3104丁目の哀愁と感傷の記録

日々生きてます。自分なりに。感じた事を徒然に書きます。素直に。そんな人間の記録。
since 2008.4.4

日本最高峰登頂 ―登頂編―

2010-09-23 15:58:51 | 
二回に渡ってお届けしてきた富士登山も今回で完結です。
そうしないと俺がめんどくさくなって書かなくなるから。

ではいよいよ登頂編です。
前回の続きから。


頭がくらくらする状態の中、体調は最悪、徹夜状態で臨んだ登頂アタック。
山小屋を後にし、頂上まで真っ暗闇の中、ヘッドランプの明かりだけを頼りに登山。

登っていくうちに頭がくらくらするのは和らいでくる。
ただ、メンバー一同既に“楽しい”という感情は無くなっていた。

八合目くらいまでは比較的順調に登れた。
途中の休憩でお菓子を食べる余裕まであった。
何より、声を発する気力があった。

しかし、八合目から九合目にかけては本当に辛い道のりだった。

頂上の明かりは見えているのだが、それが果てしなく遠い。
本当に届きそうでいて遠い。

山小屋ごとに上着を羽織っていく。
当然だが、上に行くに従ってどんどん寒くなっていくのだ。
九合目くらいになると、既に真冬の寒さとなる。
ちなみに俺はTシャツの上に、ロンT、その上にフリースっぽいもの、
その上にダウン(まさか9月にこいつを引っ張り出すとは思わなかった)、
更にその上にレインウエアを着込んだ。それでも寒過ぎる位に寒い。

更には酸素の薄さが顕著になってくる。
ちょっとでもつまずきそうになったり、息を止めたりするとそれでけで呼吸が大きく乱れる。
最新の注意を払いながら呼吸を乱さぬよう常に深呼吸をしながら歩く。
それでも息苦しい。

メンバー一同、休憩ポイントでは真っ先に酸素を取り出す。
そして一言も発さず、一心不乱に酸素を吸う。

休憩ごとに、「酸素、酸素…」


それに加えて、風。
風が強すぎる。どれ位強いかというと、足を踏ん張っていないと、吹っ飛ばされるくらいに強い。
決して大げさな表現じゃないんだな。
前傾姿勢になっていないと立っていられない。
氷点下のなか、冷たく、吹き飛びそうになるくらいの風が吹き晒す。

そして更に、その風が巻き上げる砂がこれまた痛い。
顔面にビシビシ当たる。目を開けていられない。
目、鼻、耳… 顔周辺の穴という穴は砂まみれになった。


これで少しはあの試練の道が伝わったであろうか。


これで雨が降っていたら…
そんなこと恐ろしすぎて考えただけで身の毛がよだつ思いだ。

それでも何とか九合目、最後の山小屋にたどり着く。
ここで最後の焼印。
まだ登頂していないのになぜか「山頂印」を押してもらう。
これで登頂できずに引き返したら一生悔いが残ること間違いなしだ。

服装はいよいよ完全防備。
手袋とマフラー(正確にはタオルを首に巻いた)まで装着。
極寒の中、トイレの長蛇の列に並んでいる最中、俺は少し泣いていたかもしれない(嘘)。

そして九合目から頂上にかけては俺自身、よく覚えていない。
覚えていることと言えば、自分が今置かれている状況の不条理さを自分に問うていた。

「俺は何でこんなつらい思いをしているのだろう…
あぁ、寒い… 痛い… 苦しい… 疲れた…」


あと、休憩が多くなった。
だが、やることと言えば、半分放心状態になりながら、焦点の合っていない目で酸素を吸い続けることだけ。
楽しいなんていう感情は遠い昔に忘れた。

しかし、引き返すことも既に出来ない状態。
これまで登ってきた道を一人で引き返すことなんて絶望以外の何者でもない。
そんな状況下に置かれたものなら、途中で崖から身を投げてしまうかもしれない。
それに極寒で強風が吹き荒れる中、留まって待っていることすら出来ない。
そんな今ことしたら本当に凍死しそう。

行くも地獄、帰るも地獄。
だったら行くしかない。

インストラクターが言うことには、
「ほら、頂上が見えた。あれが頂上だから。あとちょっとだよ」

確かに頂上の明かりは見える。
それがなぜあんなに果てしなく遠いんだろう。
とても長いあとちょっとだった。

インストラクターは更に言った。
「ちょっと上を見上げてみてください。星が綺麗ですよ。」

これは本当に綺麗だった。まるでプラネタリウムのよう。
10秒に一回くらいは流れ星が流れる。
あぁ、綺麗だぁ…



そして…

意識は朦朧とし、満身創痍で気が付いたら頂上にいた。

思っていたより、感動は薄い。
いや、感動している余裕がなかったというのが正しい。
環境が辛すぎて富士山の山頂にいるという実感がない。

インストラクターが言った。
「頂上に着きました。
向こうに富士山山頂の碑があります。ぜひ見てきてください。」

とてもどうでもいい。


既に頭の中はあったかい下界で温泉にとっぷりとつかる夢で一杯だった。

そんな中で日の出までの待機の時間。
行く前に朝飯用のいなり寿司を渡されたのだが、
あんな極寒、そして突風が吹き荒れる中、飯なんて食ってるやつの気が知れない。

そして、その待機の時間中にメンバーがはぐれる。
インストラクターに大声で名前を呼ばれ、
一緒になったメンバーの罵倒の声。

全てがどうでもよくなった中、
いよいよご来光。







綺麗だ。


確かに日の出に見とれいている余裕は全くもって無かったのだが、
それでもご来光は綺麗だった。
山肌をオレンジ色に照らす太陽。
感動してしまった。

これを見るために、どれほどの犠牲を払ってきたのか。
なんて罪深きやつなんだ。


何だかんだ色々あったが、間違いなく俺は富士山の頂上に立った。
日本の最高峰を制した。
そして、ご来光をこの目で見た。

もしかしたらそんなに声高に言うようなことでもないのかもしれないが、
それでも達成感はあった。

そして何より、一緒に登ったメンバー全員、脱落することなく6人とも登頂を果たした。


途中の地獄を一気に省いて、今回の富士登山は大成功と言っていいんじゃないだろうか。


もう一度登ろうとは今のところ全く思わないが、
いや、むしろもう二度と行かねーという確固たる決意があるが、
登ってよかったという実感だけはある。

こんな人間でも富士山を登頂できること。
これは結構自分でも勉強になった。

そして、今回の登山を通じて、一緒に地獄を経験したこともあり、
同行したメンバーの結束は一層硬くなったような気がする。

限界の肉体と、極悪の環境下でも、ご来光は確かに綺麗だった。

まとめると、行ってよかった。
いい経験が出来たと、後になってから言える台詞をここに記して終わりにする。


PS:二回に分けて書くと言ったにもかかわらず、
  今回の登頂編が長くなりすぎてしまったので最後の下山編もおまけとして追記予定…