都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「山水に遊ぶ - 江戸絵画の風景250年 - 」(前期) 府中市美術館
府中市美術館(府中市浅間町1-3)
「山水に遊ぶ - 江戸絵画の風景250年 - 」
3/20-5/10(前期3/20-4/12)
古今東西、江戸時代の画家たちの描いた『風景』を概観します。府中市美術館で開催中の「山水に遊ぶ - 江戸絵画の風景250年 - 」の前期展示へ行ってきました。
何と言っても定評のある府中市美術館の江戸絵画シリーズです。2007年の動物絵画の例を挙げるまでもなく楽しめないはずがありません。東博、京博をはじめ、静岡、栃木などの公立美術館、もしくは個人所蔵による、蕪村、応挙、若冲、蕭白、蘆雪、大雅らの作品全100点が、展示替え(*)を挟んで一堂に会されています。豪華なチラシを見て、計三度の展示期間全てに行きたくなった方もまた多いのではないでしょうか。
*展示期間(必ずしも全ての展示作品が入れ替わるわけではありません。出品リストをご参照下さい。)
前期:3/20~4/12 後期A:4/14~26 後期B:4/28~5/10
構成にも要注目です。詳細は会場で追っていただきたいところですが、中国に倣った景色からやまと絵、そして富士山から空想の中の世界と、様々な風景を提示して紹介しています。山水から奇想系まで、風景を通してそれぞれの絵師たちが何を見て、また想っていたのかが伝わる展覧会と言えるかもしれません。
前置きが長くなり過ぎました。主に前期のみの展示で印象深かった作品を挙げます。
与謝蕪村「渓流漁舟図」(全期間)
いきなり蕪村のお出ましです。明るい色彩にて渓谷を進む小舟が描かれていました。ちなみに余談ですが蕪村と言えば先日、かの名作が「夜色楼台図」が国宝指定を受けました。
熊谷直彦「騰竜隠雲之図」(前期)
猛烈な突風に吹き飛ばされれそうになる男が描かれています。それにしてもこの嵐、尋常ではありません。右幅では家の屋根を木っ端微塵に吹き飛ばしていました。
伊藤若冲「石灯籠図屏風」(前期)
対決展の記憶がよみがえります。この景色はやはり朝なのでしょうか。
小泉斐「富岳写真」(全期間)
タイトルに写真とあるのもあながち嘘ではありません。富士山の外見を捉えるのではなく、山中に入り、岩もゴロゴロとする山肌の様子がリアルに描かれています。小泉は静岡県美の常設展でも印象に残った画家でした。
原在中「富士・三保松原図」(前期)
日本人が思うシンボリックな風景として一番に挙げるべきが富士山なのでしょうか。展示では富士山を描いた作品が多く登場します。細やかな点描で示された三保松原越しの富士の姿は雄大でした。
平井顕斎「白糸瀑布真景図」(全期間)
奇妙な構図を取る瀑布図です。真景と称しながらも、おそらく実際にはこうは見えないであろう白糸の滝の姿を描いています。まるで滝の解剖図のようでした。
曾我蕭白「松鶴山水図」(前期)
前期では2作の蕭白が展示されていますが、彼らしい作品ではやはりこちらです。何気ない山水画も蕭白の手にかかるとダイナミックなアニメーション風の表現へと転化しました。ちなみに本展の目玉の一つ、重文の「月夜山水図屏風」は後期に出品されます。
墨江武禅「月下山水図」(前期)
月を頂点にして連なる山々、川、そして松の生い茂る小道へと景色が流れるように続いています。ただし注目すべきは、まるで白抜きされたかのような表現技法です。まるで版画のようでした。
山本深川「宇津の山図屏風」(前期)
言うまでもなく伊勢物語に主題をとった作品です。今回のラインナップではむしろ琳派風の本作こそ異端なのかもしれません。
鈴木芙蓉「那智瀑泉真景図」(前期)
あの那智の滝が風にあおられて大きく反り返っています。滝の神々しいまでの迫力を伝えながらも、実際には起こりえない空想の景色が広がっていました。
土井有隣「西洋海浜風俗図屏風」(前期)
ヴェルネの銅版画がそのまま日本画へと変化しました。エキゾチックな表現の中にも海辺の情緒が確かに表されています。
伊藤若冲「石峰寺図」(前期)
前期の真打ちは最後に登場します。仁王門から繋がる仏の国が奇想天外に広がります。羅漢に成り済ましてかの国の旅を楽しみました。
若冲や蕭白などが素晴らしいのは言うまでもありませんが、今回の展示は知られざる奇想、言わば『ネオ奇想』にこそ見るべき点が多くあるのではないでしょうか。墨江武禅、鈴木芙蓉、土井有隣など、思わずあっと驚かされるような作品が何点か登場していました。
図録が動物絵画展よりも格段にパワーアップしています。なお購入希望の方は早めに出かけられた方が良いかもしれません。動物絵画展の図録は会期途中で早々に売り切れました。
会期を分けても観客に余計な金銭の手間を取らせません。一度の展示替えに有効なリピーター割引制度まで設けられています。2回目は何と半額の300円で入場可能です。これは嬉しい配慮でした。
毎度の如く東府中駅から徒歩で美術館へと向かいました。ワンコインのちゅうバスも悪くありませんが、今の季節は桜並木も美しい公園内を散歩するのも気分が良いものです。ゆっくり歩いても20分とかかりません。
しばらくは京王線で府中詣となりそうです。前期展示は4月12日まで開催されています。
*関連エントリ
「山水に遊ぶ - 江戸絵画の風景250年 - 」(後期B) 府中市美術館
「山水に遊ぶ - 江戸絵画の風景250年 - 」
3/20-5/10(前期3/20-4/12)
古今東西、江戸時代の画家たちの描いた『風景』を概観します。府中市美術館で開催中の「山水に遊ぶ - 江戸絵画の風景250年 - 」の前期展示へ行ってきました。
何と言っても定評のある府中市美術館の江戸絵画シリーズです。2007年の動物絵画の例を挙げるまでもなく楽しめないはずがありません。東博、京博をはじめ、静岡、栃木などの公立美術館、もしくは個人所蔵による、蕪村、応挙、若冲、蕭白、蘆雪、大雅らの作品全100点が、展示替え(*)を挟んで一堂に会されています。豪華なチラシを見て、計三度の展示期間全てに行きたくなった方もまた多いのではないでしょうか。
*展示期間(必ずしも全ての展示作品が入れ替わるわけではありません。出品リストをご参照下さい。)
前期:3/20~4/12 後期A:4/14~26 後期B:4/28~5/10
構成にも要注目です。詳細は会場で追っていただきたいところですが、中国に倣った景色からやまと絵、そして富士山から空想の中の世界と、様々な風景を提示して紹介しています。山水から奇想系まで、風景を通してそれぞれの絵師たちが何を見て、また想っていたのかが伝わる展覧会と言えるかもしれません。
前置きが長くなり過ぎました。主に前期のみの展示で印象深かった作品を挙げます。
与謝蕪村「渓流漁舟図」(全期間)
いきなり蕪村のお出ましです。明るい色彩にて渓谷を進む小舟が描かれていました。ちなみに余談ですが蕪村と言えば先日、かの名作が「夜色楼台図」が国宝指定を受けました。
熊谷直彦「騰竜隠雲之図」(前期)
猛烈な突風に吹き飛ばされれそうになる男が描かれています。それにしてもこの嵐、尋常ではありません。右幅では家の屋根を木っ端微塵に吹き飛ばしていました。
伊藤若冲「石灯籠図屏風」(前期)
対決展の記憶がよみがえります。この景色はやはり朝なのでしょうか。
小泉斐「富岳写真」(全期間)
タイトルに写真とあるのもあながち嘘ではありません。富士山の外見を捉えるのではなく、山中に入り、岩もゴロゴロとする山肌の様子がリアルに描かれています。小泉は静岡県美の常設展でも印象に残った画家でした。
原在中「富士・三保松原図」(前期)
日本人が思うシンボリックな風景として一番に挙げるべきが富士山なのでしょうか。展示では富士山を描いた作品が多く登場します。細やかな点描で示された三保松原越しの富士の姿は雄大でした。
平井顕斎「白糸瀑布真景図」(全期間)
奇妙な構図を取る瀑布図です。真景と称しながらも、おそらく実際にはこうは見えないであろう白糸の滝の姿を描いています。まるで滝の解剖図のようでした。
曾我蕭白「松鶴山水図」(前期)
前期では2作の蕭白が展示されていますが、彼らしい作品ではやはりこちらです。何気ない山水画も蕭白の手にかかるとダイナミックなアニメーション風の表現へと転化しました。ちなみに本展の目玉の一つ、重文の「月夜山水図屏風」は後期に出品されます。
墨江武禅「月下山水図」(前期)
月を頂点にして連なる山々、川、そして松の生い茂る小道へと景色が流れるように続いています。ただし注目すべきは、まるで白抜きされたかのような表現技法です。まるで版画のようでした。
山本深川「宇津の山図屏風」(前期)
言うまでもなく伊勢物語に主題をとった作品です。今回のラインナップではむしろ琳派風の本作こそ異端なのかもしれません。
鈴木芙蓉「那智瀑泉真景図」(前期)
あの那智の滝が風にあおられて大きく反り返っています。滝の神々しいまでの迫力を伝えながらも、実際には起こりえない空想の景色が広がっていました。
土井有隣「西洋海浜風俗図屏風」(前期)
ヴェルネの銅版画がそのまま日本画へと変化しました。エキゾチックな表現の中にも海辺の情緒が確かに表されています。
伊藤若冲「石峰寺図」(前期)
前期の真打ちは最後に登場します。仁王門から繋がる仏の国が奇想天外に広がります。羅漢に成り済ましてかの国の旅を楽しみました。
若冲や蕭白などが素晴らしいのは言うまでもありませんが、今回の展示は知られざる奇想、言わば『ネオ奇想』にこそ見るべき点が多くあるのではないでしょうか。墨江武禅、鈴木芙蓉、土井有隣など、思わずあっと驚かされるような作品が何点か登場していました。
図録が動物絵画展よりも格段にパワーアップしています。なお購入希望の方は早めに出かけられた方が良いかもしれません。動物絵画展の図録は会期途中で早々に売り切れました。
会期を分けても観客に余計な金銭の手間を取らせません。一度の展示替えに有効なリピーター割引制度まで設けられています。2回目は何と半額の300円で入場可能です。これは嬉しい配慮でした。
毎度の如く東府中駅から徒歩で美術館へと向かいました。ワンコインのちゅうバスも悪くありませんが、今の季節は桜並木も美しい公園内を散歩するのも気分が良いものです。ゆっくり歩いても20分とかかりません。
しばらくは京王線で府中詣となりそうです。前期展示は4月12日まで開催されています。
*関連エントリ
「山水に遊ぶ - 江戸絵画の風景250年 - 」(後期B) 府中市美術館
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
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すてきにまとめられて目をみはります。
初日に友人と出かけましたが人もまばらで、もう独占状態でした。どれを見ても、ふぅーんと、でもいっぱい見落としたような気になって何回も行きそうです。
公園の桜を見ながら東府中へと帰るのもいいでしょうね。
>初日に友人と出かけましたが人もまばらで、もう独占状態
初日でしたか。実は私も二日目に行って参りました。
ゆったり見られるのは嬉しいですよね。
「石峰図」などは東博で出したら、大変な人だかりになってしまいそうです。
>公園の桜を見ながら東府中
しばらく足踏み状態でしたが、今週末こそ見頃でしょうね。
私も、墨江武禅「月下山水図」の奇想にしびれました。
画面に吸い寄せられてしまいました。
>墨江武禅「月下山水図」の奇想
まさに滑稽な作品でしたね。知らない絵師の作品の方がむしろ見逃せないのかもしれません。
後期も必見です!
観た後の余韻が他と違います。
実際の景色と描かれる景色との関係も興味深いです。
>実際の景色と描かれる景色との関係も興味深い
同感です。お馴染みの富士山から想像上の景色とバラエティに富んでいましたね。
ちょっとした旅行気分さえ味わえました。