第一次大戦を描く歴史書の『八月の砲声』をもとに石井孝明さんは、今日の日本の危険的な状況を説いている。
随分参考になるので、要旨を記す。
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中国、韓国、ロシアが日本の領土への不当な主張を強めている。特に中国では反日暴動によって、日系企業が襲われ、日本の権益と在留邦人の安全が脅かされている。
現在の日本は平静だ。中韓両国の旗を燃やし、関連企業を襲うこともない。デモも暴徒化しない。こうした日本の民度の高さを私は誇りに思う。しかし、おそらく中韓両国でも過激な行動をする人は一握りで、良識を持つ社会の大半の人は状況を憂いているはずだ。
今回の一連の危機で、日本、中国、韓国、いずれも双方の出方を読み誤り、状況の悪化させているようだ。私は報道以上の情報を持ち合わせていないが、特に中国、韓国の誤りは大きく危険だ。両国の政治家とも自国のナショナリズムの炎を、政治家が焚き付け、国内政治の力にしようとする、危険な行動をしている。
「自分も相手も、それぞれの真の意図を読み誤っている可能性がある。」
「戦争が始まると、誰も事態をコントロールできなくなる。」
外交・国防は有事の際には政治家、外交官などの行政官、そして軍人の専権事項だ。
だが、日本、中国、韓国、どの国の指導者も、専門家も問題だらけである。
私は領土・領海は犠牲を払っても、国は必ず保全しなければならないと考えている。一方で、その代償として武力衝突、中国での権益の侵害も考えなければならない。両国国民が、戦争を望まなくても、「状況が戦争を起こしてしまう」ということがある。そうした冷静な覚悟を持つだけでも、最悪の事態への心も準備も違ってくる。
絡み合った問題を、新しい視点から考えるために、バーバラ・タックマンという歴史家が1962年に発表した「八月の砲声」(ちくま学芸文庫)という本を紹介したい。第一世界大戦の事前準備と、最初の1カ月の戦況を描写したものだ。
私はそこから次の教訓を得た。
①誰も望まないのに、そして予想しないのに戦争は起こってしまうことがある。
「経済の結びつきが英独仏で緊密だから戦争など起こる訳がない。」
タックマンはこんな言説が欧州中に広がっていることを紹介している。ところが、それは間違いだった。
②人間が状況を動かすのではなく、状況が状況を動かした。
当時の戦争は兵士を集め編成する「動員」プロセスが必要だった。東西に敵を抱えたドイツ帝国は、動員と軍の集結、敵への攻撃を猛スピードで行う計画を立てた。ところが、その計画は皇室、また政治家が事前に関与できず、事後にも止められなかった。
政治家など人のチェックはなく、状況が状況を動かしてしまった。
③専門家は「専門バカ」だった。
当時、軍は巨大化していた。その結果、英国以外の欧州諸国では国内で巨大な政治的な力を持った。そして軍事は専門家による領域であり、また王制が残って民主主義が未成熟でもあって、各国とも政治家が軍を管理できなかった。とくにドイツは、「統帥権の独立」、つまり軍は建前上皇帝に直属し、政治の干渉を受けない制度もつくっていた。
各国の軍人は敵と戦うということしかできない「専門バカ」が多かったのだ。
④頼りない専門家の軍人たちを、もっと頼りない政治家が止められなかった。
軍人に「戦争」という国の大権をほぼ委ねてしまう危険な制度を作ってしまう政治家は軍人よりも責任が重いだろう。しかし、政治家たちの行動は世論に立脚したものだった。
こうした失敗の連鎖が悲劇を生む。第一次世界大戦の死者は1300万人で、戦争によってドイツ、オーストリア、ロシア、オスマントルコという帝国が崩壊した。