極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

フードファディズムか希少糖

2013年12月02日 | 医療健康術

 

 

【希少糖という国産知財】 

 単糖といえば、グルコースやフラクトースなど一般的なもののほかにも、プシコースやタ
ガトースなど多くの物質が存在する。しかし、その存在量は物質により大きく異なり、ごく
微量しか存在しないものも多い。自然界に少量しか存在しない単糖の価格は高く、例えばプ
シコースでは1グラム7万円で取引されるなど、非常に高価なものとなっている。この希少
糖とは、これら自然界にその存在量が少ない単糖とその誘導体を示すもの。現在、希少糖研
究の中心は香川大学が担い、希少糖の定義も2年ごとに香川大学で開催される国際希少糖学
会で2002年に定義されものだという。 

【百円の果糖が二千万円の希少糖に化ける】



 1991年のDTE(D-タガトース 3-エピメラーゼ:D-tagatose 3-epimerase)発見に端を発する
希少糖研究は、香川大学農学部何森(いずもり)健教授が酵素研究を初動させ、その後、D-
プシコースの生産技術、香川医科大学(当時)との連携で希少糖の生理機能研究へと発展す
る。その発見は偶然だった。約三十年にわたって希少糖の研究を続けてきた何森教授の研究
室での九一年のこと。キャンパスの土から分離した微生物を使って希少糖を作る実験をして
いたら、これまで見たこともない変わった物質が出現。そこで、安価な果糖(D―フラクト
ース)を希少糖(D―プシコース)に変える能力に着目し、この酵素でバイオリアクター(
生物反応器)をつくり、1994年D-プシコース生産に
成功、2001年には大量生産技術の成功、
基礎研究から実際の産業利用を目指した研究に発展。香川大学農学部と香川医科大学(現、
香川大学医学部)との連携により、D-アロースやD-プシコースの生理機能の研究が平行して
実施され、これらの物質において特徴的な生理機能の発見に至る。日本で使用されている希
少糖は、エリスリトール、キシリトールなどで、近年になって新たにD-プシコースなどが
わってきた。エリスリトール、キシリトールなどは天然の糖をもとに、酵母による醗酵や
還元反応を利用して工業的に作られた糖アルコールで、抗う蝕性、非う蝕性を持つ、あるい
はカロリーが少ない、甘味料や食品添加物として市販されている。

 いま、注目を集めているのがプシコースだが、その特徴は、外見的には原料の果糖と同じ
だが、分子構造がほんの少し違うだけで、性質は全く異なる。例えば、澱粉を糖化して糖化
液とし、グルコースイソメラーゼで処理して製造される異性化糖は、生産コストの安さから、
ソフトドリンクや他の飲料に甘味量として広く使用され、米国では800万トン以上消費さ
れている。代表的な方法では澱粉を酵素で加水分解してデキストリンとし、これを更に別の
酵素で加水分解してブドウ糖溶液、すなわち糖化液とする。この糖化液中にはブドウ糖の他
にオリゴ糖が若干含まれる。グルコースイソメラーゼによるブドウ糖の果糖への異性化反応
は平衡反応であり、異性化糖のグルコースとフラクトースとの比率は通常58:42程度で
ある。さらに、甘味不足を解消するために、精製フラクトースを添加する場合があるが、こ
の場合最終のグルコースとフラクトースとの比率は通常45:55程度。このように異性化
糖は、経済的メリットから広く使われているが、日本、米国などの先進国では、高血糖や過
体重(肥満)(「メタボリックシンドローム」)などの原因として疑われている。グルコー
スと比較してフラクトースの肝臓での代謝は脂質生成を促進しやすく、高脂血症や肥満を誘
導しやすいことから、果糖ブドウ糖液糖に含まれるフラクトース摂取量と肥満者(生活習慣
病)の増加の関連について注目されているものの、また、異性化糖の甘味度や甘味質は、広
く一般に使用されている砂糖に比べ、差が見られ、グルコースと果糖の比を変えることにな
どにより、砂糖の甘味度、甘味質に近づける工夫がされているが、満足のいくものは未だ得
られていない。

 一方、D-プシコースは、希少糖の一種であるが、D-フラクトースにD-ケトヘキソース・
3-エピメラーゼ(特許文献1)を作用させるとD-フラクトースから収率20~25%で生
成する。また、D-プシコース・3-エピメラーゼを使用した場合は、40%の収率でD-プ
シコースが生成し、ホウ酸を併用した場合には62%のD-プシコースが生成するとの報告が
ある。精製D-フラクトースの製造を行ってからD-プシコースの製造を行う場合、別々の工程
で行うため、原料、輸送、反応コストやプラント運営コストなどの制約を受け、現実的にD-
プシコースの工業的大量製造は困難を極める。
 また、D-プシコースは、ゼロキロカロリー、食後血糖抑制効果、抗肥満効果など生活習慣
病予防素材としての特質を示すことが明らかにされている。
 さらに、D-プシコースは砂糖の甘味度の70%程度であり、単独で甘味料として用いる場
合には、甘味度および甘味質共に砂糖とは異なっている。

再表2008/142860 砂糖様味質をもつ新規甘味料、その製造法および用途」(松谷化学工業
株式会社 他)の
本発明によると、広く食品業界で甘味料として使われている果糖ブドウ糖
液糖の第一の問題点、甘味度、甘味質ともに砂糖とは異なっていることを解決した、D-プ
シコースより砂糖の甘味度や味質に近い甘味をもち、また、第二の問題点、肥満などの生活
習慣病の原因を解決できる。この発明により、D-プシコースを含む甘味料でありながら低コ
ストでも作ることができる製造方法を提案している。加えて、甘味飲食物、医薬品もしくは
医薬部外品、化粧品への応用展開の道を切り拓いた。尚、エピメラーゼが、D-ケトヘキソ
ース・3-エピメラーゼもしくは、D-プシコース・3-エピメラーゼを用いる。



昨日10月19日に放送された「世界ふしぎ発見75分SP-遺伝と肥満のフシギ」の最後でプシ
コースという、やせる砂糖が紹介され、フードファディズム(思いこみによる過剰反応的な
食行動形態)な現象が起きているといわれている。肥満抑制機構は、ブドウ糖など異なりプ
シコースなどが体内吸収が悪い(※糖吸収孔部を何らかの理由で閉塞するというが、いまい
ち、理解できていない)ことによる。肥満予防の処方箋の最適化という意味では、選択肢は
広いが、健康志向甘味料として世界市場での普及定着には有用だと言えるのではないだろう
か?如何に!

 

※小腸の上皮細胞の毛細血管側には、ナトリウムポンプ(sodium-potassium pump)があり、
細胞内からナトリウムイオンを汲み出している。そのため細胞内のナトリウムイオン濃度は
低く保たれていてさらに、小腸の上皮細胞の管腔側には、SGLT(ナトリウム依存性グルコー
ス共輸送体)というナトリウムの濃度勾配に応じてナトリウムを取
り込むトランスポーターが
存在する。が、ナトリウム単体で取り込むのではなく、グルコースやガラクトースも一緒に
取り込み、細胞内のグルコース濃度が高くてもナトリウムイオン勾配により細胞内へグルコ
ースを輸送する。細胞内から毛細血管へは、GLUT2を介し 毛細血管側へ輸送される。GLUT2
(glucose transporter)は濃度勾配に応じて輸送する受動輸送を担う。

※「国際特許03/097820|希少糖の生理活性作用の利用方法および希少糖を配合した組成物」
の「実施例12|ケトヘキソースの血糖降下に関連する作用」の実験4で、「グルコースの
吸収に与えるD-プシコースの影響を調べるためにラットの腸管を用いてD-プシコースの
吸収に及ぼす影響を解析した。グルコースの吸収はグルコースオキシダーゼ法による定量法
により腸管粘膜を隔てて外部と内部の濃度を測定することで解析する。D-プシコースがグ
ルコースと併存することでグルコースの吸収がどのように変化するかを測定する。またD-
プシコースを長期間投与したラットの腸管を用いて、同様に糖の吸収系がどのように変化す
るかを解析する。グルコースを含む緩衝液中に、図30に示すように、ラット反転腸管を浸
漬し、一定時間後に漿膜側の溶液をサンプリングしグルコース濃度を測定する。種々の濃度
のD-プシコースを添加することによって、粘膜側から漿膜側へのグルコースの輸送に与え
るD-プシコースの影響について検討し、結果を図31に示した。この結果、ラット反転腸
管にグルコースと同濃度のD-プシコースを加えておくと、漿膜側のグルコース濃度の上昇
が有意に抑制された。D-プシコースの添加が、グルコースの輸送系に影響を与えている可
能性が示唆された。以上の結果より、希少糖に属するケトヘキソースは、膵β細胞からのイ
ンスリン分泌を刺激することが判明し」と記載されているだけである。



 




【ドライブ・マイ・カー】 

 

 

  彼の所属する事務所が、給与支払いのための正式の書式を必要としていたので、みさ
 きに現住所と本籍地と生年月
日と運転免許証番号を書いてもらった。彼女は北区赤羽の
 アパートに住んでおり、本籍地は北海道中頓別町、二十四歳になったばかりだった。中
 頓別町というのが北海道のど
のへんにあるのか、家福には見当もつかない。しかし二十
 四歳というところが胸にひっかかった。
  家福には三日だけ生きた子供がいた。女の子だったが、三日目の夜中に病院の保育室
 で死んだ。前触れもなく突
然、心臓が動きを止めてしまったのだ。夜が明けたとき、
 ん坊は既に死亡していた。心臓の弁に生まれつき問題が
あったというのが病院側の説明
 だった。しかしそんなこと
はこちらで確かめようもない。また本当の原因がわかった
  ころで、それで子供が生き返るわけでもない。幸か不幸
か、名前はまだ決めていなかっ
 た。その子が生きていれば
ちょうど二十四歳になる。その名前のない子の誕生日に、
 福はいつも一人で手を合わせた。そして生きていればな
っていたはずの年齢を思った。
  子供をそんな風に唐突に失ったことで、二人はもちろん深く傷ついた。そこに生じた
 空白は重く、暗かった。気持ちを立て直すまでに長い期間が必要だった。二人は家の中
 にこもり、多くの時間をほとんど無言のうちに送った。口を開けば、何かつまらないこ
 とを言ってしまいそうだったからだ。彼女はワインをよく飲むようになった。彼はしば
 らくのあいだ、異様なほど熱心に書道に凝っていた。真っ白な紙の上に黒々と筆を走ら
 せ、様々な漢字を書いていると、自分の心の仕組みが透けて見えてくるようだった。
  しかしお互いを支え合うことで、二人は少しずつ傷の痛みから回復し、その危うい時
 期を乗り越えることができた。そして以前より深く、それぞれの仕事に集中するように
 なった。彼らは貪欲なまでに、自分たちが与えられた役柄の役作りにのめり込んだ。「
 悪いけれどもう子供は作りたくないの」と彼女は言って、彼もそれに同意した。わかっ
 た、もう子供は作らないようにしよう。君がいいと思うようにすればいい。
  思い起こしてみれば、妻がほかの男と性的関係を持つようになったのは、そのあとか
 らだった。あるいは子供を失ったことが、彼女の中にそういう欲求を目覚めさせたのか
 もしれない。しかしそれはあくまで彼の憶測に過ぎない。
 かもしれないというだけのことだ。




 「ひとつ質問していいですか?」とみさきが言った。
  考え事をしながらぼんやりまわりの風景を眺めていた家福は、驚いて彼女の顔を見た。
  ニケ月ほど一緒に長く車に乗っていて、みさきが自分の方から口をきくことはきわめ
 て希だったからだ。
 「もちろん」と家福は言った。

 「家福さんはどうして俳優になったんですか?」
 「大学生の時、女友だちに誘われて学生劇団に入った。演劇にもともと興味があったわ
 けじゃない。本当は野球部に入りたかったんだ。高校時代にはレギュラーのショートス
 トップで、守備には自信があった。でも入った大学の野球部は、僕にはいささかレベル
 が高すぎた。だからまあちょっと試しにやってみようというくらいの軽い気持ちで、劇
 団に入ったんだ。その女友だちと一緒にいたいということもあったしね。でもしばらく
 やっているうちに、自分が演技を楽しんでいることがだんだんわかってきた。演技をし
 ていると、自分以外のものになることができる。そしてそれが終わると、また自分自身
 に戻れる。それが嬉しかった」
 「自分以外のものになれると嬉しいですか?」
  「また元に戻れるとわかっていればね」
 「元にに戻りたくないと思ったことってないですか?」
  家福はそれについて考えた。そんな質問をされたのは初めてだ。道路は渋滞していた。
 彼らは首都高速道路で竹橋の出口に向かっているところだった。
 「だって他に戻るところもないだろう」と家福は言った。
  みさきはそれについて意見を述べなかった。

 

                        村上春樹 『ドライブ・マイ・カー』
                          文藝春秋 2013年12月号掲載中



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