「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」

Vol.3「光の館」に続きます。「越後妻有 大地の芸術祭の里」へ行ってきました。

「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する Vol.3「光の館」

「光の館」を出た後は、十日町市街の中心部を目指し、道の駅「クロステン」に隣接する、「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」へと向かいました。


「キナーレ」公式サイトより

「キナーレ」は、2003年のトリエンナーレの開催時に建てられた施設で、設計を京都駅ビルなどで知られる、建築家の原広司が手がけました。当初は、「越後妻有交流館 キナーレ」と呼ばれていたそうです。

「キナーレ」とは、公募によって選ばれた愛称で、「この場所に来て下さい。」を意味する地域の方言と、特産品の着物を来て下さいを意味する、「着なされ」をかけて付けられたそうです。

その後、2012年、同じく原広司の手によりリニューアルされ、現在の「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」として再オープンしました。

建物は、正方形のコンクリート打ちっ放しで、1階に回廊と池(広場)、そして「十日町温泉 明石の湯」があり、2階に「越後妻有里山美術館」と、レストランやカフェがあります。1階部の池は、原が設計したものですが、現在は、イベントなども開催出来るように作られています。



私が出向いた時も、回廊中央に池はなく、広場となり、消防関連のイベントが行われていました。そのためか、駐車場はほぼ満車で、ファミリーも多く、大変な盛況でした。「キナーレ」は、単に美術館施設ではなく、当初の「交流館」の名が示すように、街の人々の集いの場としても機能しているようです。

この日は企画展がなく、常設展のみが開催されていました。出展作は全12点です。建物1階から2階へと至る回廊部に、作品が設置されていました。


ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー「ゴースト・サテライト」

スイスのアーティスト、ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーが、冒頭の回廊を鮮やかに彩ります。タイトルは「ゴースト・サテライト」です。天井からはカゴや建具、椅子にオケ、そしてバトミントンのラケット、さらにはテレビのアンテナやパチンコ台などがたくさん吊られていました。その一つ一つが、いわばオブジェとして作られています。


ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー「ゴースト・サテライト」

「サテライト」の名が示すように、作家は人工衛星をモチーフに表現しました。また素材自体も、十日町市内で収集したもので、日用品や廃材などが利用されています。解説に「力強さ」とありましたが、むしろ祝典的で、華やいだ空間が構築されているように見えました。


山本浩二「フロギストン」

越後妻有の土地を意識した作品が多いのも特徴です。山本浩二は、同地の樹木を素材にしています。場内には、何本かの樹木や切り株が置かれ、上に黒いオブジェがのっていました。このオブジェこそが山本の彫刻です。作家は、樹木に彫刻を施し、さらに炭化させて、作品に仕上げました。台座の樹木と彫刻は、各々に対応しているそうです。


山本浩二「フロギストン」と「火焔型土器」(レプリカ)

また十日町といえば、国宝「火焔型土器」も有する、土器で知られた街でもあります。同地の笹山遺跡からの出土品のレプリカも、あわせて展示されていました。


カルロス・ガライコア「浮遊」

雪のような結晶がガラスケースの中で乱舞するのが、カルロス・ガライコアの「浮遊」でした。写真では分かりにくいかもしれませんが、透明ケースの下から風が送られ、中にたくさん入った小さな銀紙が、終始、宙を舞っています。


カルロス・ガライコア「浮遊」

この銀紙は、いずれも家の形をしていました。作家は、越後妻有の家屋をリサーチし、幾つかのパターンを抽出し、銀紙に切り抜いたそうです。淡く、白いキラキラとした光を放っていました。


栗田宏一「ソイル・ライブラリー/新潟」

越後妻有のみならず、新潟県全域に目を向けたのが、栗田宏一でした。その名は「ソイル・ライブラリー/新潟」です。無数の小瓶が、ケースに収められています。はじめは、何が入っているのか分かりませんでした。


栗田宏一「ソイル・ライブラリー/新潟」

答えは土です。栗田は、県内各地より576種類もの土を採取し、ガラス瓶に入れて並べました。まさに土の図書館です。個々に異なる土の色の描いたグラデーションに見入りました。


カールステン・ヘラー「Rolling Cylinder, 2012」

体験型の作品もあります。その1つが、カールステン・ヘラーの「Rolling Cylinder, 2012」でした。外観はほぼ真っ白な筒で、前後に階段がついています。そこから中へ入ることが出来ました。


カールステン・ヘラー「Rolling Cylinder, 2012」

するとご覧の通り、赤白青の3色の螺旋模様が、ひたすらに回転しています。世界に共通する理容店のサインポールを模した作品でした。3色は、血液の循環に由来する説があるそうです。そこに作家は、越後妻有へ人々を招く、芸術祭の循環のエネルギーを合わせ重ねました。ともかく中に立つと、後ろから回転する螺旋に押されるような錯覚に陥ります。平衡感覚が揺さぶられました。


レアンドロ・エルリッヒ「トンネル」

さらに面白いのが、レアンドロ・エルリッヒ「トンネル」です。エルリッヒも、錯覚や音の効果で、人の知覚や認識に揺さぶりをかけるアーティストの一人です。外観はトンネルに見えません。実際にも、豪雪地に多い、「かまぼこ倉庫」を模しています。ともかくは暗幕を開けて中へと入ってみました。


レアンドロ・エルリッヒ「トンネル」

思いもよらぬ光景が現れました。まさしくトンネルそのものです。しかも車付き、厳密には、車の模型が付いています。トンネルは真っ直ぐにのび、出口の先には、もう1つのトンネルが見えました。一見、山岳地帯の越後妻有で多く見られる、ごく一般的なトンネルに映るかもしれません。しかし、すぐに何かが違うことに気がつきました。


レアンドロ・エルリッヒ「トンネル」

スケール感です。実際に人が立つと、トンネルは、異様に小さいことがわかります。さらに細かいことに、錯覚を誘うため、車までが小さく作られていました。


エルムグリーン&ドラッグセット「POWERLESS STRUCTURES, FIG.429」

ほかには、クワクボリョウタの作品も、楽しいのではないでしょうか。お馴染みの鉄道模型を用いた、影絵のインスタレーションです。十日町界隈で着物を作るための道具を利用し、影絵を生み出していました。(クワクボリョウタ作品のみ撮影不可。)


マッシモ・バルトリーニfeat. ロレンツォ・ビニ「○in□」

美術館を抜けると、「越後しなのがわバル」と、ミュージアムショップがあります。バルのデザインは、イタリアのマッシモ・バルトリーニとロレンツォ・ビニが手がけています。天井の丸い照明は、信濃川に浮かぶ雲を表し、レストランの丸テーブルを繋げると、信濃川が現れるという仕掛けです。



書棚もあり、美術書のほか、越後妻有の歴史や民俗に関する書籍も、自由に閲覧することが出来ます。美術館内はやや寂しい人出ではありましたが、作品はもとより、原広司設計の建物など、見どころは少なくなくありません。


へぎそば由屋

「キナーレ」を観覧した後は、お昼時でもあったので、地元の名店、由屋へ立ち寄り、へぎそばをいただくことにしました。さすがに人気店だけあり、30分超の待ち時間でしたが、喉ごしもよく、コシの強いそばで、大変に美味でした。並ぶ価値は十分にあります。

そして信濃川の対岸、山岳地帯にある、「絵本と木の実の美術館」へ向かいました。

Vol.5「絵本と木の実の美術館」へと続きます。

*「越後妻有 大地の芸術祭の里」を旅する
Vol.1「森の学校キョロロ」・「夢の家」
Vol.2「まつだい 農舞台」・「里山食堂」
Vol.3「光の館」
Vol.4「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」
Vol.5「絵本と木の実の美術館」
Vol.6「たくさんの失われた窓のために」・「ポチョムキン」

「越後妻有里山現代美術館 キナーレ」 「越後妻有 大地の芸術祭の里」@echigo_tsumari
休館:水曜日。
 *祝日の場合は翌日休館。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人800円、小中学生400円。
 *企画展により変更あり。
住所:新潟県十日町市本町6
交通:JR線・北越急行ほくほく線十日町駅より徒歩10分。JR線越後湯沢駅より車で60分。
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