アフガン・イラク・北朝鮮と日本

黙って野垂れ死ぬな やられたらやり返せ 万国のプレカリアート団結せよ!

業務改善が革命にまで発展する時

2017年01月15日 20時18分21秒 | 映画・文化批評

  

 さる1月11日(水)に、大阪・西区九条のシネ・ヌーヴォという映画館で、「チリの闘い」という映画を観てきました。

 この映画は三部作で、全編通して観るには半日は優にかかります。しかも、各部入れ替え制で、一部観る毎に通常なら1800円もチケット代を払わなければなりません。私はこの手のマイナーなドキュメンタリー映画が好きで、気が向いたら不定期に観に行ったりするのですが、普段なら観てもせいぜい一部止まりです。しかし、この映画館では私の公休日の水曜日がサービスデーに当たっており、通常なら全編観ると5400円もする所を3300円と、2千円以上も安く観れる事が分かりました。上映時間も通しで観れば夕方には観終える事が出来ます。「こんなチャンスは滅多にない!これは絶対観るしかない!」という事で、三部とも一気に観てきました。

 この映画は、南米チリのアジェンデ社会主義政権が、右翼のテロで行き詰まり、軍部の反革命クーデターで崩壊するまでの、数か月間のチリ国内の様子を捉えたドキュメンタリー映画です。映画監督のパトリシオ・グスマンも一度は軍事政権に捕らえられますが、やがて貴重な映像フィルムと一緒に国外脱出に成功します。そのお陰で、私も当時の映像を観る事が出来るのです。但し、その陰では、映画撮影者のホルヘ・ミューラー・シルバが、撮影中に兵士の放った凶弾に撃たれて亡くなっています。

 南米のチリは、アンデス山脈の西側にある細長い国で、日本では地震の多い国として知られています。最近ではチリ・ワインでも有名ですね。銅・硝石などの鉱物資源が豊富な事でも知られています。しかし、その世界的な鉱山を含め、経済の実権は米国系の外国資本や国内の財閥・大地主に握られ、多くの国民は貧しい暮らしを強いられていました。

 そのチリで、1970年に大統領選挙で初めて、社会主義を掲げる左派のサルバドール・アジェンデが大統領に当選し、鉱山国有化や農地改革などの政策を推し進めます。それまでは、社会主義政権といえば、ロシア・中国・キューバを始め、武力による革命で政権を取った国がほとんどでした。その中で、チリでは武力によらず選挙によって初めて革命政権を樹立できたという事で、世界から注目されました。

 しかし、それを快く思わない米国は、政権成立直後から、CIAなどの諜報組織を使って、破壊工作に乗り出します。

 米国がまず始めたのが野党の懐柔です。左派・人民連合のアジェンデが大統領に当選できたのも、右派の野党が強硬派の国民党と穏健派のキリスト教民主党に分裂し、穏健派の後者が前者の強硬姿勢を嫌って、決戦投票でアジェンデ支持に回ったからです。政権基盤は必ずしも盤石ではありませんでした。そのキリスト教民主党を政権から引きはがす事にまず成功します。

 そして、左派が政権を取ったと言っても、経済は依然として米国系企業や国内の財閥・大地主が支配しています。マスコミも企業寄りです。経営者も財閥の端くれなのだから当然です。それらが、CIAから資金援助を得て、一斉に政府批判を始めました。批判といえば聞こえは良いですが、要はただの揚げ足取りです。今まで散々、労働者のストを弾圧してきたトラック業者やバス業者が、政権が左派に変わった途端に、一転して労働者にストをけしかけ始めたのですから、もう笑止千万です。そうやって、自分たちの方から経済混乱を引き起こしておきながら、その責任を全てアジェンデ政権に擦り付けたのです。チリ経済を支える銅鉱山では、労働者の中では比較的高給の鉱夫に、鉱山主が更なる賃上げをけしかける事までしました。主力鉱山の一つエル・テニエンテでは、それに煽られ組合集会でスト突入決議に至ります。しかし、もう一つの主力鉱山であるチュキカマタでは、スト突入提案が否決されています。労働者も、必ずしも資本家の扇動に乗せられる一方ではなかったのです。それが「チリの闘い」第一部「ブルジョワジーの叛乱」のあらすじです。

 そのような米国や国内反動勢力が引き起こした経済混乱にも関わらず、1973年3月の総選挙では、左派の人民連合は、得票は減らしこそすれ、引き続き第一党を維持します。右派は、大統領弾劾に必要な3分の2の議席獲得に失敗します。右派は、その後、選挙闘争から、ストやデモ、テロ扇動などの過激な街頭闘争に、戦術を次第にエスカレートさせていきます。軍部の中でも、右派と気脈を通じる勢力が次第に勢いを増し、中立派の軍将校を罷免や暗殺で追い出し、6月にはクーデター未遂事件まで起こします。

 この最初のクーデターは未遂に終わりましたが、右派にとってはホンの予行演習に過ぎませんでした。末端の兵士や下士官がクーデターに同調せず、労働者や市民の反対が急速に広まった事で、右派は、クーデターはまだ時期尚早と判断したに過ぎなかったのです。本番のクーデターが起こるのは、もはや時間の問題と思われていました。このように、右派が着実に勢力を強める一方で、人民連合に参加する左派は、穏健派の共産党と急進派の社会党や革命左翼運動(MIR)に分かれ、互いに相手をののしり合っていました。何か、安保法制反対で足並み揃える前の日本の左翼と、よく似ていますね。

 その中で、一時は左派支持に回ったキリスト教民主党などの穏健保守派や中産階級が、ついに右派の側につきます。穏健保守派や中産階級が自分たちの支持に回った事で、右派はいよいよ本番のクーデターを決行します。それが1973年9月11日です。一般に「911」と言えば、2001年9月11日にニューヨークで起こった同時多発テロの事を指します。イスラム過激派に乗っ取られた航空機がWTCビルに突っ込む映像が全世界に流されたので、覚えている人も多いのではないでしょうか。ところが、中南米では、「911」と言えば、1973年のアジェンデ政権打倒のクーデターを指します。港湾都市バルパライソで始まったクーデターが首都のサンチャゴにも波及し、大統領は亡命か辞任を迫られます。この時、大統領に辞任を迫ったのが、最初のクーデターの時には猫をかぶっていたアウグスト・ピノチェト将軍です。大統領は辞任を拒否し、少数の民兵と共に、大統領宮殿に立てこもります。サンチャゴ市内やその他の主な都市は、既にクーデター派が全権を掌握しています。空軍機が大統領宮殿を爆撃する中で、大統領は最後まで戦った末に、拳銃で自殺したと言われています。アジェンデ大統領による当日朝の最後の国民向けメッセージが、ユーチューブに字幕付きで公開されているので、興味のある方はそちらをご覧下さい。ここまでが、第二部「クーデター」のあらすじです。

 しかし、労働者も、ただ黙って右派の蛮行に手をこまねいていた訳ではありませんでした。運輸業者がトラックやバスをストップさせると、労働者は自分でトラックやバス、自家用車まで仕立てて、何とか生活物資や通勤客の輸送を確保しようとします。数少ないバスに群がる通勤客の姿が、映画の中でも度々登場します。経営者による買い占めに対しても、配給・統制委員会を自発的に組織し、買い占め物資の摘発や自分たちで商店を経営する「人民の店」を立ち上げ、暴利をむさぼる闇市場に対抗します。「人民の店」というのは、いわば生協のようなものでしょうか。鉱山ストに際しても、6割の労働者がストには加わらず、残業で何とか操業を維持しようとします。地域労働者連絡会を立ち上げて、人手不足に陥った職場には、会社の枠を超えて労働者が応援に駆け付けます。何故、労働者がそこまで頑張れるのか?その答えは、「今までは人間扱いされて来なかった。アジェンデが大統領になって、我々も初めて人間扱いされるようになった」という、貧しい労働者の声に現れています。これが第三部「民衆の力」のあらすじです。映画監督が最も強調したかったのも、ひょっとしたら、この第三部ではないでしょうか。

 ピノチェトのクーデターで何千、何万という野党や労働組合の活動家、音楽家、ノーベル賞作家などが、クーデターの中で暗殺され、あるいは軍隊に拉致されたまま行方不明になりました。数年も経ってから、暗殺されたり行方不明になった人の遺体が、墓地の中から大量に出てきたりしました。軍事政権が進める規制緩和で、路頭に迷う人が続出し、失業率も物価もうなぎ上りになります。それでも、どんなに深い夜でも明けない夜はありません。ピノチェト政権末期には、アジェンデ政権末期にも勝るとも劣らない経済混乱が、全国に広がります。それを見て、今まで軍事政権を支えて来た米国も、ついに見切りをつけます。米国にも見放されたピノチェト大統領は、1988年に国民投票で不信任を突きつけられ、とうとう辞任に追い込まれます。そうして、2006年に誰にも看取られずに寂しく死んでいきます。虐殺の実行犯として裁かれなかった事が、彼にとっては唯一の救いであり、弾圧犠牲者にとっては歴史に残る汚点として、その後も長く記録される事になりました。

 私がこの映画で注目したのも、第三部での労働者の頑張りです。だって、資本家がストをけしかけ、労働者が「それではいけない、仕事しよう」と応じるなんて、普段の私の感覚からすれば、全く逆じゃないですか。でも、「自分は一体何の為に仕事をしているのか?単に、自分や家族の為だけでなく、人間らしい社会を作って、もっとより良い国にしていかなければならない。その為に頑張るのだ」と、労働者が本当に自覚する事が出来れば、こんな「奇跡」も起こり得る事が、チリの歴史で証明されたのです。

 翻って、今の日本ではどうか。別に軍事政権に弾圧された訳でもないのに、アベノミクスなるバブル景気に酔いしれて、大企業正社員の自分の給料さえ上がれば良い、東京などの大都市さえ潤えばそれで良い、地方の農民や非正規労働者、原発事故に苦しむ福島や基地被害に泣く沖縄住民の事なんかどうでも良いとばかりに、選挙にも行かず、行っても、ただムードだけで自民党や維新の党に投票する輩の、何と多い事か。御用マスコミの垂れ流す宣伝だけを鵜呑みにし、安倍政権も何か胡散臭いけど、北朝鮮のミサイルも怖いからと、よく分からずに自民党を支持するグータラ社畜の何と多い事か。上司や上役には何も言えず、バイトに当たり散らすしか能がなかった誰かさんを筆頭に。

 私が、日頃職場で進めている業務改善も、単なる小手先の「改良」で終わるのではなく、そんな社員の怠慢や奴隷根性まで一掃する契機にする事が出来れば、どんなに素晴らしい事かと思います。

映画 『チリの闘い』 予告編
 

アジェンデ 最後の演説 チリ・クーデター (日本語字幕付) Salvador Allende ultimo discurso

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