岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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歴史修正主義者との対話(自由主義史観批判)

2015年06月13日 23時59分59秒 | 歴史論・資料
戦後歴史学の成果を「自虐史観」と唱える、自由主義史観が登場したのは、1976年の、小学館 日本の歴史 30巻の『15年戦争』(伊藤隆 著)だった。

 このシリーズは、戦後歴史学を踏まえて企画されたものだった。戦後歴史学は、皇国史観の克服を重要な課題としていた。このシリーズの著者は「日本史学会」「歴史学会」に所属する研究者たちだった。「国史学会」というのがあるが、これは皇国史観でお話にならない。それに対して「日本史学会」「歴史学会」は戦後歴史学をリードしてきた。

 伊藤隆もその中にいた。だが『15年戦争』は、戦後歴史学の成果を全く顧みない著作だった。「皇国史観」丸出しの著作だった。『伊藤隆批判』という著作が、複数の研究者の共著で出版された。

 これが僕の記憶している、自由主義史観の初めての登場だった。伊藤隆を始めとする、自由主義史観の特徴は極めて明確だ。東京裁判の否定、アジア太平洋戦争での日本の戦争責任を不問に付す、または極力小さく見せる。いわばファシズムの呼び水ともなりかねない歴史観だ。

 この自由主義史観の者たちと、ツイッター、フェイスブック、などでやり取りした。

 彼らの主張の中心は、先の戦争での、日本の加害責任、植民地支配、こうしたものを全面的に否定するか、極力小さく見せようとするものだった。「従軍慰安婦」「南京事件」が虚構とする主張。「朝鮮は日本の植民地ではなかった」という主張。はては「サハリンは日本の領土だ」という極論まであった。

 僕も大学で歴史学を学んだ学徒の一人。家にある文献を根拠に反論した。

 先ずは「従軍慰安婦の問題」:彼らは「公文書がない。確証がない。証拠を見せろ。「従軍慰安婦」は売春婦だった。」などと主張、サンケイ新聞の政治部の記者も「彼ら」の中にいたこれに関しては問題にならない。「河野談話」以降、日本軍が直接関わったとの公文書が出て来た。強制性についても、聞き取り調査、日本の司法の事実認定などにより、疑問をはさむ余地はない。

 次に「南京事件」:彼らは「虚構だ。被害の数はそう多くない。」などと主張した。だが、書評で紹介したように、研究は国際的に行われている。国際シンポジウムによると、中国の主張する「30万」という数字は、ダブルカウントがあると、中国人研究者が認めている。自由主義史観に属する研究者が、テレビの討論番組で「せいぜい4,5万」と言って、顰蹙を買っていた。事件が起こったのは否定のしようがない。国際シンポジウムでは「20万が妥当だろう」という結論だった。

 それから、「朝鮮の植民地化」:彼らは「合法的だ。日本人は朝鮮人を奴隷にしていない。正しく日本国民として扱った。」などと主張した。だが、ヨーロッパがアフリカを植民地化したのと、統治形態が異なるのは、当然の事。「朝鮮にはさひどの富はなかった。」と主張する者もいた。だが植民地とは、「労働力、市場、投資先の確保」という側面があって、「富の収奪」だけに矮小化しては、経済史学の基本にそわない。日本の資本は、朝鮮に投資して利益を上げた。日清戦争後より、生糸の輸出量も飛躍的に伸びている。これも議論の余地はない。

 最後に、「サハリン」の問題:彼らは「私のおばあちゃんはカラフト生まれ。」などと主張した。だが、国際法上、領土とは、戦争を背景にしない国際条約で決定される。安政の「日露和親条約」では、択捉島以南が日本領、サハリンは、日露の雑居状態だった。明治になって「千島樺太交換条約」によって、全千島(カムチャッカ半島に隣接地域まで)が日本領。サハリンはロシア領となった。そののちの国境変更は戦争による現状の変更であり、サハリンは日本領とは言えない。

 つまり、多少突っ込んで話をすれば、彼らの底は割れる。だが、彼らは論争を拒む。僕がツイートを返したが、すでにブロックされていた。

 そしてこれが最も重要なのだが、彼らの多くはファシストだ。戦後歴史学の研究者を、アメリカのスパイとまで言う者もいた。理屈抜きなのだ。時の政府に都合の悪いこと言う者を、スパイ呼ばわりするのは、戦前のファシズムの発想そのものだ。

 僕の反論は、このブログと連携した、ツイッターで行った。ブログが文藝サイトなので、「偏向した小説ばかり読んでないで」という者もいたが、歴史認識に関することには、学問的根拠をもって行っている。



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