memorandum 335 生かす

多くの人が食事や掃除、そして洗面など、日常の雑務に時間をとられ、自分の時間がないという。これには驚かされる。
　これらの時間はすべて、自身の生命維持と文化的生活のためにある。（中略）
これらの日常性は、自分の時間を肉体的、文化的に生かすために使っていると理解するのが一番正しい。自分の時間、自分の時間と言うが生きていての物種ではないか。生きることを維持するために費やす時間は、自分の時間に決まっている。（中略）
　一個人は、生まれたら死ぬまで、すべて自分の生を生きる。

執行草舟『生くる』講談社、2010年、175頁。


「自分の時間」とはなんだろう。「雑務」とはなんだろう。自分を生かしめること、それはとても単調かもしれないけれど、それが「自分の時間」なのかもしれない。
私たちはあまりに「自分の時間」にドラマティックな期待を抱きすぎてないだろうか。「自己実現」が「自分の時間」ということではないのではないか。もっと大きな「時間」のなかに私たちは生きている気がする。