのか、そんなところは気になった。

だが、読み終わって、意外性がありながらも、結果的には物足りない終わり方だと感じた。

若いときには、どうして面白く一気読みしたのか、今となってはわからない。

とりあえず上下巻の帯の文章から、「そうか。みな『こころ』を求めていたのか」と気付き、物足りなさはあるが、納得することにした。

 

著者はその後出家して、「寂聴さん」になった。

「瀬戸内晴美」の時代に出されたこの本にも、寺に嫁いだ女性や出家しようとする若者などが登場する。

仏教に多する著者の造詣の深さを感じ、その後の出家、寂聴さん誕生も分かるような気がした。

 

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