龍の声

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「海賊とよばれた男 出光佐三とは、②」

2014-09-30 12:18:01 | 日本

「出光佐三の大恩師 日田重太郎とは如何なる人物なのか?」

出光佐三の大恩師 日田重太郎とは、高等遊民である。
高等遊民とは、明治時代から昭和初期の近代戦前期にかけて多く使われた言葉であり、大学等の高等教育機関で教育を受け卒業しながらも、経済的に不自由がないため、官吏や会社員などになって労働に従事することなく、読書などをして過ごしている人のことである。
だが日田重太郎は、たんなる高等遊民ではない。筋金入りの高等遊民である。日田重太郎は、出光が苦境に見舞われるたびに叱咤激励し「絶対に諦めるな。もし失敗してすべてを失えば、一緒に乞食をしようじゃないか!」と。以下、出光佐三と日田重太郎の深い深い、人間模様を学ぶ。


出光佐三は1885年、福岡県の宗像市に生まれた。
福岡商業高校を3位の成績で卒業し、一高等のナンバースクールに次ぐ神戸高商に入学したエリートであった。にもかかわらず、卒業後、丁稚奉公の道を選んだ。優良な大企業に就職してゆく学友は「おまえは学校の面汚しだ。」と罵倒した。しかし、将来独立を考えていた佐三は気にしなかった。仕事の基礎を一から覚え、人間の基本を叩き込むのは丁稚が一番手っ取り早いと考えたからである。

そんな一風変わった佐三を神戸商高時代から一廉の男と目を付けていた人物がいた。息子の家庭教師を頼んだことが縁で知り合った日田重太郎である。日田は徳島、淡路島、神戸などに土地を持つ資産家であった。若くして実家近くの宗像大社や神様を崇敬し、エリートの神戸商高出身にも関わらず丁稚を就職先に選ぶユニークさに惚れ込み、丁稚をしている佐三のところへ度々訪ねるという熱の入れようであった。最高学府を出ながら、前垂れのはっぴ姿で自転車に乗って集金に駆け回る潔い佐三の姿に大きな可能性を感じていたのかもしれない。

齢を重ね、佐三25歳の頃、藍物問屋を営んでいた佐三の実家の家業が傾き、苦しい生活を強いられるようになった。家族の為に、と佐三は独立を決意したものの、資金の当ては無かった。そんな佐三を見て、日田重太郎は出資を申し出たのである。その額は6千円。現在の8千万から9千万円という大金であった。しかも、「この金は貸すのではなく、もらってくれ」と申し出た。

さらに、日出は資金を提供する際、以下の3つの不可思議な条件を付けた。

一、従業員を家族と思い、仲良く仕事をしてほしい。
二、自分の主義主張を最後まで貫いてほしい。
三、私がカネを出したことを人に言うな。

日田の支援を受け、佐三は船がその帆いっぱいに風を受けて走り出すかのように一生懸命働いた。商売においてはフェアプレーにこだわり、袖の下(リベート)を要求する顧客には、「そんなことをしてまで売ることはない」と突っぱねた。そんなやり方をしているうちに日田からもらった資金は、3年間で底をついてしまった。失意のうちに廃業を決意した佐三は、日田の元に報告の為、訪ねた。佐三の事である。激怒されても仕方があるまい。その時は一生かかっても償ってゆこうと腹を括っていたことと思う。
 
しかし、日田から返ってきた反応はまたもや意外なものであった。
「3年で駄目なら5年、5年で駄目なら10年と、なぜ頑張らない。幸い、神戸にまだ私の家は残っている。それを売れば当面の資金には困らんだろう」3年前、3つの条件を申し渡した時と何も変わらぬ前のめりの勢いで意気消沈する佐三に喝を入れた。

「こんな尊い人がいるものなのか・・・日田さんの家を売らせてたまるか!!」

その時に佐三は心から沸々と湧き上がってきたことであろう。事実、日田はこの時以来、親戚筋から「出光と手を切れ!」と再三に渡り、言われ続けた。その時、日田は、ド迫力と言わざるを得ない一言を親戚に言い放つのである。

「出光となら無一文となっても構わない」

佐三はこんな尊い人に迷惑を掛けてはならないとこれ以上の出資を受ける事なく、命懸けで邁進する事に決めた。復活の為、佐三がまず手掛けたのは、漁民や運搬業者の機械船への燃料油の売り込みであった。陸では縄張りがあって自由に売れなかったので、佐三は海上で漁船を待ち構え、油を販売した。高価な灯油の代わりに安い軽油を提案し、漁師たちに大きな利益をもたらしたのである。これが佐三が海賊と名づけられたゆえんである。そしてついに、2、3年後には下関、門司一帯の漁船や運搬船のほとんどを掌握してしまい、大企業出光興産の基礎を築くまでとなった。

その後、佐三は破竹の勢いで成長し続け、1956年には、ついに日本一の製油所を建設する事ができた。製油所建設の竣工式に、佐三は大恩人である日田重太郎を招待した。82歳の高齢になっていた日田に佐三は、「すべてあなたの御恩のおかげです・・・」
と述べた。

人間にはこんなに美しい宝を造り出す能力が備わっているのである。