20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『フィッシュ』(L,S,マシューズ作 三辺律子訳 すずき出版刊)

2008年07月27日 | Weblog
 句会のお仲間である、親しい編集者の一宙さんからいただいたご本です。

 この『フィッシュ」は、いま雑誌や書評誌などで評判の、話題の本です。
 頂戴してすぐに、秩父行きの「レッドアロー号のMy書斎」で感動しながら拝読したのですが、なかなかこちらにご紹介する機会が作れず、遅れてしまいました。一宙さん、ごめんなさい。

 この作品はタイトル通り「フィッシュ」、魚が、困難な状況を生きぬく象徴のようにして描かれています。そしてこの象徴性が、干ばつで苦しむ開発途上国から脱出しようとする家族の困難さに、煌めきと生きる力を与えてくれている。そんな作りになっています。
 
 どこの国なのか、あるいは救援活動をしている両親の仕事は医療関係というのがなんなのか。詳しいことはすべて茫洋としています。
 しかし読みすすんでいくうちに、これはいま戦火のなか生きているどこの国にもあてはまる状況で、ある意味、one of them なのだということを知らしめてくれます。
 このお話は、忍びよる戦争を前に国外へ脱出する家族と、脱出の手助けをしてくれるガイド。ガイドのロバ。そして道連れにすることになった雨上がりの泥溜まりで見つけた「フィッシュ」との話です。
 ストーリーを追いながら、いつしか私たちは、この、魅力的な世界や、魅力的な登場人物たちに引き込まれていきます。
 主人公の少女「タイガー」。小柄なのに意志が強く小さなことに動じない母親。繊細でやさしい父親。そして脱出を手助けする不思議な魅力を持ったガイド。
 厳しい状況を描いているのに、この作品はなぜか読んでいて爽やかな気持ちになれます。それは登場人物たちの魅力もさることながら、ロバや魚が、とても有効に、人間の同伴者として描かれているという物語の仕掛けにあるように思います。
 雨上がりにできた泥にまみれた溜まり水で、一瞬、背びれを光らせジャンプした「フィッシュ」。手綱を引かれていないのに、ガイドの人生の相棒のように、まるで彼の気持ちがわかるように忠実で働き者で、なおかつ頑固者のロバ。
 それらがとても愛おしい存在として、物語の中心を陣取っています。
 こういった動物たちをきわめて有効的かつ魅力的に配置する、イギリス人の作家のセンスには唸らされます。
 また、三辺律子さんのやわらかな語りでの翻訳が、とてもすてきです。 
 こうした生き方を選んだ両親のもとで育った少女の、魅力的な心情がリリカルに伝わってきます。
 
 みなさん、ぜひお読みになってください。
コメント
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