「第27回 損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階)
「第27回 損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」
3/1-30



いわゆる団体公募展へ行くことはまずありませんが、この奨励展は昨年も拝見しました。全国の推薦委員(30名)より推挙された作家(26名)と、「財団奨励賞」受賞者(55名)の平面、及び立体の近作が展示されています。

美術賞以下、各秀作賞受賞者については公式HPを参照していただくとして、ここではその賞云々ではなく、私の惹かれた作品をいくつか挙げていきたいと思います。まずは、ガラス瓶を重厚感のあるタッチでまとめあげた今林明子の「柔らかな皮膜を通して」です。モノトーンにまとめあげられた瓶がまるで影絵のようにして浮かび、そこに差し込む光と影とが、どこか微睡みの憂いをたたえながら朧げに揺らいでます。また色味に落ち着きがありながらも、全体がしっとりと濡れているようなマチエールにも魅力を感じました。

日本画では一点、大地へ横たわる女性をシュールに描いた森美樹の「慈雨」が印象的です。丁寧に塗り込まれた茶褐色の地面へ沈み込むかのようにして寝るのは、寂し気な面持ちを漂わしながら虚空を見つめる一人の女性です。地面からは小さな草が点々と生え、またその上には白んだ空が無限に広がっています。独得の寂寞感に心を打たれました。

コンピューターで描かれた画面を印刷し、そこに油彩を施したという遠藤良太郎の風景画も興味深く感じられます。まるで糸のように縮れた線と、それこそアクリルの質感を思わせるような鮮やかな色面が、例えば山奥の湖畔に広がる白樺林のような風景をポップな感覚で表していました。また、余白を大胆に用いたその緩やかな構成感も秀逸です。色と線との間から、かの土地の空気が流れてくるかのようでした。

立体では、抽象作品の多く並ぶ展示室の中で一際異彩を放っていた土井敬真の「想うこと」の存在感が特異です。本人、もしくは知人にモチーフをとるというほぼ等身大の木彫の若者がただ一人、ベンチを半分あけながらぼんやりと座っています。ジーンズにカジュアルなバックと、その格好からしてまさにどこでも見られるような日常そのものですが、バルケンホールを思わせる荒削りのタッチなどもなかなか見入るものがありました。ちょうど友人か彼女と待ち合わせをして、相方が遅れて来るというので何をするまでもなく待っている、とでも言えるような光景が示されているのかもしれません。何気ないふとした時に垣間見える、人の自然体の表情を巧みに示していました。思わず、その隣の空いたスペースに腰掛けたくなってしまいます。

今月末まで開催されています。
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