「川瀬巴水 - 東京風景版画 - 」 江戸東京博物館(常設展内企画展示室)

江戸東京博物館 常設展示室5階第2企画展示室(墨田区横網1-4-1
「没後50年記念 川瀬巴水 - 東京風景版画 - 」
2/19-4/6



日本画の大作まで出品された馬込の巴水展には及ばないかもしれませんが、それでも東京をテーマとした巴水作品を、原画、試摺と網羅する形で楽しむことが出来ました。江戸博の常設展内(第2企画展示室)で開催中の川瀬巴水展です。

構成は以下の通りです。前半の1、2章に主要作品が並び、後半部は資料展示がメインとなっています。(4、5章の展示作品は数点です。)

1.川瀬巴水と東京風景:「東京十二題」、「東京十二ヶ月」。
2.川瀬巴水の版画と原画 - 東京二十景を中心に:「二十景」の原画、試摺、完成作の全てを展示。
3.川瀬巴水の活躍 - 資料展示:観光ポスター「JAPAN」や、版画制作過程を捉えた記録映像など。
4.広重の江戸、巴水の東京:「日本橋」(巴水)と「東都名所 日本橋魚市」(広重)。「昭和の広重」と呼ばれた巴水版画を広重と並べて紹介。
5.清親の東京、巴水の東京:影響を受けた清親と巴水。
6.巴水の戦後の東京:僅かに残る巴水の描いた戦後の東京。「歌舞伎座」など。
7.映画「版画に生きる」:巴水の記録映画「版画に生きる」(1953)の上映。約40分。



まず見入るのは前半部分、戦前の東京を描いた「東京十二題」、または「東京二十景」の揃う第1、2章です。「十二題」では、巴水版画と現在の風景写真が合わせて紹介(一部)され、また「二十景」では原画、試摺、完成品の全てが一点ずつ丁寧に展示されています。「十二題 駒形河岸」は、首都高の高架が横たわり、コンクリートで塗り固められた現在の光景からは想像もつかない、とある夏の日の叙情を巧みに捉えた名品です。実際、巴水は大戦後、その変わりゆく姿を受け付けなかったのか、手がけた約120点のうち僅か10点ほどしか東京を描いていませんが、叶わぬことであれ、今の姿を巴水が見たら何と言うのでしょうか。また、その賛否はともかく、日本橋から高架を撤去する運動の一種のシンボルに巴水の「日本橋」(ちらし左上の作品です。)が使われることがありますが、現在の一連の巴水再興の流れは、社会の一部におけるそうした復古的な方向とどこか重なり合っているのかもしれません。まさに古き良き東京を見ることが巴水の醍醐味です。

 
「明石町の雨後」(左上、完成作、右、原画、下、校合摺。)

この展覧会でとりわけ充実しているのは、やはり原画、試し、完成、そして時に校合摺までを見比べられる「東京十二題」の全点展示です。水彩の原画だけでも、巴水の類い稀な画力を感じるものですが、完成作と色味の異なった試摺にもまた別種の魅力がありました。そしてここで特に挙げたいのは、原画、校合摺、また完成作の三点の構図に大きな変化のある「明石町の雨後」です。完成作では、場から取り残されたような子犬が一匹、とても寂しく描かれていますが、原画では完成作で除かれた一人の和装の女性が船を見やりながら歩く姿が示されています。また「桜田門」も三点に変化の見られる作品です。原画では、あの底抜けに深い巴水ブルーに沈む桜田門がまさに闇に包まれていますが、試摺では差し込む光を水面に照らし出した城がその威容を明るく誇っています。それに変摺における、画面左上から垂れた枝葉も特徴的です。原画の深み、試しに見る透明感のある水の美しさ、また柳の垂れる幽玄な風情の変摺りと、三点にそれぞれに趣きが感じられました。

 
「桜田門」(左上、変りずり、右、原画、下、試摺。)

質量ともに充実したこれらの前半部分に比べると、巴水と広重や清親を見比べたを後半部はやや物足りなかったかもしれません。とはいえ、巴水コレクションでは定評のあるという江戸博ならではの巴水展だったと思います。東京に生まれ、そしてその地を描き続けた巴水による故郷東京への愛情を見る展覧会です。

4月6日までの開催です。もちろんおすすめします。
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