神社本庁自らが1946年に創刊した機関紙『神社新報』の2015年11月23日の「論説」には、
「日本の歴史と国柄に基づいた憲法改正の早期実現を目指して「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が設立されて以来、日本会議や神道政治連盟が中心となって国民運動を推進してきたが、すでに全都道府県で「県民の会」が結成され、賛同署名は445万人に達し、国会議員署名も超党派で422人を獲得するに至ってゐる。これは大きな運動の成果であるが、今後なお1千万の賛同署名の達成と、国会議員署名及び地方議会決議の獲得を目指して邁進していかねばならない。憲法改正の国会発議を促すためには、広く国民の熱誠に基づく運動を盛り上げていくしかないからだ。……現在、憲法改正の秋がやうやく到来した。すでに衆議院では改憲派の勢力が3分の2に達しており、安倍総裁の任期も3年ある。あとは来年7月の参院選で改憲派の勝利を目指して全力を集中する事だ。参議院で改憲派が3分の2の議席を確保できれば、いよいよ国民投票に持ち込める。神社界の中には未だ、なぜ神職が憲法改正の署名活動までやらなければならないのか、といった疑問を抱く人もゐると聞く。しかし、もしも神職が宮守りだけを務め、国の大本を正す活動に従事しなかったら、この国は一体どうなるのか。心して考へてみなければなるまい。我々自身の熱意と活動努力によって憲法改正は是非とも実現しなければならないのである」
と強調している。
神社本庁については、ケネス・ルオフ著『国民の天皇─戦後日本の民主主義と天皇制』(2003年)によると、
「神社本庁は戦前の政治体制とイデオロギーを復活させる足がかりとなる施策を強く支援してきた。米国製の憲法に象徴される戦後体制(レジーム)を拒否しながら、戦後、主として➀政教分離を定めた憲法第20条の廃止もしくは別の解釈の確立、②皇室崇敬の強化、を目標に掲げてきた。そして日本の47都道府県にまたがる支部を通じて、8万以上にのぼる神社の活動を統合している。神社本庁はまたいくつかの関連団体を支援しているが、その中には神道青年全国協議会や全国敬神婦人連合会なども含まれている」
とある。
神社本庁自身も神道政治連盟(神政連)を1969年11月8日に結成し、自民党など保守政界を支援しており、神政連の訴えに呼応する神政連国会議員懇談会も作っている。神政連の政策目標は、
➀世界に誇る皇室と日本の文化伝統を大切にする社会づくりを目指す。
➁日本の歴史と国柄を踏まえた、誇りの持てる新憲法の制定を目指す。
③日本のために尊い命を捧げられた、靖国の英霊に対する国家儀礼の確立を目指す。
④日本の未来に希望の持てる、心豊かな子どもたちを育む教育の実現を目指す。
⑤世界から尊敬される道義国家、世界に貢献できる国家の確立を目指す。
などであり、つまり、皇室尊崇の社会づくり、新憲法の制定、靖国神社への国家関与の強化などであり、戦前の政治体制とイデオロギーの復活、戦前体制への回帰である。
現在、神職はどこで取得できるのか。神道学科をもつ国学院大学と皇学館大学の2大学でしか取得できない。国学院大学は1882年、神聖天皇主権大日本帝国政府が国家神道を支える神職の養成機関として設立した「皇典講究所」が母体である。皇学館大学も1882年、伊勢神宮が創設した神官養成機関「神宮皇学館」が母体である。大日本帝国政府は1903年、内務省所管の官立学校とし、1940年には官立大学の神宮皇学館大学とした。敗戦後、GHQの「神道指令」により廃学となったが、神宮皇学館出身者や政財界の有力者が1962年、私学として現在の皇学館大学を再興した。
その教育方針は、伊勢神宮祭主・賀陽宮邦憲王が1900年に発した「令旨」を「奉戴」し、「神宮皇学館教育の旨趣は皇国の道義を講じ皇国の文学を修め之を実際に運用せしめ」るためとしている。
皇学館高校の教職員研修用冊子では、「皇国」とは「天皇がお治めになる国」との意である。
(2022年12月2日投稿)