正式にはまだ数時間残っているが、本日をもって、私は定年退職となった。
常々仕事が遅く、子どもの頃から片付けが苦手な私は、今日は、片付けというより自分の物を持ち帰り可能なように、もっぱら段ボール箱に詰め込む作業。
4月から私の後任となる方が、室内バラバラ状態のところを訪ねてきた。
数日前に引継ぎをしたのだが、その時不十分だった鍵の開錠・施錠の方法を教える時間がなかった。
そこで、今日の伝達となったしだい。
午前中は、辞令交付があり、会場へ出かけた。
辞令の文章は、単純だ。
「定年により退職した」
そっけないが、その9文字の通り。
戻ってからは、せっせせっせと片付け作業。
最初に、パソコンのデータを分類したり処理したりする。
これはそんなに難しくなかった。
時間も惜しく、昼食はサンドイッチとヨーグルトですませた。
机の中には、意外と細かいものが多く、小箱にごそっと入れて突っ込む。
2年間に配られた書類の多いこと。
大雑把な分け方しかしていないのに、すごい量になる。
個人情報の入っている文書は、簡単にごみとして出せないので、分別していく。
結局、いくつもの箱に、手あたりしだいに詰め込む。
あー。なんと片付けの下手なまま還暦を迎えてしまった私。
そうこうしているうちに、転出する職員が、時間休をとって次々に別れを告げて出ていく。
私は、そうはしない。
定年退職なのだから、最後の1日を勤務時間終了まで、きちんと勤め上げたい。
片付け下手でも、時間をかければ、物はなくなっていく。
やがて、室内に掃除機をかけ、机の中や上、棚の中などは雑巾で水拭きをする。
水切り籠と急須、ふきんは、前日から漂白剤を使って水につけておいた。
あちこち、今まで使わせてくれてありがとうの心で、次の人が気持ちよく使えるようにと、心をこめてきれいにした(つもり)。
作る必要のあった文書を1つ作り、よし、いざ帰る支度だ、と思ったら、決裁印の必要な書類がどっさりとはいかないまでも、たっぷり待っていた。
それも終えると、勤務時間終了まであと5分となった。
かけ足で、職場の建物内を次々と回る。
かつて、ここで教え、ここを管理し、ここで多くの時間を過ごした。
もう、この建物内を見て回ることは、ない。
少しさびしさを感じた。
看板の前で写真を撮ってもらった。
いざ、別れの時がきた。
口では、明るく言おうと思うが、涙腺は緩もうとする。
カラッと話そうとするが、声が震える。
ありゃ。くつ箱掃除を忘れていたことに気付いた。
すみません。誰かきれいにしてください、とお願いする。
一番の若手二人が、用意された花束を私に手渡してくれた。
「奮闘せよ」「昇れ」
などと、今まで付き合って来た本人たちでないとわからないような言葉をかける。
「本当に、皆さん、ありがとうございました。」
「ありがとう」しか言う言葉が出ない。
それ以外の言葉を言おうとすると、涙声になってしまうのが怖くて、そそくさと駐車場に向かう。
Good luck & Good bye ―…
そして、この別れは、今の仕事・今の役職との別れということ。
おかげで、ここで、よい仕事ができた。
子どもたちのために。みんなのために。
それは、皆さんの協力のおかげ。
本当にありがとう。
みんなが玄関に出て、私の車が動くのを待っていた。
さあ、行こう。
車を動かす。
本当にありがとう。
今までとは違う別れ。
皆さん、お元気で―。
終わった…。
責任の重い職務が、―。
次週からは、また新しい私の人生が始まる。
定年退職の日は、涙腺が強い人でも涙はこぼれると思います。自分の心に忠実に生き、務める終えた人ならなおさらでしょう。
私が退職したのは9年前でした。当時の私は自分の会社に不満を持っていたので、退職の日に涙など絶対に無いと思っていました。しかし、帰り際にお礼の言葉を言いながら社員一人一人に握手をしていたら、何と流すはずがない涙がこぼれ出し、お礼の言葉を言えずに握手だけなっていました。その時は涙の理由などはわかりませんでした。今は、仕事に自分の出来得る限りの情熱を注いでやって来た自分自身に対する労いの涙であったのではないかと思っています。
本来なら50foxさんの定年退職にふさわしい言葉を述べるべきなのですが、私の定年退職に関することを書いてしまいました。申し訳ありません。
今始まった新たな人生が、50foxさんにとり、今まで以上に輝く素晴らしいものになることを願っています。と云うより確信しています。
出来れば、そう遠くない日に伺い、労いの言葉を直接述べたいと思っています。
心のこもった書き込み、ありがとうございました。
何より蜂様のご自身の体験が、そのまま私の数日前の体験とぴったり重なりました。
涙を流したくないので、言葉もそこそこに、退出したのでした。それでも、言葉は上ずってしまいました。
ここに書いていただいたことが、私にとって、最高の労いの言葉でした。
本当にありがとうございました!心より感謝申し上げます。
力強いたくさんの言葉をありがとうございました。
過ぎてしまえば、本当にあっという間だったとしか言いようがありません。
とりあえず、「やり切った」という思いでいます。今は、経験を生かした別の仕事を行っている、という気がいたします。
先日は、このまま何も考えずにいると、あっという間にぼんやりしてしまい、抜け殻になってしまいそうだな、とふと思いました。
伊能忠敬になるためには、自分がしたいもの、もう少し究めたいものを早期に見つけ、こだわっていかないといけないな、と考えています。
大学時代に抱いていた、将来への不確かさへの不安と期待、そういったものを今一度味わいながら、前を向いて生きたいと思います。
ありがとうございました。
1年後は、貴方の番です。ラスト・ワン・イヤーを充実させてお過ごしください。