「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」 新潮社

奇想の絵師、長沢芦雪の画業を知るための、最適な書籍と言えるかもしれません。新潮社のとんぼの本、「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」を読んでみました。

「かわいいこわいおもしろい 長沢芦雪/とんぼの本」

実のところ芦雪本は少なくなく、東京美術の「もっと知りたい長沢蘆雪」や、別冊太陽(平凡社)の「長沢芦雪」などもありますが、江戸絵画を専門とする岡田秀之氏が新たな知見を交え、芦雪の魅力を余すことなく紹介していました。



まず冒頭の図版で目を引くのは、「虎図・龍図襖」の虎でした。芦雪に縁のある和歌山の無量寺の所蔵で、さも襖から虎が飛び出そうとする姿を描いています。芦雪の代表作と呼んでも良いかもしれません。

「芦雪ワールド 千変万化」とあるように、芦雪の世界を13の切り口から分析しているのも面白いところです。しかも「かわいいものを描く」や「妖しきものを描く」、それに「指で描く」などの親しみやすい切り口ばかりでした。また酒好きとも伝えられる芦雪です。中には「酔って描く」もありました。



かわいいと言えば、師でもある応挙の犬が有名ですが、芦雪も負けてはいません。より大胆に、言い換えれば、よりゆるく犬を描いています。現代の「ゆるキャラ」にも通じる要素があるかもしれません。



美術史家の辻惟雄氏と河野元昭氏の対談が充実しています。芦雪を、師の応挙の型を破るべく、意識的に奇想的な絵を描いた「人工の奇想」の絵師と位置づけています。また各氏が「この1点」を挙げ、芦雪の魅力について語っていました。

芦雪の生涯を追うのが「芦雪ものがたり」でした。ここでは謎に包まれた出自から、応挙への入門、さらに南紀での制作プロセスを、図版とテキストで丹念に紐解いています。



特に南紀での活動について細かに触れていました。また作品の解説だけでなく、無量寺、草堂寺、成就寺の間取り図も詳しい上、かの地の風景写真を交えた巡礼地図までも掲載されています。芦雪の足跡を辿るべく、南紀に出かけたくなるほどでした。

いわゆる新知見ということかもしれません。一般的な芦雪観の再検討を促しているのも特徴です。岡田氏は、残された書簡を読み解くことで、諸々伝えられる芦雪の奔放な逸話は、後世に脚色された可能性があるのではないかと指摘しています。また毒殺説についても懐疑的な見方をしていました。真相は如何なるところでしょうか。

さて、この秋に愛知県美術館で開催予定の「長澤芦雪展」も、あと1カ月弱に迫りました。



「長沢芦雪展 京のエンターテイナー」@愛知県美術館
会期:10月6日(金)〜11月19日(日)
公式サイト:http://www.chunichi.co.jp/event/rosetsu/

既に特設サイトがオープンし、開催概要や見どころ、イベントなどが記載されています。本書の岡田氏の記念講演会も行われます。

「長沢芦雪入門」
講師:岡田秀之氏(嵯峨嵐山日本美術研究所学芸課長)
日時:11月4日(土) 13:30~15:00 *申込方法は公式サイトまで。

注目すべきは無量寺の空間再現展示ではないでしょうか。本来、「虎図襖」と「龍図襖」は向かい合わせに描かれていたそうです。それを展覧会の会場としては初めて再現します。


巡回なしの芦雪展です。本書の言葉を借りれば「応挙よりウマイ 若冲よりスゴイ」。おそらく秋の日本美術展の中でも人気を集めるに違いありません。私もこの本を片手に愛知へ見に行きたいと思います。

「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」 新潮社
内容:愛らしい仔犬から不気味な山姥まで、一寸四方の五百羅漢図から、襖全面の虎図まで。超絶技巧の写実力に、酔いにまかせた一気描き。「かわいい」「こわい」「おもしろい」幅広い画風で、人々を驚かせ、楽しませ続けた江戸中期の画家・長沢芦雪(1754~99)。新出作品もたっぷりと、「奇想派」の一人として注目を集める絵師のびっくり絵画と短くも波瀾万丈の人生を新進の研究者がご案内します。また、日本美術史界の泰斗、辻惟雄氏×河野元昭氏がその魅力を語り尽くした「芦雪放談」も必読。画布に現された千変万化の「奇想」を目撃せよ。
価格:1600円(税別)。
仕様:126ページ。
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