スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

財政に予想以上の余裕

2008-02-15 07:13:24 | スウェーデン・その他の経済
夜の経済ニュースより:

「昨年までの好景気に伴って、失業率が大きく減少し、雇用率が大きく伸びたため、失業保険の給付総額が減少。職場の病欠も減ったため、国の支払う疾病保険の給付総額も減少。その結果、2007年の歳出が当初の予定よりも100億クローナも多く抑制されたことが分かった。」

景気の下向きへの懸念とは裏腹に、昨日は公定歩合が4.25%へと0.25%ポイント引き上げられただけに、これはスウェーデン経済にとっては嬉しいニュースとなった。


インタビューに答える財務大臣Anders Borg。相変わらずのポニーテールピアス。現在40歳だが、38歳でこのポストに就く。

写真の出展:SVT

以下は、私なりの解説。
――――――
2006年、2007年はスウェーデンは大きな好景気を経験した。製造業関連の輸出産業が大きく伸び、さらに建設やサービス業も国内需要の伸びに支えられて、一部の職では人手不足となる事態にもなった。2006年秋に政権を奪取した中道右派政権は減税を公約に掲げていたため、所得税などの減税を実際に行ったが、家計の可処分所得がその分増えたことによって、経済がさらに過熱するのを防ぐ必要が出てきた。そのため、国家財政に余裕があったにもかかわらず、公的支出を抑えざるを得なくなった。「そんなに余裕があるのなら、学校教育・育児・高齢者福祉・医療にもっと投資をすべきだ」との不満の声が上がっていた。

景気循環国家財政の関係で面白いのは、景気は財政に対してダブルの効果を持っていること。景気がよくなると税収が増えることによって歳入が大きくなるだけでなく、失業保険や生活保護などの社会給付の額が減少することにより国の歳出が抑えられるために、この両方の効果で黒字が膨らむことになる。

今回のニュースは、2007年におけるこの歳出面での抑制が予想以上であったため、当初の計算よりも100億クローナ大きい余裕が国の財政に生まれた、ということ。(年間の国家予算規模は7900億クローナなので、1.3%に相当。子供の数に応じて全世帯に給付される育児給付総額の半分に相当するらしい。)

昨年とは違い、特にアメリカ経済の影響によって、今後は景気に歯止めがかかり、徐々に下向きになると考えられているため、次の予算編成である春の補正予算(4月中旬に提出)では、景気の過熱を懸念する必要はあまりなく、国としてはむしろ景気に刺激を与えたいところ。

なので、この100億クローナ分は、社会インフラ整備幼児保育に充てる意向を財務大臣が示している。国家予算の1.3%に相当するお金が経済全体に対してどこまでの意味を持つのか私には正直分からないが、タイミングとしてはバッチリだ。

最新の画像もっと見る

16 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2008-02-16 13:34:26
スウェーデンは景気がよさそうですね。アメリカのサブプライム問題などの影響も受けていないようですね。公定歩合を上げるということは、やはり景気の引き締めにかかっているということですね。それほど経済が好調ということでうれしい悲鳴ですね。
スウェーデンの国債の残高や外貨準備高はどのようになっているのですか?改善傾向なのでしょうか。
返信する
Unknown (Yoshi)
2008-02-17 18:50:30
スウェーデンは、アメリカのサブプライム問題の影響は直接受けていないのですが、アメリカの株価の乱高下はすぐにストックホルム株式市場に反映されますし、アメリカの経済に翳りが見えると、スウェーデンの輸出産業も大きな影響を受けます。

中央銀行が公定歩合を上げた件ですが、実はこれは景気の引き締めが目的ではなく、インフレ懸念のためです。中国の食料需要増やエタノール生産のための穀物価格の上昇などで、食料品価格を中心にインフレが徐々に起こっています。これを考慮したものでした。一方、景気には翳りが既に見られているので、今回の公定歩合の引き上げは多方面から大きな批判を浴びていました。

この点、本文のほうで言葉足らずだったために、誤解を与えてしまいましたね。
返信する
Unknown (Yoshi)
2008-02-17 20:06:26
外貨準備高のほうは分かりませんが、国債残高のほうは以下のグラフで見ることができます。
https://www.riksgalden.se/templates/RGK_Templates/StartPage_RGKAndGovermentFinance____228.aspx

2000年以降、上昇傾向だったものが、2005年から若干下向きになっているようです。

スウェーデンは1990年代後半から国家財政は黒字を続けているのですが、その一方で国債残高のほうは必ずしも減っているわけではない、というのは、私は分かりません。年金財政の扱いなど、いろいろ原因があるのでしょうが、調べてみたいと思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2008-02-18 22:51:27
ご丁寧な解説ありがとうございました。
スウェーデンを経済や医療、福祉などの手本として引用する評論家は多いのですが、語学の障壁があるのか書籍がないので困っていました。このサイトが最も詳しいような気がします。これからも拝見させていただきます。
アラブ諸国やアフリカ諸国など、そちらかというと政治、経済移民が多いと聞きますが、金融業などに従事する知的労働者の移民がどうなっているのか興味があります。やはり、高負担なのでこういう人は移民しにくいのではないかと思うからです。また、スウェーデンの富裕層や知識階級が、高負担を嫌って国を出ていくことはないのでしょうか。
高福祉、労働時間の短さなど良いことづくめで宣伝なれているので、なにかカラクリがあるのではないかと疑ってしまいます。
返信する
Unknown (Nei)
2008-02-20 06:56:58
 「高負担なので生活しにくい」というのはスウェーデンに対する批判でよく聞かれるのですが、負担に見合った(おそらくそれ以上)のベネフィットがあるから負担しているということ当たり前のことは意外に忘れがちです。
 負担面ではおそらく「国民負担率」とか「税率」とか数字で表しやすいのに対し、ベネフィット(給付)面では分かりやすく示せる手段がないので、こうした批判が起こりがちなのでしょうね。
 「高負担」社会を造ったのは第三者ではなく、他ならぬスウェーデン人なわけで、もし外国人がそれを嫌って来ないとしても、それは大きな問題ではないのかも知れません(どうでしょうか?>Yoshiさん)。

 なお、国債(政府債務)残高については、政府見通しでは着実に減少していくとしています。もちろん、この先の景気動向次第なわけですが。
http://www.sweden.gov.se/content/1/c6/08/85/63/9f478bbd.pdf

返信する
Unknown (Nei)
2008-02-20 07:19:28
 すみません、長くなりますが、続きです。

 確かに今は景気がよくて財政黒字ですが、この先景気がどうなるか分からないわけで、政府の本音としては、せっかく10年以上続けてきた歳出抑制策を、好景気だからといって人気取りのためだけには使えない、ということのようです。そうでなければあんなに国防費を無理に削減はしないでしょうね。

 今の政府としては、おそらくいちばん資金を投入したいのは医療と教育でしょうが、これもすぐに効果が現れるわけではなく、また、どちらも国ではなく地方が担っている分野なので、慎重にならざるを得ないんでしょうね。

 教育のことはよく分かりませんが、医療については単純に金をかける代わりに、IT化の推進とか自治体間の待ち時間の比較をするとか、効果が大きい(と思われる)わりに金はあまりかからない方法を模索しているようです。この辺は自分でも詳しく調べてみたいと思ってます。
返信する
Unknown (Nei)
2008-02-20 09:12:45
 さらに続きです。

「スウェーデンの会社に誘われたのでちょっとの間スウェーデンに赴任して一儲けしたい。でも将来年金を受け取りたいわけじゃないし、高い社会保険料を払うくらいなら行きたくない!」

…という贅沢な外国人のために、5年間に限り、税・社会保険料の課税ベースを25%割り引く特例が設けられています。

http://forskarskattenamnden.se/forskarskattenamnden/summaryinenglish/taxreliefforforeignkeypersonnel.4.383cc9f31134f01c98a800018147.html
(国税庁の説明ページ(英語))


 対象になるのはスウェーデンでリクルートできないような専門技術者や支店長など経営幹部に限られるようですが、短期間の赴任とは言え両親保険や医療給付など社会保険の恩恵を受ける可能性はあるし、そもそも高所得者は負担能力があるのだから、スウェーデンで儲けている以上負担して当然という考え方からすると、25%引きというのはギリギリのラインなのかもしれません(財務省などはさぞや嫌がっただろうなあ、と思います)。

 そうは言っても、例えば国の所得税は一定以上の高所得者しかかからないので、外国企業や高度な専門家を誘致して競争力を高める上では現実的なやり方かもしれません。

 何より、この制度が導入されたのは2001年ということなので、労働組合を基盤とする当時の社民党政権が「負担が重いから俺たち企業は海外流出しちゃうぞ!」といつも口うるさい産業界の要請を聞いて譲歩するという、柔軟な対応を取っているということが、スウェーデンの政治の対応能力の高さ一例となっているのではないかと思います。
返信する
Unknown (Yoshi)
2008-02-20 09:37:57
>金融業などに従事する知的労働者の
>移民がどうなっているのか興味があ
>ります。やはり、高負担なのでこう
>いう人は移民しにくいのではないか
>と思うからです。

おそらく障害であるのは、高負担であるということだけでなく、言葉の壁のほうもかなり大きいのではないかと思います。金融業などでは、やはり英語で業務ができるでしょうが、日々の生活はスウェーデン語ができなければ、難しいと思います。スーパーでの買い物や簡単なやり取りなどは、英語でも大丈夫でしょうが、ニュースや時事の出来事などはおそらくついて行けないでしょう。もちろん、自宅にケーブルテレビがあればCNNやBBCを見ることもできるのでしょうが、そうなってくると、敢えてスウェーデンで仕事や生活をするメリットもそこまでない・・・、ということになるのではないでしょうか。

一方で、ベネフィットという面では、外国人であってもスウェーデン人と同じように育児制度の恩恵を預かることができることでしょう。

高技能の外国人労働力については、たとえば、医療やIT、研究開発などの部門であれば、なにも同じ先進国から人材を呼び寄せる必要はなく、東欧諸国やインド・中国などからスウェーデンへ来て働きたい、という人はたくさんいるようなので、スウェーデンとしては、これらの人の勧誘により力を入れたいようですよ。特にEUにおける労働市場の統合の中で、東欧からの人材の導入が注目されています。

それから、Neiさんが指摘のように、税制の特別制度もあります。


>また、スウェーデンの富裕層や知識
>階級が、高負担を嫌って国を出てい
>くことはないのでしょうか。

スポーツ選手や映画監督、企業家などの高所得者の一部は、国外に拠点を移して、税金対策などを行っているのはおそらく事実でしょうが、国が崩壊するくらいの大問題とは捉えられていないようです。ヨーロッパの他の国であれば、北欧ほどではないにしろ、英・仏・独などはやはり税金負担が高いでしょうから、そこまでメリットはないでしょう。税金パラダイスと呼ばれるようなモナコなどとは、そもそもスウェーデンはどうあがいても競えないでしょう。

金融関係に勤務する人は、やはりイギリスやアメリカを憧れるようです。しかし、現地結婚する人などを除けば、しばらくして、スウェーデンに戻ってくる人もかなり多いようです。特に子供ができたりすると、スウェーデンの恩恵がありがたく感じられる、という話も聞いたことがあります。
返信する
Unknown (Yoshi)
2008-02-20 09:49:29
Neiさん、丁寧なコメントありがとうございます。

>負担に見合った(おそらくそれ以上)の
>ベネフィットがあるから負担していると
>いうこと当たり前のことは意外に忘れがちです。

そうなんです。支払っている税金が様々な形で返ってくるという実感を感じられるからこそ、その税金がどのように使われているか、ベネフィットになっているか、と国民の目も鋭くなるのでしょう。政治に対する感心だとか信頼感だとか、とも関連してくると思います。

それとは逆に、税金を払えど払えど、あまり見返りも感じられず、育児にしても教育にしても、多くの経費を個人で負担しなければならないようなシステムであれば、まず自らの貯金や家計のやりくりを考え、税金なんか少なければ少ないほうがいい、という発想になってしまうのもわかります。

こう考えると、スウェーデンのシステムも日本のシステムも、悪循環と好循環によってそれぞれで自己完結していて、一つのシステムから他のシステムへの移行は簡単にはいかないような気がします。「福祉国家論」で「経路依存」という言葉が出てきたと思いますが、まさにこのことかな、と思います。

つづきは、明日にします。
返信する
Unknown (Yoshi)
2008-02-20 10:02:34
>確かに今は景気がよくて財政黒字
>ですが、この先景気がどうなるか
>分からないわけで、政府の本音と
>しては、せっかく10年以上続けて
>きた歳出抑制策を、好景気だから
>といって人気取りのためだけには
>使えない、ということのようです。
>そうでなければあんなに国防費を
>無理に削減はしないでしょうね。

歳出抑制策は、毎年一定割合の財政黒字を達成させる、という形で実行されてきたみたいですね。

2007年秋の予算において国防費が当初の予定よりも大幅に削減されたのは、この黒字目標を達成するという目的も確かにあったかもしれませんが、財務省としてはそれ以上に、経済のオーバーヒートが怖くて、財政支出の引き締めをせざるを得なかったのだ、と私は思います。

2007年は労働所得税減税のおかげで、家計の可処分所得が増えましたし、2008年にはさらにこの減税政策が拡大されることが2007年秋の予算案で盛り込まれていたのです。

2007年の後半の段階では、一部の産業では労働力不足が深刻にもなっていました。(建設業、配管工、大工など)

ですので、マクロ経済の観点から、減税による可処分所得の増加分を、公的支出において削減しなければならない。でも、教育や福祉、医療では大きな削減ができない。とすれば、あとは比較的容易な防衛費だ、という考えだったのではないかと思います。(国防大臣が辞任してしまったので、容易だったとは簡単には言えないのですが)


>医療については単純に金をかける
>代わりに、IT化の推進とか自治
>体間の待ち時間の比較をするとか、
>効果が大きい(と思われる)わり
>に金はあまりかからない方法を模索
>しているようです。

そういえば、この間の「東洋経済」にもこのことが指摘されていましたね。
返信する

コメントを投稿