「岩崎コレクション~孔子から浮世絵まで」 東洋文庫ミュージアム

東洋文庫ミュージアム
「東洋文庫創立90周年 岩崎コレクション~孔子から浮世絵まで」 
8/20~12/26



東洋文庫ミュージアムで開催中の「岩崎コレクション~孔子から浮世絵まで」を見て来ました。

1924年に東洋学の専門図書館として設立された東洋文庫。90周年を記念しての展覧会です。岩崎宗家より伝わる古写本、及び浮世絵を紹介しています。

さていわゆる常設を除くと70点ほどの展示、さほど量は多いと言えないかもしれませんが、思いがけないほど見応えがあるのは、やはり歴史ある東洋文庫コレクションのゆえかもしれません。


国宝「毛詩」唐時代初期(7~8世紀)

まずは古筆、貴重書です。国宝の「毛詩」。孔子が編纂したという中国最古の詩集「詩経」を漢の毛亨が伝えたもの。書写されたのは唐の時代初期です。毛詩の写本の中でも最古に分類されると考えられています。


義浄「梵語千字文」唐時代(9世紀頃)

6世紀頃に中国で編纂された字典です。その名も「梵語千字文」。展示品は9世紀頃の写本で現存最古です。日本へは遣唐使が持ち帰ったとか。かの高橋是清が所蔵していたものを大正期に岩崎家が購入しました。


「百万塔陀羅尼」770年

日本最古の印刷物がありました。「百万塔陀羅尼」です。764年に称徳天皇が即位した際に作らせたという経典「陀羅尼経」。計100万もつくらせ、各地の寺院に寄進したとか。それを入れた小塔とともに展示されています。


吉田兼好「徒然草(嵯峨本)」1615-24年頃刊

そして「徒然草(嵯峨本)」も美しい。見返しには流麗な鹿の絵、本文は雲母刷りです。角度を少し変えて見ると仄かに光輝いて見える。印刷の欠けた部分はかの光悦が補ったとも言われているそうです。

そのほかには江戸期の「歌仙貝合和歌」なども味わい深い作品。三十六歌仙にあわせて36種類の貝名を詠み、貝の絵も描いたという変わり種の絵巻物です。貝は思いの外に写実的に表されている。金銀箔や砂子が可憐に散っていました。


「日本書記(後陽成天皇勅版)」1599(慶長4)年 ほか

なおご覧のとおり東洋文庫ミュージアムは一部(浮世絵展示室)を除いて撮影が可能です。ここは遠慮なくカメラ片手に楽しみました。

さて貴重書と並び重要なのは浮世絵、中でも春画です。

近年に大英博物館で行われた春画展が話題になったように、必ずしも人々の関心がないわけではない春画。しかし様々な事情があるのでしょう。国内の展覧会なりで見る機会は決して多いとは言えません。

それを本展ではある程度まとめて見せています。東洋文庫で春画が公開されること自体が初めてです。そもそも師宣や春信、それに清長しかり、名だたる浮世絵師は春画でも腕を振るっていた。浮世絵史を踏まえる上で春画を外すことは出来ません。


鈴木春信「鈴木春信春画貼込帖」1768-72(明和後期)年頃

「鈴木春信春画貼込帖」はどうでしょうか。全12図、おそらくは種類の異なる組物から選ばれて貼られた作品、左には男女の恋の情景が、そして右にはいわゆる両者の交わる姿が描かれている。浮世絵と春画が一つの連続した物語として表されています。


勝川春潮「好色図会十二候」1788(天明8)年頃

勝川春潮の「好色図会十二候」も十二図の組物。四季の風物を背景に交わる男女、図は七夕の夜の出来事です。簾の透けの表現も美しい。何とも楽しそうな表情をした男女の様子が印象に残ります。

清長の春画もありました。「袖の巻」です。面白いのは縦2段で男女の姿が描かれていること。身体を象る線は実に細やかで清長のセンスを思わせます。それにしても清長、通常は8頭身ならぬ縦長の構図が特徴的ですが、ここでは横に長い。舞台を考えれば当然のことなのでしょう。ワイド画面での春画でした。


三世亀齢軒斗遠(発案)、狩野永岳・円山応震・土佐光文(画)ほか「華月帖」1836(天保7)年

影絵の情事です。「華月帖」です。蚊帳の中で交わる男女をモノクロームで表します。作者はいわゆる浮世絵師ではなく、円山応震や狩野永岳らといった絵師や文化人です。大阪の挿花師である亀齢軒の発案により共作で描きました。いかにも上方らしい一作、遊び心も感じられます。

さらに春画では北斎工房の「偶定連夜好」も面白い。女の表情が鬼気迫っている。当然ながら春画といえども絵師によって個性が出ています。


喜多川歌麿「高島おひさ」1793(寛政5)年頃

春画以外の浮世絵にも見るべきものがあります。うち浮世絵草創期、師宣や鳥居清信、清満らの作品は特に目を引くのではないでしょうか。もちろん状態の良い北斎の「高島おひさ」や歌麿の「御殿山の花見賀籠」、そして広重の「名所江戸百景」などのメジャーな作品もありましたが、こうした初期浮世絵に優品が多いのも東洋文庫コレクションの特徴と言えそうです。

会期中、展示替えがあります。*第1期出品リスト(PDF)

第1期:8月20日~10月20日
第2期:10月22日~12月26日

第2期では重文の「礼記正義」(7~8世紀・唐時代)が何と90年ぶりに公開されるそうです。また国宝の「文選集注」(10~12世紀・平安時代)も第2期で展示されます。

観覧において一部年齢の制限がありました。18歳以下は春画を含む浮世絵の展示室には入場出来ません。ご注意下さい。

ところで東洋文庫ミュージアム、実は今回初めて行きました。


エントランスからミュージアムショップ「マルコ・ポーロ」

場所は三田線の千石駅から歩いて7~8分ほど。不忍通り沿いです。斜め向かいには六義園があります。目の前の道路は車がひっきりなしに往来していますが、周囲は比較的閑静な住宅街です。

ミュージアムがオープンしたのは2011年の秋。想像以上に立派な施設でした。エントランスからオリエントホールでは東洋文庫の歩みを紹介。まだ新しい美術館です。映像や情報端末を用いてのデジタル展示も目立ちます。


モリソン文庫

そして何と言っても圧巻なのはモリソン文庫です。創設者の岩崎久彌がオーストラリア人のモリソン博士より譲り受けた東アジア関連の書籍群。その数2万4千点です。いずれも貴重書、その場で手にすることは出来ませんが、一部の書籍に関しては見開きでの展示もありました。


シーボルト「日本植物誌」1835-70年

美術館の裏手に廻ってみました。「知恵の小径」と名付けられた小径。中庭の「シーボルトガーデン」の緑が目に飛び込んできます。


知恵の小径から「シーボルトガーデン」方向

最奥部が洋風レストランの「オリエント・カフェ」です。運営は小岩井農場。そもそも農場の小岩井の岩とは三菱の岩崎彌之助からとった文字。彼は共同出資者の一人です。言わば岩崎家ゆかりの農場でもあります。


「オリエント・カフェ」

農場の素材を用いてのランチということで楽しみにしていましたが、何とタイミングの悪いことに、私の出向いた日はパーティーのため貸し切り。利用することが叶いませんでした。

「オリエント・カフェ」@東洋文庫ミュージアム

人気のカフェということで金・土曜を中心に貸し切りでのイベントも多いそうです。カフェの公式サイトにはその旨の案内もあります。お出かけの際は前もって確認した方が良さそうです。

キャプションも親しみやすく、単眼鏡も無料で貸し出して下さいました。


東洋文庫ミュージアム全景

まだまだ都内には魅惑的な美術館があるものです。12月26日まで開催されています。まずはおすすめします。

「東洋文庫創立90周年 岩崎コレクション~孔子から浮世絵まで」 東洋文庫ミュージアム@toyobunko_m
会期:8月20日(水)~12月26日(金)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。翌日休館。
時間:10:00~19:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900円、シニア800円、大学生700円、中学・高校生200円、小学生以下無料。
 *入館割引券あり
住所:文京区本駒込2-28-21
交通:都営地下鉄三田線千石駅A4出口から徒歩7分。JR線・東京メトロ南北線駒込駅(JR線南口、南北線2番出口)から徒歩8分。
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