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「介護食、いよいよ本格的な店頭販売へ」

2014-10-17 07:15:43 | 日本

白田 茜さんの「介護食、いよいよ本格的な店頭販売へ」論文には、今からの高齢化社会での食材と食材購入の変化が書かれている。
参考になるので、以下、要約し記す。



日本では65歳以上の高齢者が21%を超える「超高齢化社会」を迎え、「介護食」のニーズが高まっている。飲み込む力が弱くなった高齢者向けに、舌でもつぶせるようにしたり、飲み込みやすいように工夫した食品が出回るようになった。今後も介護食市場の拡大が見込まれている。介護食の商品開発が進み、販路も拡大してきた。国も介護食の普及に力を入れている。介護食の現状と課題について見てみたい。

65歳以上の高齢者人口は、2014年に3186万人(総人口に占める割合25.0%)で過去最高になった。「4人に1人が高齢者」という状況だ。一人暮らしの高齢者も増え続けている。65歳以上の単独世帯は2010年に29.7%になり、2030年には39%に達する見込みである。

介護食市場は拡大が見込まれている。富士経済が2013年7月に発表した国内市場調査によると、2012年の介護食市場は1020億円。2020年には1286億円と、2012年比で26%の増加を予測している。施設用の伸びが鈍化する一方で、在宅用の伸びが見込まれているという。
 
なお、調査対象となったのは、流動食、やわらか食、栄養補給食、水分補給食、とろみ調整食品。「やわらか食」は、噛んだり飲み込んだりする力が弱い人向けのキザミ食やミキサー食、ソフト食、ムース食などを指す。ソフト食とムース食は、見た目や味を普通の食事と似た形に加工して、噛んだり飲み込みやすくしたものである。

そもそも、なぜこのような「介護食」が必要なのだろうか。
厚生労働省の調査によると、在宅介護を受ける高齢者の6割が低栄養傾向にあるという。
理由の1つに、噛んだり、飲み込んだりする機能が低下すると、食事が思うように摂れず栄養不足になることが挙げられる。低栄養が原因で病気にかかりやすくなったり、回復が遅れたり、活動や認知機能が低下するなど様々な影響があるという。

介護者にとっても、食事の準備には手間がかかる。噛む力が低下している人向けに食事を作るには、具材を煮込んだ後、細かく刻む、ミキサーにかける、すり鉢でする、裏ごしするなどの工程がある。飲み込む力が低下している人には、さらに、とろみをつけたり、ゼリー状に固めたりして飲み込みやすいように工夫する必要がある。だが、時間と労力の割には、ドロドロしているなど見た目が良くないので避けられてしまうこともあるという。刻んだり柔らかくするなど、食べるための安全な処理がしてあり、様々なバリエーションがある在宅用介護食は、高齢者本人や介護者にとっても重要な食材になっている。

キユーピーは1998年にいち早く市販用の介護食品市場に参入した。噛む力、飲み込む力に合わせて食品を4段階に区分した「やさしい献立」を販売している。レトルトパウチの商品で、主食からおかずまで幅広い品揃えである。

明治は、レトルトパウチ商品の他、チルドコーヒーのような小さなカップ型の介護食「明治メイバランスMini」を2014年9月に発売した。125ミリリットルで200キロカロリーのエネルギー、たんぱく質、ビタミン、ミネラルを効率よく摂取することができる。

マルハニチロでも、噛む力が弱くなった人向けに「やわらか食」を販売している。やわらかさを4段階に区分したレトルトと冷凍、ゼリー飲料などバリエーション豊富な品揃えである。

キユーピーや明治などの食品メーカーが加盟企業となり介護食の規格を定めた「ユニバーサルデザインフード」は年々商品数も増え、2013年時点で製品登録件数は1029品目だという。2012年の生産量は9237トン(前年度比16%増)で、市場規模は出荷ベースで108億2500万円(同16%増)だという。

これ以外にも、「あいーと」「やわらか百菜」がある。固さや状態などにより、ユニバーサルデザインフードは4段階、あいーとは1段階、やわらか百菜は4段階に区分している。

介護食は、介護施設や通販がこれまでメインだった。だが、食品企業は介護食の商品開発を進めながら、食品スーパーに販路を拡大している。

明治は2年後をめどに、ドラッグストアと食品スーパーでの販売を2万店に広げる計画だという。在宅向け高齢者食を50億円の事業規模にすることを目指している。

マルハニチロも食品スーパーでの販売を増やしている。2013年春の約200店から2014年春には300店にするという。

介護食に本格的に乗り出している食品スーパーもある。
イトーヨーカドーは、2004年から介護用品売場「あんしんサポートショップ」を展開。2012年8月末時点で104店舗に拡大している。紙おむつなどの介護用品とともに食品売り場を設けている。売り場では、商品の陳列棚に区分されたやわらかさを示す番号を見やすく配置し、 商品を選びやすいようにしている。
伸び続けている在宅介護向けの需要を食品スーパーが取り込もうとしているのだ。

在宅向けに介護食の商品開発が進んできているとはいえ、まだ需要に応えているとは言いがたい。厚生労働省によると、要介護者数は2012年4月時点で約533万人。12年間で約2.4倍に増加している。在宅でサービスを利用している人が圧倒的に多いという。

現在、介護食の8割強は、医療施設・老人福祉施設などの業務向けに流通している。残り2割の市販向けは、通信販売が大半で、店頭で取り扱われている量はまだ少ない。

要介護者数から介護食のニーズを試算すると、市場規模は約2兆5000億円になるという。一方、メーカーの出荷額から推計した実際の介護食市場は1000億円程度に過ぎない。供給量との間には大きなギャップが生じているようだ。

店頭で介護食を販売するときの課題もある。消費者が選択しやすいような表示をすることである。そもそも「介護食」が何であるのか、食品の範囲も明確になっていない。現状では、噛む力や飲み込む力が低下した人が利用する食品、普通に食事が取れる人向けの食品、塩分やたんぱく質などを控えたい人向けの食事など、様々な介護食が出回っている。「各社が様々なネーミングで販売しており統一感がない」という意見もある。

定義が統一されていなければ、どういう人向けの商品なのか判断しづらい。例えば、栄養摂取が目的なのか、咀嚼に問題があっても食べられることが目的なのか、分かりにくい商品が混在している。

このような現状を踏まえ、農水省では「介護食品のあり方に関する検討会議」を開催し、介護食の範囲を整理している。
ワーキングチーム発表の「いわゆる介護食品の定義に関する考え方」によると、
A:食機能にも栄養状態にも問題がない。
B:食機能に問題はないが、栄養状態が不良。
C:食機能に問題があるが、本人または家族の食内容や食形態の工夫により栄養状態は良好。
D:食機能に問題があることから十分な栄養が摂られていない。

といった整理をしている。そして、B、C、Dについては介護食の対象とし、利用目的に応じた分類をするという。

例えば、「咀嚼支援食」「摂食嚥下支援食」などといった案が出ているようだが、この名前でどんな人向けの商品であるか分かるだろうか。専門家が考えるとどうしても難しい名前になりがちだが、一般の人の意見を取り入れつつ、消費者が選択しやすい表示を考えることが求められている。
また、高齢者の食事では、飲食物が食道ではなく気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)の危険性が高い。そのことを踏まえて、固さ、口の中でのまとまりやすさ、くっつきやすさなどの物性の明示や、刻んだものなのか、ゼリー状のものであるのかといった形状の表示も必要だろう。噛む力や飲み込む力など身体の状況に合わせて商品を選択できるようにするためである。

超高齢社会では、もはや介護食は特別なものではなく、日常のものになっていくかもしれない。食べることに何らかの不自由があっても、残された機能を使い口から食べることは、生きる喜びにつながる。介護される人、介護する人の両方にとって介護食が安全で使いやすい環境の整備が求められている。